ビキニフィットネス・廣中れな インタビュー後編(全2回)【学生結婚、出産、会社経営、離婚の20代】 ビキニフィットネス界の「絶対女王」安井友梨(39歳)に挑む廣中れな(33歳)。そんな廣中の"筋肉原体験"は学生時代だった。「高校生の頃から筋…

ビキニフィットネス・廣中れな インタビュー後編(全2回)

【学生結婚、出産、会社経営、離婚の20代】

 ビキニフィットネス界の「絶対女王」安井友梨(39歳)に挑む廣中れな(33歳)。そんな廣中の"筋肉原体験"は学生時代だった。

「高校生の頃から筋肉を見るのは好きでしたけど、大学ではラグビー部のマネージャーをやっていて、部員の筋トレの補助をしているうちにだんだん自分も筋肉がほしいなと思うようになりました。でも、当時はジムに通う勇気はありませんでしたね」


兵庫県の

「マックスジム」でインタビューに応じる廣中

 獣医の卵だった同級生と学生結婚をし、卒業後ほどなくして第1子を出産。夫は6年制大学の学生だったため、しばらくは廣中が夫の家業の手伝いや小さな会社を経営して家計を支えた。

 その後、25歳で念願だった動物病院を愛知に開業。廣中は子どもを背負いながらグルーミング部門の責任者として働くことになったが、それは想像以上にストレスフルな日々だった。



本格的にトレーニングを始める前、20代の廣中 写真/本人提供

「動物病院ってすごく閉鎖的で話す相手がいないんです。それが窮屈で、休み時間の40分だけですが、近くのジムに毎日通うようになったんです」

 のちに最高峰コンテスト「オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス」(JBBF主催)のビキニフィットネス163センチ超級で女王・安井友梨に次ぐ2位を獲得する廣中だが、この頃はあくまで自己流でトレーニングをする程度だった。

 それでも重量が上がって体形が変化するのが楽しく、なによりジムに通う仲間たちとコミュニケーションをとれることがうれしかった。彼女の生活にとって、ジムはとても大事な場所だったのだ。

【ジム通いを否定され...息子の言葉に離婚を決意】

 しかし、その憩いの時間も夫を含め家族に否定されてしまう。

「『子どもがいるんだから今はそういう時期じゃないだろう』『ジムで男と話す暇があったらその40分で子どものことをしろ』と言われてしまい......」

 廣中がトレーニングを日課とすることは理解されなかった。第2子を出産後も育児と家族からのプレッシャーで、消耗していく日々だった。

「奴隷のように毎日働いて、私の人生なんなんだろなって悩む時もありました。でも名字が一緒になった以上、使命感のようなものがあったし、離婚するわけにはいかなった。ひとりでやっていく自信もありませんでしたし」



学生結婚し卒業後すぐに出産した 写真/本人提供

 そんな廣中の考えを変えたのは、当時5歳に成長していた長男だった。

「『ママ、最近笑ってないよ。毎日つらそう』って唐突に言われたんです。子どもから見てもそういうふうに見えると思うと......その言葉をさらっと流せなくて、決意しました」

 離婚を成立させた廣中は子どもふたりを連れて、実家の鳥取へ帰った。そして、ビキニフィットネスのためにストイックな日々を過ごしていく。しかし当然、彼女には母親としての顔もある。

「実家だったので親に子どもの送り迎えや面倒を見てもらえたからできたと思います。トレーニングができない人もいるなか私は環境に恵まれている。そこは本当に感謝ですね」

 当初こそ、廣中の両親もトレーニングには大反対。初参戦した2021年の「オールジャパン」で惨敗を喫した際も、「ちゃんとした職についてくれ」と懇願された。

 それでも「あと1年」という期限つきでチャンスをもらい、みごと、翌年の「オールジャパン」で2位に。両親も結果を出した廣中を「そこまで本気だとは思わなかった」と見直し、今では応援する側に回っている。



現在は鳥取から兵庫のジムへ通い、木下喜樹のパーソナルトレーニングを受けている

【背中で見せる、がんばる母の姿】

 では子育てはどうか。現在、トレーナーとして働きながら、自身もコンテスト出場のために、往復6時間もかかる兵庫のジムに通うこともあり、子どもと過ごせる時間は多くはない。

「ジムに行っている間は会えないですけど、私の考えとしては、トレーニングと同じで長くいることではなく、一緒にいる時間の質が大事だと思ってます。仕事で忙しくて会えなくても、会える時間を大切にすることを心がけています」



 親子の絆は深い。

「2年くらい前は私に余裕がなくて、子どもと向き合う時間をつくってあげられず、荒れてしまった時期もあったんです。でも会える時間に『この時期は大会があってなかなか一緒にいられないけど、終わったら旅行に行こう。おいしいもの食べに行こう』とか『今は我慢させてごめんね』とコミュニケーションをしっかりとれるようになってからはそういうこともなくなりました」

 ちなみに、息子たちはふたりとも空手教室に通っているという。習い事も勉強も、親が頭ごなしに「がんばれ」と言っても子どもがおとなしく聞くものではない。だが、母親もがんばっていれば話は別だろう。

「まずは母親が手本を見せないと、とは思ってます。今度、子どもたちが空手の大会に出場するんですけど、私も大会があって、見に行ってあげられないんです。だから『お母さんも頑張るから、一緒に優勝して帰ってこようね』と約束してます」



2023年8月開催の西日本ビキニフィットネス選手権でオーバーオール優勝

 結果、廣中は西日本選手権をオーバーオール(全出場選手中)優勝。子どもたちに大きな背中を見せることができた。9月10日に開催される「オールジャパン」へ向けて、順調だ。今年の彼女の目標は、もちろん「打倒・安井友梨」。しかし、「オールジャパン」後に、もうひとつ人生のなかで大きなイベントがある。

「今年中に自分のサロン兼ジムをオープンする予定なんです。まずは鳥取で、先々には兵庫にも進出できたらと思っています」

 トレーニングに子育てに経営に......多忙な日々も、ビキニフィットネスを通して取り戻した笑顔できっと乗り越えられるはずだ。



終わり

前編<「シングルマザーがやることじゃない」親の大反対を説得→涙の表彰台へ ビキニフィットネス・廣中れなは女王・安井友梨に「勝って優勝したい」>を読む

撮影協力/マックスジム(兵庫県加古川市)

【プロフィール】
廣中れな ひろなか・れな 
1990年、鳥取県生まれ。30歳からボディメイクを本格的にスタートさせ、2021年、2022年のJBBF主催「オールジャパン フィットネス チャンピオンシップス」ビキニフィットネス・163センチ超級に連続出場し、2022年は準優勝に輝く。