ガールズドリームレースを制した児玉碧衣【真夏の夜の激闘】 ガールズケイリンの精鋭が激突する真夏の祭典、「ガールズケイリンコレクション2023西武園ステージ」。ファン投票1位から7位の選手による「ガールズドリームレース」が8月17日(木)に行…



ガールズドリームレースを制した児玉碧衣

【真夏の夜の激闘】

 ガールズケイリンの精鋭が激突する真夏の祭典、「ガールズケイリンコレクション2023西武園ステージ」。ファン投票1位から7位の選手による「ガールズドリームレース」が8月17日(木)に行なわれ、児玉碧衣が逃げ切りに成功し、3度目の優勝を飾った。

「(最後の)直線で抜かれたと思って、フィニッシュ後、手を上げなかったんです。(バンクから)引き上げてきてから『1着だよ』って言われて。ガッツポーズすればよかったですね」

 取材エリアに現れた児玉は満面の笑みで勝利を喜んだ。

 今年のガールズドリームレースに出場した7名は、ファン投票1位の児玉碧衣、以下、同2位の佐藤水菜、3位の小林優香、4位の久米詩、5位の柳原真緒、6位の山原さくら、7位の太田りゆ。人気、実力を兼ね備えた今のガールズケイリンを代表する顔ぶれが並び、激戦必至と見られた。

 そのなかで期待が高かったのは、昨年のこのレースの覇者、佐藤だ。普段はナショナルチームのメンバーとして活動しており、11日に世界選手権(イギリス・グラスゴー)から帰ってきたばかり。自転車競技で世界と戦っているだけにガールズケイリンの出走は少なく、5月以来の国内での戦いとなるが、今年走ったレースは3月の「ガールズケイリンコレクション2023別府ステージ」を含め、この日まで10戦10勝と無敗。世界の舞台で鍛えた脚に注目が集まった。

 一方、投票1位の児玉は「ガールズケイリンを一年間盛り上げているのは私たち。私が一番ナショナルチーム(の選手)を意識していると思います」とレースのかなり前から闘志を隠さなかった。昨年12月に行なわれた「ガールズグランプリ2022」で落車。左鎖骨を粉砕骨折という重傷を負ったが、復調後は順調に白星を重ね、6月にはガールズケイリン初のGI開催となった「パールカップ」を制し、7月にはガールズケイリン史上4人目となる通算500勝を最速で達成していた。

 まだ蒸し暑さの残る20時20分にスタートしたレースは、残り2周に入った時点で、佐藤は5番手、児玉は6番手と後方に待機。その3コーナーで児玉が動くと同時に佐藤も反応して順位を上げ、先頭が佐藤、続いて児玉の順に最終周回へ入る。児玉は勢いそのままに佐藤を抜き去って先頭に立つが、佐藤、そして柳原も離れずに外から追い、さらに外から太田もポジションを上げてきた。最後、直線で太田が追い詰めるも、僅かの差で児玉が先着した。2着は太田、佐藤は3着に終わった。

「最後、後ろに誰がいるかは全然わからなかったです。死ぬ気で踏んでいました」

 児玉の言葉が激闘を物語る。しかし圧巻の逃げ切り劇は、改めてその強さを見せつけた形だ。


ゴールラインになだれ込む選手たち

 児玉碧衣(1番車、白)が1着となった

【勝因は行くべきところで行けたこと】

 今回のレースの勝因を「自分の行くべきところで、行けたこと」と児玉は振り返った。

「これまでサトミナ(佐藤水菜)に勝てなかったのは、サトミナを意識しすぎて、自分のレースができていなかったから。なので、今日は行くべきところで行かなきゃと考えていました。自分から動いた時にサトミナがそれに合わせる形になり、一度、(佐藤の)スピードの音がすごすぎて、後ろで構えましたが、休まずホームストレートで仕掛けたのがよかったと思います」

 これまでの自分であれば佐藤を意識し、ホームストレートで仕掛けることなく休んでいたはずと児玉は言う。だが3月のガールズケイリンコレクションで、佐藤と対決した際に「もてあそばれた」シーンがよみがえり、「自分で行かなきゃ」と脚を動かしたことが奏功した。

 また例年であれば、ガールズケイリン最高峰の舞台、12月の「ガールズグランプリ2023」への出場権を獲得するために、賞金を積み重ねる時期なのだが、パールカップで優勝したことで、グランプリへの出場権をすでに手にしていたことも大きかった。「前日から緊張せず、リラックスして臨めたのもよかった」とメンタル面の充実もためらいなく攻めきれた要因の一つに挙げた。

 昨年12月の落車によるケガで、年明けから一時、本来のパフォーマンスを発揮できなかった。「もうトップで走れないかもしれない」という思いが頭をよぎると同時に、SNS上で「児玉は終わった」という言葉も目にした。「これで見返せたと思う」と本人もしてやったりの表情だ。過去を振り返ればビッグレース初優勝は2018年に行なわれたこのドリームレースで、それが飛躍のきっかけとなった。この日の優勝でまた児玉は進化するだろう。



清々しい笑顔で勝利者インタビューに答える児玉

「今年はとくに記憶に残るレースも、インパクトのあるレースもできていないなか、負けている自分に投票してくれるファンがいることを実感しました。優勝できて嬉しいし、恩返しができたと思います。まだまだ児玉はトップで走り続けるぞってところを見せられました。ただトップで走り続けるには声援も必要なので、これからも応援してください」
 
 ファンへの感謝と引き続きの応援のお願いを口にし、児玉は真夏の激闘を締めくくった。

【Profile】
児玉碧衣(こだま・あおい)
1995年5月8日生まれ、福岡県出身。小学時代にバレーボールをやり始め、高校まで競技に励む。高校卒業後に日本競輪学校(現日本競輪選手養成所)に入り、成績2位で卒業。2015年7月のデビュー戦で勝利し、翌8月に初優勝を飾る。持ち前のポテンシャルの高さで勝利を重ね、2018年からガールズグランプリ3連覇を達成。今年6月、初のGⅠ開催となったパールカップで初代女王に輝く。今年7月にはガールズケイリン史上最速で500勝を挙げた。