17歳ながら、すでに世界の頂点をしっかりと見据え着実に成長している板橋美波自身最大の武器であり、女子選手では世界で唯一彼女だけが飛べる難易率3.7の”前宙返り4回半抱え込み(109C)”を封印し、板橋美波(JSS宝塚)は世界選手権女子高飛…
17歳ながら、すでに世界の頂点をしっかりと見据え着実に成長している板橋美波
自身最大の武器であり、女子選手では世界で唯一彼女だけが飛べる難易率3.7の”前宙返り4回半抱え込み(109C)”を封印し、板橋美波(JSS宝塚)は世界選手権女子高飛込みの予選と準決勝に臨んだ。ともに2本目と3本目でミスをして次のラウンドへの通過順位を下回りながらも、終盤の”前宙返り3回半エビ型(207B)”と”後ろ宙返り2回半1回半捻りエビ型(5253B)”で挽回。結果的に予選は後ろから4番目の15位で、準決勝ではギリギリの12位で決勝へ進出した。
だが、そのギリギリの戦いが板橋の心に火をつけた。「刺激なんてものじゃないくらい悔しかったし、元々109Cはやりたいと思っていたので……」と振り返る。
「4日前の練習の時に、リオデジャネイロ五輪で初めて話をした男子選手に『109Cは使わないのか』と聞かれ、その時は予定していなかったので『使わない』と言ったら嫌な顔をされたのですごく悔しかったんです。109Cは2月の試合前に飛んで足首を痛めて以来飛んでなかったのですが、昨日1本だけ飛んだら『本当に数カ月ぶりなの?』というくらい(よく)飛べたので。それで準決勝が終わったあとで馬淵崇英コーチに『種目このままでいいですか』と聞くと、『やりたいのか?』と聞かれたので『できたらやりたいです』と答えて……。それで急遽変更することになったんです」
久しぶりに109Cを試合で飛べると思うと朝からテンションが上がり、ソワソワしてジッとしていられなかったという。それでも試合ではいつもより集中して体が軽く感じ、動けすぎて怖いくらいだった。予選と準決勝では、60.80点と67.20点しか出せていなかった最初の”後ろ踏み切り前宙返り3回半抱え込み”で75.20点を獲得する3位スタート。さらに2種目目の倒立飛込みでは、前日を上回る68.80点を獲得した。
だが苦手とする3種目目の”後ろ宙返り3回半抱え込み”は、失敗した準決勝よりさらに6点以上落とす49.50点の大失敗になってしまった。これにより、3種目終了時点で9位、8位に15点以上の差がつき、入賞が危ぶまれる状況に追い込まれた。
それでも、2本だけ練習で飛んだという4種目目の109Cで、完璧とは言えないながらも79.55点を獲得し、合計得点を8位に上げた。そして最後の5253Bは、「飛び出した時に五輪の時の感覚と一緒だったので『これは絶対に入る』と思ってやりました」と4人の審判が9.0点を出す完璧な飛込みとなる。この5種目目で84.80点を獲得した結果、合計357.85点で、リオ五輪の8位を上回る7位入賞を果たした。
この日優勝したのは、リオ五輪で金と銀を獲得した中国勢ではなく、マレーシアのチョン・ジュンホンだった。4種目目で飛んだ”前逆宙返り2回半抱え込み”の難易率は全選手中最低タイの2.8ながら、7審判中4人が10点を出す完璧なもの。板橋の3.7を筆頭に3.3、3.2など難易率が高い種目を飛ぶ選手が並ぶ中、82.60点を獲得して1位という素晴らしい結果を残した。板橋も「自分もああいう選手になれるように努力して、いつか倒したい。でも、ちょっと悔しいですね。自分はあれだけ難易率を取れているのに(3種目が3.2で、あとは3.3と3.7)何で勝てないんだと、若干思いました」と苦笑する。
「リオ五輪の8位より、109Cを飛んで7位になれた今回の方が、自分としてはすごく満足しています。今日は順位より内容を考えていたし、予選と準決勝に比べたらすごく体も動いていて飛び出しもしっかりできたので。でも自己評価は75点くらいですね。弱点を直すことと、試合で決められる精神面を鍛えていかなければダメだと思いました」
馬淵コーチは「今日は練習でも動きがよく、見ていても『あっ、今日の美波は勝負する顔になっているな』と思った」と、教え子の活躍に表情を緩めながら、こう続ける。
「ほとんど練習をしていなかった109Cをここでやるのは通常なら考えられないことでしたが、本人がいきなり『自信を持って飛べます』と言ってきたので、精神的にも前向きになって強くなったなと感じました。しかも、それを決勝の場で成功させたので。今後へ向けて『練習はしてなくてもいつでも使える』という自信を持ったことは大きいし、こういう場で勝負をかける意欲や精神力は、東京五輪でメダルに挑戦するという自信にもつながると確信しています」
5月後半から6月にかけて1カ月間飛込みができなかった状態にも関わらず、109Cに挑戦して勝ち取った7位という結果。それは板橋にとって順位以上に重要なものだった。