富樫勇樹(PG/千葉ジェッツふなばし)インタビュー日本(沖縄)、フィリピン、インドネシアで共催されるFIBA バスケットボールワールドカップ2023まで残りわずか。トム・ホーバスヘッドコーチ率いる男子日本代表において、"コート上のヘッドコー…

富樫勇樹(PG/千葉ジェッツふなばし)インタビュー

日本(沖縄)、フィリピン、インドネシアで共催されるFIBA バスケットボールワールドカップ2023まで残りわずか。トム・ホーバスヘッドコーチ率いる男子日本代表において、"コート上のヘッドコーチ"とも呼ばれるポイントガードのポジションを担うのが富樫勇樹である。身長167cmは、世界はもとより、日本国内でも最小サイズ。しかし富樫はハンデとも思えるサイズのなさを、抜群のクイックネスと高確率の3ポイントシュート、そして何よりも強い意志で凌駕してきた。

富樫は東京2020オリンピックには出場したものの(日本は全敗)、2019年に中国で行なわれたワールドカップには、開幕1カ月前に右手を骨折し、出場断念を余儀なくされていた。個人としては初出場となるワールドカップを、富樫はどのように思い描いているのだろうか――。


司令塔として、キャプテンとして日本代表を牽引する富樫勇樹

【日本一丸となって、来年のオリンピック出場につなげたい】

――前回大会は開幕約1カ月前に右手を骨折して出られませんでした。今大会は個人的にどのような位置づけとして臨んでいますか?

「4年前のリベンジというわけではありませんが、やはり出場できなかった悔しさはあります。でもこうやってもう一度、日本代表でプレーするチャンスがあることがうれしいです。何よりも日本でグループラウンドが開催されることが、昨年のオリンピックが無観客だった分、本当に楽しみです」

――悔しさよりも、日本のファンの前でプレーできることがモチベーションになっていると。

「会場の雰囲気も含めた『チーム日本』として、日本一丸となって強豪国を相手に勝利するところを見せられたらいいなと思っています」

――今大会の目標はどこに掲げていますか?

「チームとしては、ワールドカップに出場しているアジア勢のなかで1位になることです(アジア1位になることで、来年のパリオリンピックへの出場権が与えられる。ここではオセアニアを除く)。そのためにはまず、これまで勝てていない世界の舞台で確実に1勝をしなければいけません。簡単なことではありませんが、チームとしてオリンピックの出場権を得ることを今大会の一番の目標にしている以上、それが大命題だと思っています」

――まずは1勝し、それを積み重ねることで来年のオリンピックも見えてくる。

「そうですね。僕は現実的なほうだと思うんです。正直なところ、前回のワールドカップやオリンピックで1つも勝てていないなか、アジアで1位になるということは決して簡単なことじゃないと思います。特に日本がいるグループE(ドイツ、フィンランド、オーストラリア)で1勝することは相当大変なことだと思うんです。それでも今回のメンバーで、何としても1勝を勝ち取りたい。チームとしてはもう初戦のドイツ戦の話しかしていませんし、その試合に対して最大限の準備をしています。僕個人としてもドイツに勝ちたい思いはすごくあります」

【サイズのデメリットをスピードと3ポイントで越えていく】

――東京2020オリンピック以降、トム・ホーバスヘッドコーチ体制になりました。ホーバスヘッドコーチのバスケとはどのようなものですか?

「バスケってそもそも攻守の切り替えが速いスポーツで、それをより速くして、チャンスがあれば3ポイントシュートを積極的に狙っていく。これは現代のバスケの象徴ともいうべきスタイルで、トムさんのバスケもそれを最大限生かした、本当に魅力的なチームです。ファンの方々も見ていて楽しいバスケじゃないかと思います」

――3ポイントシュートも華がありますよね。

「そうですね。もちろん派手なダンクシュートにはすごく華がありますけど、遠くから決める3ポイントシュートもバスケの醍醐味だと思いますし、それを見て、楽しんでいただけたらうれしいですね」

――現時点でのチームの課題はどこにありますか?

「ひとつは経験値だと思います。今の日本代表が世代交代をしているという感覚はないんですけど、トムさんがヘッドコーチになって初めて日本代表に選ばれた若い選手が多くいるのは事実です。彼らは、いわゆる男子日本代表として世界レベルの大会をあまり経験してきていません。もちろんアジアレベルの大会は経験していますが、ワールドカップという大会で彼らがどのようなバスケをできるか。ただ、実はそこを楽しみにしていて、彼らの力を借りて、近年勝てなかった世界の強豪国を打ち破ることできると思っています。それでも質問された"課題"を挙げるとしたら、やはり経験がさほど多くないので、ベテラン、中堅、若手が一丸になって戦うチームを作りあげなければいけないと考えています」

――そうしたチーム作りのなかで富樫選手の役割は何になりますか?

「東京2020オリンピックを経験したひとりとして、世界と戦うチームを作っていくうえでのリーダーシップはとっていかなければいけないと思っています。プレー面では、ポイントガードとしてドリブルで相手のディフェンス網を切り裂いて、自分でレイアップシュートを打つか、パスを出してシューターを生かすポジションなので、スピード感あふれるプレーを見ていただけたらうれしいですね」

――所属チームでもポイントガードを務めていますが、やはり日本代表と所属チームとではプレーの思考を変えていますか? たとえば自らの攻めと、ゲームのコントロールの割合を変えるとか。

「そうした考えはあるかと思います。消極的になっているわけではなくて、やはり日本代表で僕がずっとボールを持っているとチームのリズムが生まれません。日本最高峰の選手が集まっているチームですし、千葉ジェッツよりも自らプレーをクリエイトできる選手が多くいます。そういう意味では、周りを生かす気持ちはあるかもしれないですね」

――でも、チャンスがあれば狙っていくところもありますよね。

「もちろんです。わずかでもチャンスがあればシュートを狙っていくことが僕の強みのひとつでもあるので、積極的に狙うことはもちろんのこと、周りを生かすプレーの使い分けをうまくやっていけたらなと思っています」

――富樫選手はバスケ界では小さい部類に入ります。あらためて今回のワールドカップにおいて、ハンデともいえるサイズを、どのようにクリアしていきたいと考えていますか?

「やはりスピード勝負だと思います。むしろ僕くらいの身長の選手......僕だけでなく河村(勇輝)選手もそうですが、世界トップクラスのサイズの大きな選手って、僕らくらいの身長の選手との対戦がそれほど多くないと思うんです。もしかしたら逆にやりづらいかもしれない。小さいことがいいとは思わないですけど、それを今大会の強みのひとつとして、動き回っていけたらなと思っています」

【「死のグループ」を戦うことで、未来につなげる】

――日本と同じグループEにはドイツ、フィンランド、オーストラリアがいます。それぞれどのような印象を持っていて、どう戦っていきたいと考えていますか? まずはドイツから。

「印象としては、やはりポイントガードのデニス・シュルーダー選手(NBA:トロント・ラプターズ)がメインのチームです。彼に好き勝手にやられたら、シューターはノーマークになるし、ゴール近辺のビッグマンにロブバスも飛ぶし、もちろん彼のレイアップシュートにもなります。だからこそ彼を止めなければいけないと考えています」

――ポジションで考えるとマッチアップは富樫選手になりませんか?

「そうですね。その時間帯はあると思いますし、馬場(雄大)選手をつける可能性もあると思います。今はいろんなオプションを探っている段階なので、どういうディフェンスになってもいいように、チームとしてしっかり準備していきたいですね」

――フィンランドはいかがですか? ラウリー・マルカネン選手(NBA:ユタ・ジャズ)がいます。

「ユーロバスケを何試合か見たのですが、こんなにも強いのかという印象は持っています。強豪と呼ばれる国を相手に引けをとらない試合をしていて、3ポイントシュートもバランスよく決めてきます。もちろんマルカネン選手がエースとして30点も40点も取っている試合もあるなかで、です。さらにいえばヨーロッパ特有というか、バスケIQが高く、シュート力もあり、フィジカルも強い。ファンのみなさんが想像しているよりも強いと思っています」

――最終戦はオーストラリアが相手です。アジア予選でも対戦していますが(ワールドカップ出場をかけた大陸予選ではオセアニアもアジアに含まれる)、NBAに参戦している選手が加わるとまた違ったチームになるでしょう。

「オーストラリアは本当に経験のあるチームで、しかも今大会のメインどころの選手は、近年それほど変わっていないと思うので、経験値を含めて抜けているチームだと思います。正直なところ、僕はこのグループEでオーストラリアが一番強いと思っているんです。ただ、そのオーストラリアが3試合目というのは一番よかったのではないかとは思っています」

――どういうことでしょうか?

「選手としては一番戦いたいチームが初戦にきてほしいものです。初戦は特に準備する時間があるからです。逆に一番強いと思われるチームが最初にくると、そのための準備をどこまでやって、チャンスがあるかもしれない相手との試合をどうするかまで考えなければいけません。そう考えると、今回の対戦順は日本にとってもよかったのではないかと思っています」

――まずはドイツ戦に向けてしっかりと準備ですね。

「はい。ワールドカップに向けた準備は、ほとんどがドイツ戦に向けてのものになるはずです。そこで勝つことによって、その流れに乗って、フィンランド戦、オーストラリア戦に入っていきたいと考えています」

――そうしてアジア1位になれば、パリ五輪の出場権を得られます。来年の五輪への思いもあるのでしょうか?

「もう一度オリンピックに出たいという気持ちはあります。僕自身がここまで長い期間バスケをやってきて、日本代表が世界レベルの大会に出ているところをあまり見ないで育ってきたこともあるので、やはり今、頑張っている子どもたちに日本が世界レベルの大会で戦っているところを見せたいという思いもあります。

 今大会は「アジア1位」という目標を掲げていますが、いずれは自信を持って、ワールドカップで「メダルを獲ることが目標」と言えるようなチームを作っていかなければいけません。そのためにもワールドカップとオリンピックに常に出続けて、経験を重ねて、肌で感じて、変化していくことを繰り返して、日本は強くなっていくと思います。

 そこを取りこぼさないことは、日本代表でプレーしているひとりとしての責任だと思います。個人としての思いもありますが、日本の男子バスケの未来のためにも、ワールドカップで勝って、来年のパリオリンピックの出場権を何としても手にしたいと思っています」

Profile
富樫勇樹(とがし ゆうき)
1993年7月30日生まれ、新潟県出身。
小学1年生からミニバスを始め、中学では監督としてチームを率いる父親・英樹さんのもと、3年時に全国大会で優勝を果たす。アメリカの高校に進学し、卒業後は日本に戻り、bjリーグの秋田ノーザンハピネッツに入団。NBA挑戦などを経て、千葉ジェッツ(現:千葉ジェッツふなばし)で活躍中。日本代表としても今大会キャプテンを務める。
ポジション=ポイントガード。身長167cm、体重65kg。