バレーボールの全日本中学校選手権大会(以下、全中)が8月20日に愛媛で開幕する。今年は公益財団法人日本中学校体育連盟(以下、中体連)が「部活の地域移行」に着手し、地域クラブの大会出場を認めた。その元年に行われる全中は、さっそ…

 

 バレーボールの全日本中学校選手権大会(以下、全中)が8月20日に愛媛で開幕する。今年は公益財団法人日本中学校体育連盟(以下、中体連)が「部活の地域移行」に着手し、地域クラブの大会出場を認めた。その元年に行われる全中は、さっそく男子3チーム、女子1チームが出場を果たす。その一つ、男子の太宰府U14クラブ(福岡)は長年抱いていた夢をかなえた。

(写真はU13/14 PROGRESS CUPのもの)

 

福岡を拠点に活動する太宰府U14クラブ

 

【ギャラリー】初の全中へ!! 太宰府U14クラブの熱きプレー集〔20点〕

 

九州1位で全中出場を決めた太宰府U14クラブ

 8月6日、第56回九州中学校大会(以下、九州大会)は決勝トーナメントが行われた。最終日に残ったのは8チーム。準々決勝をクリアすれば、全中の切符が手に入る。一方、そこで敗れれば、敗退チームだけのトーナメントに回り、九州第5代表の座を争うことになる。

「どこが勝ってもおかしくない力関係だし、どこも負けたくないのは一緒。なるべく、そっちにはいきたくないな」

 最終日を迎え、太宰府U14クラブの高田政樹代表は、そうにらんでいた。そうして臨んだ妻ケ丘中(宮崎)との準々決勝は第1セットを落としたものの、徐々にチームの強みであるレシーブからリズムを取り戻すと、逆転勝利を収める。

 

 初めての全中に行けるぞ。

 この大会ではベンチ入りせず応援に回った高田代表も、選手たちの保護者もともに喜びと安心感で胸がいっぱいになった。

 だが、選手たちは対照的だった。聞こえてくるのは、「優勝するぞ」という気合いの入った言葉。それを耳にした高田代表は素直に思った。

「子どもたちはすごいな」

 ずっと憧れていた景色をこの夏、彼らが見せてくれるのだと実感すると胸が熱くなった。

 

感情を出して一点を喜ぶのがチームのスタイルでもある

地元の小学生への指導から始まった

 もう30年近くも前になる。当時、大学4年生。高田“青年”は知り合いから相談を受けた。

「息子が所属している小学生チームの指導者が転勤でいなくなる。面倒を見てくれないか」

 

 高田代表は中学1年生から高校を卒業するまで学生バレーに励み、地元・福岡での学生時代はクラブチームに所属していた。指導員の話が降ってきたのは、大学4年生になり進路を考えているさなか。そうして小学生たちを教えているうちに、楽しみを覚えた。大学では教員免許を取得できる学部を専攻していなかったが…

「たとえ先生にならなくても、こういう活動ができたらいいな」

 今でいう“外部指導員”のポジションである。そうして、時間的にも指導活動に携わりやすい職業に就き、指導者の道を本格的に歩み始めた。

 

 やがて教え子である小学生たちが進学すると、あらゆる現実に直面した。なかでも、中学校の部員数の少なさはたびたび起きた課題だった。

 今でこそ、近隣学校との合同チームによる大会への参加が認められているが、当時は単独チームのみ。出場するには帰宅部やほかの体育会系の部活に助太刀してもらう必要があった。もちろん人数が少ないのだから、ふだんの練習もままならない。そうした学校の選手たちへ個人レッスンのようなかたちで携わった。ときにはバレーボールだけでなく勉強を教えることもあり、それは今も続いている。

 また選手たちが入学した中学校で、バレーボール部の顧問が転勤になり、廃部となったこともあった。そうなれば、学校へ駆け込み、校長への直談判も辞さなかった。「23歳ぐらいの若造がね」と高田代表はばつが悪そうに振り返る。

 そうして理解をもらえた際には大会のときだけ引率する顧問をつけてもらうことで、公式戦への出場がかなった。とはいえ自身は外部指導者という立場ではあるもの、そのころはその制度自体がないため、いざ試合は応援席から見守るしかできなかった。

 

今のチームは金子祐一郎監督が率いる。大会によっては高田代表がコーチを務める姿も(写真最後列)

 

【次ページ】クラブの立ち上げは8年前。全国クラスの選手を輩出も

 

レシーブとつなぎを磨き、代々ディフェンス力に定評がある太宰府U14クラブ

クラブの立ち上げは8年前。全国クラスの選手を輩出も

 地元の小中学生を対象に、そんな活動を続けること20年以上。やがて、社会教育いわゆる地域のスポーツ活動の一つから一歩踏み出し、クラブチームを立ち上げることに。それが8年前。「太宰府U14クラブ」の誕生である。

 

 中学生世代のクラブバレーボール界でいえば、全国大会として「全国ヤングクラブ大会」(以下、全国ヤング)が設けられており、クラブを対象にした大会を催している地域もある。そうした公式戦に、チームとして出場することがかなった。

 それでも、やることは変わらない。中学に部活動がなければバレーボールに励むことができる場に。部活に所属していながらさらに上達したいと願う子どもには、その機会を。

 

 特に近年は部活動の減少も見られ、クラブだけで活動する選手も増えた。太宰府U14クラブも例に漏れず、例えば今夏の北海道インターハイに出場した福岡大附大濠高(福岡)のエース山田大凱や日本航空高(山梨)のリベロ野添陽人は出身者であり、中学にバレーボール部がなかった面々だ。彼らOBが強く羽ばたく姿に、高田代表は思いを馳せる。

「大きな舞台で活躍してくれることをうれしく思いますし、今もチームにはクラブでしか活動していない選手もいますので、目標になってくれています」

 

 

今年度のキャプテンを務める①大久保

目標の“日本一”へ。くじけ、それでもチャンスをつかんだ

 今年度のチームでキャプテンを務める大久保龍之介(3年)は、学校に部活がないメンバーの一人だ。中体連の大会は、まるで別の世界の出来事だった。いざ今年、参加が決まっても――

「試合の雰囲気がわからなかったので、不安でした」

 

 昨年夏、大久保たちの代がスタートしてから、掲げた目標は日本一だった。その時点では、全国ヤングが唯一の全国大会。だが、6月中旬の全国ヤング県予選ではライバルの福岡PROCEED.VBCに決勝で敗れる結果に終わった。

「正直、1週間くらいはショックを引きずっていました。とにかく悔しくて。ですが、全中という大会がもう一つある以上は、全力でやるという思いで切り替えました」

 

 今年の春に中体連への参加が正式に決まってから、そちらのルール【4号球/ネットの高さ230㎝】でも練習はしていたが、本格的に取り組んだのは全国ヤング県予選を終えてから。それでも県大会では初出場初優勝を果たした。舞台は異なるが、自分たちの戦いは続く。その道は全国の舞台へ続いている。

「日本一、と言っておきながら、全国ヤングは予選で敗れて、中体連で負けたら、そこで引退になる。それは選手たちにとってプレッシャーだったと思いますね」(高田代表)

 一方で、福岡県を制したちょうどその日、全国ヤングへ“2位枠”での出場の連絡が入った。思ってもいなかった朗報は、選手たちの肩の荷を下ろし、結果として九州大会への追い風になった。

 

パワフルなアタックが魅力の池田光喜(3年)など攻撃力の高さは今年度の強みだ

今年の夏は「いつもと違って…」と大久保キャプテンがほほえむ理由

 長年、地域の小学生を指導してきたなかで、高田代表は何度も子どもたちの選択を見てきた。めきめきと選手たちが上達するほど、その進路を迷うのだ。

 おそらくスタンダードなのは、地元の中学へ進むこと。けれども、そこに部活がなければ、太宰府U14クラブにステップアップするか。ただし、そこには全中という中学生にとっての晴れ舞台への道はなく、それなら、よりそこへ近づける学校へ県をまたいでも進学するか、しか選択肢がなかった。

「これまで卒団した子どもたちが、それぞれの学校で活躍して、全中出場を果たしてくれていました。そうして今回、クラブの参加が認められて、チームとしてそこにたどり着ける。やっぱり全中は夢の夢ですから。

 あの舞台に『太宰府U14クラブ』の名前が出る、そのことをほんとうにうれしく思います。今までチームの歴史をつないでくれたOBや、愛媛に連れていってくれる選手たちには感謝しかありません」

 

 学校に部活がなく、中体連には縁もなかった大久保キャプテンも「クラブチームの強さを、しっかりと発揮したいと思います。もちろん出るからには全部勝って、優勝したいです!!」と力強く意気込む。大舞台を目指し、そこに立つ今年はこれまでとは一味違う夏だ。

「夏休みに入ってから、九州大会への遠征だったり、今回の全中、とほぼ毎週のように試合がある感覚です。いつもと違って、宿題をする時間があんまりありません(笑)」

 

チーム名は活動拠点を示すと同時に、「太宰府=福岡」と県の代名詞である誇りも込められている

(文・写真/坂口功将〔編集部〕)

 

 

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【ギャラリー】初の全中へ!! 太宰府U14クラブの熱きプレー集〔20点〕

 

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