「今度こそ、金メダル」――昨年のリオデジャネイロ・パラリンピック銀メダリスト、佐藤友祈(ともき/GROP SINCERITE WORLD-AC)は有言実行のアスリートだ。ライバルであり目標だったレイモンド・マーティン(左)に勝ち、150…

「今度こそ、金メダル」――昨年のリオデジャネイロ・パラリンピック銀メダリスト、佐藤友祈(ともき/GROP SINCERITE WORLD-AC)は有言実行のアスリートだ。



ライバルであり目標だったレイモンド・マーティン(左)に勝ち、1500mの表彰式で笑顔の佐藤友祈(中央)。銅メダルは上与那原寛和(右)

 7月14日からイギリス・ロンドンで開催されているパラ陸上の世界選手権(23日まで)。大会5日目の18日、T52(車いす)クラスの佐藤が400mを制し、16日の1500mと合わせ、狙っていた金メダルを2つ、しっかりとつかんだ。両種目とも、リオパラリンピックの金メダリスト、レイモンド・マーティン(アメリカ)と競り合った末の勝利。記録もそれぞれ56秒78、3分45秒89と、ともに大会新記録。圧巻の走りを披露した。

「リオで負けたマーティン選手に勝てて、うれしい」

 400mレースは午前中に行なわれた予選から激しいつば迫り合いを演じた。1組目の佐藤が大会新記録をマークすると、2組目のマーティンがすかさず塗り替え、予選1位で決勝へ。佐藤は、「いい走りができたと思ったんですが……。全体の1位で予選通過したかった。決勝でリベンジできたら」と意気込んだ。

 迎えた決勝では、マーティンが定評あるスタートダッシュで飛び出し、佐藤が後から追った。200mでマーティンを捉え後ろにつけると、ホームストレートに入ってから自ら仕掛けてラストスパート。全力を振り絞り、ひと漕ぎ、ひと漕ぎを大きく、残り50mで一気に抜き去ると、そのままゴールに飛び込んだ。

「スタートで出遅れてきつかったが、リオのときより早い地点でマーティン選手を捉えることができた。とにかく全力で漕ぎ続けた」とレースを振り返った佐藤の表情は充実感に満ちていた。

 前々日の1500mレースも、先行したマーティンを佐藤が追う展開だった。佐藤は手にも障害があり、スタートでの加速が課題で、リオではマーティンの爆発力に屈した。リオ以降、佐藤はスタートダッシュを第一の課題に挙げ、この10カ月、必死に強化をはかってきた。

 その成果が狙ったレースで現れた。リオでは先行するマーティンを捉えたのは600~700mあたりだったが、今回は約300m地点。タイミングを図りながら、残り1周でギアを変え、先頭に立つと、追いすがるマーティンを置き去りにしてフィニッシュした。

「マーティン選手に勝つことができてうれしい。彼がスタートから逃げることは分かっていた。松永(仁志)監督と立てた『300m地点で捉えよう』というレースプランを達成できたことが勝因」と胸を張った。後半の伸びに絶対の自信を持つ佐藤にとって、ロングスパートは望む展開だ。400mも1500mも持ち味を存分に生かした圧勝だった。

 とはいえ、初戦となった1500m決勝のスタートラインでは、「緊張と不安で押しつぶされそうだった」と明かした佐藤。日曜夜のレースで、大観衆で埋まったロンドンスタジアムは、車いすアスリート、佐藤の原点とも言える場所だったからだ。

 1989年生まれの佐藤は21歳のとき、突然の病で車いす生活になった。失意のなかにあった2012年、テレビでロンドンパラリンピックを観戦。風を切って疾走するアスリートたちの姿に、佐藤の心が動いた。

「4年後に、僕もあの舞台に立つ」

 そうして始まった佐藤の競技人生。よりよい練習環境を求め、岡山に移住し、松永に師事して4年。有言実行で見事、リオパラリンピックに初出場。銀メダル2個を手に、今年は自身を新たな世界へと導いた憧れのロンドンスタジアムに、6年越しで立った。

 今を遡ること2年。2015年秋、佐藤にとって初の国際大会となったのが、 パラ陸上世界選手権ドーハ大会で、400mで金メダル、1500mで銅メダルを手にし、一躍「リオパラのエース候補」に名乗りを挙げた。

 当時はまだ、本格的な競技を始めて約3年。強化指定選手になったばかりのタイミングでの国際大会制覇で、翌年に迫ったリオパラリンピックに向け、彗星のごとく現れた有望新人が佐藤だった。

 ただ、ドーハ大会には、当時世界一のマーティンは不参加だった。「1年後のリオパラリンピックでマーティンを倒して金メダル」。佐藤は再び、大きな目標を掲げてリオ大会に挑む。しかし、結果は王者マーティンに2種目とも敗れ、銀メダル。パラリンピック初出場での2つの銀獲得を周囲は称えたが、佐藤ひとり「金メダルを目指していたので、悔しい」と、決して満足することはなかった。

「打倒マーティン」を胸に刻み、リオから帰国後すると、すぐに練習復帰。松永監督の指導を仰ぎながら、より厳しくなった練習メニューを一つひとつ確実にこなしてきた。おかげで、今年5月の米国遠征ではマーティンと再戦して見事にリベンジ。アメリカで得た自信が、今大会の快走につながったことは間違いない。

 今、佐藤が見つめるのはただひとつ、3年後の東京パラリンピックでの金メダルだ。

「今日の金メダルは東京につながる一歩」

 数々の有言実行を達成してきた佐藤だからこそ、その言葉には重みがある。そんな佐藤が、ロンドンでの快挙の要因に挙げたのは、「周囲からの応援すべて」。監督の松永、練習パートナーでもある生馬知季らに感謝する。佐藤のポテンシャルに気づき、指導してきた松永は、愛弟子の2冠獲得に、「やりますね」と目を細めた。

 2年前のドーハではマーティン不在での金と銅、昨年のリオパラはマーティンに敗れての2つの銀。今大会はライバルとの直接対決でつかんだ2冠。堂々の世界王者となった気分を聞かれた佐藤は、「世界記録はマーティンが持っているので、完全には世界王者とは思っていない。まだまだこれからです」

 タイトルに記録を備えた、真の王者へ――。有言実行の佐藤なら、きっと鮮やかに達成してみせるに違いない。