高校サッカー部の同級生で作ったフットサルチームで公式リーグに参戦し、その後破竹の勢いで躍進を続け、Fリーグに。そんな漫画のような軌跡を残してきたフットサルチーム、「フウガドールすみだ(以下、フウガ)」をご存知でしょうか? これまで結果を残…
高校サッカー部の同級生で作ったフットサルチームで公式リーグに参戦し、その後破竹の勢いで躍進を続け、Fリーグに。そんな漫画のような軌跡を残してきたフットサルチーム、「フウガドールすみだ(以下、フウガ)」をご存知でしょうか?
これまで結果を残してきた大きな要因の一つとして、創設期からチームを指揮する須賀雄大(すが・たけひろ)監督の存在があります。チームが初めて公式リーグに参戦したのは今から15年も前の2002年のこと。しかし、不思議なことに創設期から続くファミリーのような一体感は現在のチームにも変わらず継承され続けています。
フットサル界随一の若き指揮官と評される須賀監督が考える「チームワーク」や「組織作り」には、ビジネスパーソンにとってもヒントになるものが多くありました。リーグ屈指の一体感を生み出しながら、勝利に導く秘訣はどんなところにあるのでしょうか?
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『森のくまさん』からトップリーグへ
――フウガはFリーグに参入して今季で4年目。まずは改めてチームの成り立ちから振り返っていきたいと思います。今でこそ下部組織や女子チームもでき、墨田区を拠点とする大規模なクラブチームになっていますが、もともとは須賀監督の高校の同級生たちで作ったチームだそうですね。
そうですね。暁星高校サッカー部を引退した後に、当時日本で広まり始めていたフットサルを「ちょっと、おもしろそうだしやってみない?」と、初めは軽いノリで始めたんです。日曜日に街のフットサルコートで開催されていた大会に出たりしていましたね。当時のチーム名は『森のくまさん』でした。
――その時点では後に日本屈指のフットサルチームになるとは想像もつきませんね(笑)。
「何かおもしろいこと、熱いことをやろう」みたいな雰囲気のあるチームではありましたね。その後、「どうせやるなら上を目指そう」という話になり、同学年の都立駒場高校サッカー部 OB が立ち上げた『BOTSWANA』(以下、 ボツワナ)というチームと合流する形でオフィシャルなリーグに参加しました。
--当時から新進気鋭の若いチームとして注目を集めていました。ピッチの選手もベンチもよく声が出ていて、よく走って球際で戦うひたむきなチームという印象があります。その後、社会人になってからも仕事とフットサルを両立し、2005年に関東フットサルリーグに昇格しました。全国リーグがなかった当時のトップリーグに辿り着いたわけですが、2007年にFリーグが開幕。有料試合に数千人の観客が入るようになり、フットサルを取り巻く環境がそれまでとは大きく変わりましたね。
そうですね。一度はトップリーグに辿り着いたのですが、さらにその上ができたんです。しかもサッカーでいうところのJリーグということで、「俺らどうする?」って話になって。メンバーみんなで話した結果、「やっぱやるからにはFを目指そうよ」という話になりました。
--それから2年後の2009年、関東リーグ所属でありながらサッカーでいうところの天皇杯にあたる全日本フットサル選手権を制覇してしまいました。特に名古屋オーシャンズとの決勝戦は今でも日本フットサル史上屈指の名勝負として語り継がれています。
いまだにいろいろな方から「あの試合はすごかった」と言っていただける試合です。「プロチームである名古屋を倒して日本一になる」というのは当時の自分たちにとっては絵空事のような目標だったのですが、チーム全員が力を合わせることで何とか達成することができました。昔から「そんなの普通無理だろ」って思われることに対して「でももしそれができたらおもしろくない?」という、挑戦を楽しむ姿勢を持ったチームだったのですが、名古屋に勝ったことで「絶対無理だと思うような目標を実際に達成する」という成功体験ができました。チームにとって大きな自信になったと思います。
--Fリーグチームを倒して日本一になったとなればいよいよFリーグ参入が現実味を帯びてくると思うのですが、その後もなかなか参入が決まりませんでした。Fリーグでは毎年必ず参入のチャンスがあるわけではないですし、むしろ次にどのタイミングで新チームの募集があるかも分からないわけですよね?2007年に8チームで開幕したものの、最大何チームになるのかも、さらには2部リーグができる予定があるのかもまったく未知数な中でそこを目指すというのは、ある意味ではサッカーでJリーグを目指すよりも先が見えない道のりだったのではないでしょうか。
そうですね。確かに、Jリーグを目指すサッカークラブのように、スタジアムなどハード面の条件をクリアした上でリーグを勝ち上がれば必ず昇格できるというわけではないので。本当に目標を達成できるのかがまったく未知数で、近づいたと思ったら離れていく、まるで雲を掴むような話でした。さらには「東京都にはすでに2チームあるから参入できないかもしれない」という、自分たちにはどうしようもない理由と直面して「じゃあどうすれば良いんだ」という状態でした。でも、2009年に全日本選手権を制覇したようなインパクトのある実績を積んでいけば、いずれ「何であいつらを入れないんだ?」となるはずだと思ったので、信じてやり続けました。環境のせいにするのは簡単なので、できるだけ自分たちに向けるようにして、その時やれることをやり切るということを考えて活動していましたね。先が見えない状況にチームを離れていった選手ももちろんいました。だけど残って一緒に戦い続けてくれた選手もいたので、そういう選手たちのためにも早くFリーグに上がりたいと思っていました。
継承されるアイデンティティ
--Fリーグ発足から6年目の2014年、フウガはついにFリーグ参入を果たしました。墨田区総合体育館はいつも多くのお客さんで埋まりますし、今やリーグでも屈指の人気チームになっていますね。ただ一方で、同級生で立ち上げた当初とは比べ物にならないほど組織が大きくなりました。普通であれば創設期のチームの雰囲気とはガラリと変わってしまってもおかしくないと思うのですが、当時を知らないはずの若い選手たちのひたむきなプレーに不思議とボツワナ時代の面影を見ることができます。よく声を出して、みんなで盛り上げて、全員でよく走る。組織が大きくなり選手が入れ替わった今でも、フウガらしさはしっかりと継承されています。
チームの創設メンバーで一昨年までトップチームでプレーしていた金川武司がトップやバッファローズ(サテライト)、U-15といったカテゴリーでコーチをしているように、チームのアイデンティティ、精神性を深く理解しているスタッフがクラブ内の各所にいるのが大きいのかなと思います。例えば、今のクラブのスタイルやチームの戦い方について「それはフウガらしくないんじゃないか」って金川とかが言ってくれることで軌道修正していくことができるんです。「目先の順位にこだわり過ぎてクラブの精神性が無くなるんじゃないか」、逆に「この強化はしてもクラブのアイデンティティは変わらないと思う」といったことを言い合える関係性があることで、ちゃんとお互いを監視できているのはあると思います。きちんとアイデンティティを持っているからこそ、お互いに同じ軸を持った上で話し合うことができる。そういう組織ではあるのかなと思いますね。人間なのでいろいろな角度から物を見ようと思っても、どうしても主観になってしまうことはあるので、それが難しくなったときにお互いに冷静に見られる。そういうスタッフがいることはすごく大きいと思います。
――チームの強化策についても、ただ単純に最も強くなる方法を選ぼうとするのではなく、クラブのアイデンティティと合致するか否かも含めて考えるということですね。
そうですね。もともと楽しもう・楽しませようというシンプルで本質的なものを追求してきたつもりなのですが、Fリーグに上がった今も昔と変わらずにそこは常に追求しています。目先の試合にただ勝てば良い、強ければ良いのではなくて、集団としても自慢できる、周りから羨ましがられるような集団でいたい。そういうチームで試合に勝ちたいと思っています。
――ただ単純に上手いだけではダメだと。
はい。実際、「例えどんなに上手くても、淡々とプレーしているだけではお客さんはお金を払いたいと思わないよ」と選手に伝えたこともあります。「もっとチームが盛り上がる声を出そう!」とか、「もっと自分の中にある気持ちを試合に出していこう!」とか、選手に対してそういう姿勢は常に求めていますね。
――普通は競技レベルを重点的に見られるものだと思いますが、フウガの場合はチームの雰囲気を盛り上げられるとか、組織に対してどういう影響を与えられる人間かということも重要な評価ポイントなんですね。確かにベンチの選手たちの盛り上がり方とかを見ていると、チーム発足当初の学生ノリが残っている感じにも見えます。
確かに学生ノリってよく言っていただくんですけど、学生時代って一番楽しい時じゃないですか?そもそもフットボールを楽しもうと言うのなら学生ノリは全然悪いことじゃないし、ある意味一番純粋に楽しんでいた頃だから、そういう気持ちを持つのは大事かなと思っているんですよね。やっぱり楽しいからフットサルをするわけで、おもしろいかおもしろくないかが9割だと思うので。実際、プレーする側が心からその試合を楽しんでいるからこそ生み出せる空気感ってあると思うし、全日本選手権で優勝したときだって、「Fリーグチャンピオンに勝って優勝したらすごくない?おもしろくない?」っていうワクワク感を持ってプレーできたからこそああいう劇的な試合ができたんじゃないかと思うんです。お客さんも漫画のような展開とか、そういうのを求めている人は多いと思うし、試合を冷静に分析しながら観るタイプの人でも、そういう展開には心躍ると思うんですよね。「こいつらなら何かやってくれそう」という期待感を抱かせるような集団でありたいと思います。
――観ている人たちに、何かに夢中になって打ち込んでいた頃の気持ちを思い起こさせるところはあるのかもしれないですね。
やっぱり観に来てくれたお客さんに楽しんでもらいたいし、そのためにはまず自分たちが試合を楽しんでいないと楽しませられるわけがないと思うんです。そういう考えに共感してくれる選手もいるし、その上でうちのクラブでプレーしたいという意欲がある、うちの価値観をおもしろいと思ってくれる選手に対しては最大限の敬意を払いたいですね。このクラブでトライしたいという意欲がある選手というのはそれだけで僕らにとっては財産なので、そういう選手たちと優勝する、優勝を目指すことに意味があるんじゃないかと。それはスタッフも同じで、うちのスタッフで普通に就職活動をして入って来た人間は1人もいないんです。もともとうちのファンで、縁あってボランティアでHP(ホームページ)の管理を手伝ってくれていた方が後に入社したり、学生スタッフをしてくれていた人が卒業後に別の会社で働いてからうちに戻って来てくれたり。お金を稼ごうと思ったらうちよりもお給料の良い会社なんて山ほどあるはずなのに、みんなそれ以外に何かしらの価値を感じてくれているからこそこのクラブで働いてくれているんだと思います。
「いや、それは無理でしょ」と言われるようなことに挑む集団でないといけない
――Fリーグでプレーする環境を手に入れて4年目となった今、現状に満足してしまうことはないのでしょうか?
「フウガは(リーグ5位以内のチームに出場権がある)プレーオフに毎回出るし、全日本選手権でも毎回良いところまで行くよね」っていう評価を受けたとして、例えばそこが自分たちの一番居心地の良い場所になってしまったらもう終わっちゃうと思いますね。
――成長が止まってしまうと。
そうですね。ひた向きさも失われてしまうかもしれないです。今は多くの方々のお陰ですごく幸せな環境でプレーさせていただいていますが、かといって変に慣れてしまってはいけないですね。もちろんそこに、い続ける(今できることをキープしていく)のは1つの目標ではあるけれども、常に先を見ないといけないと思っています。けどそれと同時に、意識を高く持とうとするあまり「こんなんじゃダメだ」と過度にストイックになり過ぎるのもダメで、実際満足感を得るのも大事なことです。僕は自分のチームに対しての評価は適正にしていきたいと思っているので、ホームアリーナでああいう空間を作れていることは1つの自信になると感じていますし、昨季で言えばホームの集客が増えたのも良かったことです。客観的に見ても評価に値する点だと思います。現状に満足してしまってはいけないけど、一方で客観的に見て良かった部分は素直に良かったと評価するようにしています。自分たちが達成できた目標と、できなかった目標、長期的な目標というのを常に見ていくことが大事だと思います。
――その「長期的な目標」は具体的に何かあるのですか?
僕らは「2028年アジア選手権優勝」というのをFリーグに参入する前から掲げているんです。そもそもまだFリーグも優勝していないのにアジア制覇を目標にするのはおかしいのかもしれないですけど、それでも僕たちは「いや、それは無理でしょ」と言われるようなことに挑む集団でないといけないと思うし、もし達成できたらすごくおもしろいことだと思うので。
――これまでも無理だと思われたことを達成してきたんですもんね。
そうですね。やはり無理でしょってことに挑むのがフウガの本来の良さなのかなと思います。僕らには成功体験があるし、それがあるのが一番の強みであり財産だと思うんです。本気でアジアチャンピオンを目指しているからこそ育成部門を充実させているし、今年は初めて自前のコートも作りました。Fリーグも4年目になりますし、この3年の経験を糧に新たなページをめくるような1年になると思います。
――まだまだ大きくなりそうですね。
ここからですよね。うちのクラブで育った子がトップに上がって、そういう選手たちが土台になったチームでFリーグ制覇、アジア制覇を達成したらいよいよ漫画のようなスケールの話になってきますよね。ホームタウンの墨田区民の人たちや応援してくれるファンの人たち、支えてくださっているスポンサー企業の人たちみんなを幸せにするのが僕らの命題だと思っています。楽しみたい・楽しませたいという、少年の心の奥底から湧き出る動機のようなものが根底にあるので、これからもクラブに関わる全員でそれを表現していきたいですね。
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[プロフィール]須賀雄大(すが・たけひろ)/Fリーグ・フウガドールすみだ監督
1982年6月30日生まれ、東京都出身。暁星中学校から高校までサッカー部に所属。引退を機に同級生とフットサルチーム『森のくまさん』を立ち上げ、フットサルプレイヤーとしての活動をスタート。その後、駒場高校サッカー部OBの同期が立ち上げた『BOTSWANA』(ボツワナ)と合流。2002年に東京都オープンリーグに参戦する。チームが関東フットサルリーグに昇格した2005年に若くして現役を引退、監督に就任する。関東フットサルリーグ優勝6回、全日本フットサル選手権優勝1回という輝かしい実績を残し、2014年に東京都墨田区に本拠地を置く『フウガドールすみだ』としてFリーグに参入。ここ2シーズン連続でチームをプレーオフ進出に導くなど、トップリーグでもその手腕を発揮している
【フウガドールすみだ公式サイト】http://www.fuga-futsal.com/
<Text:福田悠/Photo:フウガドールすみだ(Official)、長田楓>