げんさんサマーカップで合計187.62点、総合3位だった坂本花織「明後日から神戸合宿で、シゴかれてきます!」 取材エリアで、坂本花織(シスメックス/23歳)は柔らかい表情で言った。世界女王にとって、どんな大会であっても総合3位は明るい事実で…



げんさんサマーカップで合計187.62点、総合3位だった坂本花織

「明後日から神戸合宿で、シゴかれてきます!」

 取材エリアで、坂本花織(シスメックス/23歳)は柔らかい表情で言った。世界女王にとって、どんな大会であっても総合3位は明るい事実ではないだろう。180点台は、彼女本来のスコアではない。

 しかし、本人は至って落ち着いていた。その泰然さは、全日本選手権と世界選手権を連覇している"常勝"の裏返しか。

「体の動きからしたら、例年のスタートと比べるとマシなほうかなと思っています。試合でしか味わえない緊張のなか、経験することで何が足りていないのか。(それと向き合って)どんどん練習や経験を積んでいきたいと思います」

 高い次元で自らを律し、外に対して明るく振る舞う。その度量は世界の頂点に立った者しか身につけられない。一方でおどけたスタートポジションのとり方や演技後のハニカミやコケ方のお茶目さまで、すべてひっくるめて「坂本花織」なのだ。

 世界女王の「今」とはーー。シーズンの前哨戦「げんさんサマーカップ」でその姿を追った。

●直前の追い込み「夏休みの宿題みたい」

 8月13日、滋賀。台風7号が徐々に近づいてくるなか、大会は行なわれている。女子シングルのショートプログラム(SP)で、坂本は最終グループで登場した。

「2分50秒、ずっと緊張しっぱなしでした。いつもならアイスショーが(新プログラムの)初お披露目の場になるんですが、今回はこの試合が初めて。ジャンプもスピンも全部(うまく)やらないと!って、すごく緊張しました」

 坂本は彼女らしく快活に振り返った。SPの結果は67.28点で、2位スタート。本意ではないスコアだが、あくまで試運転だ。

「自分の見せどころとも言える(ダブル)アクセルの失敗は悔しい。自分のなかではスピードが足りなかったのが失敗の原因かなって。まあ、ショートもフリーも夏休みの宿題みたいで、直前の追い込みでギリギリ間に合うかだったので。

 アイスショーでフリーはたくさん滑ってきたんですが、ショートは時間がとれず、息はしんどいし、足にも来るし。滑り込めていないなって実感しました」

 女王は反省の弁を口にしたが、焦りは見えない。

 自ら選んだドラマ曲『Baby, God Bless You』で、心境の変化も味方につける。今年に入ってふたりの姉が出産し、姪っ子、甥っ子を得た。日々、姉たちから送られる写真や動画に「成長が早い!」と励まされ、ふたりを両手に抱きかかえた写真に癒されているという。

 子ども、出産に携わる人との親交が多くなっているのを必然とし、その曲を踊る意味を見つけた。

「今年は去年のように(北京五輪でメダルを獲得し、世界選手権で優勝したことで)モチベーションが下がる難しさはなくて、いい感じで前向きに挑めています。この時期に3(回転)+3(回転)を跳べるのは稀なので、うれしかったですね。最後のスピンも間違えたし、パニックになっていましたが(笑)」

 彼女は失敗を語っているのに、福を招くような明朗さで言った。その懐の深さに真の強さがにじんだ。

●反省しきりも前向き

 8月14日、フリースケーティング。坂本は冒頭、ダイナミックなダブルアクセルを決めている。

 彼女の本領発揮だった。『Wild is the Wind/Feeling Good』の旋律に乗り、3回転ルッツ、3回転サルコウも決め、レベル4のスピンも豪快で、反撃の予感が漂った。

 しかしステップで転倒すると、後半は完成度の低さが出た。フリーは120.34点で5位。総合3位に終わった。

「(転倒は)溝に引っかかってしまって。浅かったらすぐ抜けられるんですけど、深くはまってしまい、流れに身を任せてドンって転んだ感じで。

 シーズン後半のやり慣れたプログラムだったら、(転んだ)途中からもうまく入れるんですが......。最後のスピンは『ノーバリュー』だったし、ステップはレベル1、コンビネーションは回転不足で」

 坂本は反省しきりだったが、こうも続けていた。

「いろいろ減点は多かったですが、これから練習でエレメンツを総合的にもっといいものにできるようにしたいと思っています。今シーズンはショートもフリーも、今まであまりやってこなかった曲調なので、足りないところがたくさんあると思うんです。でも、またひとつレベルアップできるように」

 彼女はこれまでも多様なジャンルの曲と向き合ってきた。得意なものに執着せず、どんな曲調にも向き合い、実力を身につけてきている。自らをアップデートさせるたび、強くなってきた。それは彼女の異能だ。

●狙うは全日本選手権3連覇・世界選手権3連覇

 一昨年のインタビュー、坂本の答えは啓示的だった。

「自分のなかで、(2018年)平昌五輪が終わった時に4年後はいけるって思ったんです。オリンピックに限らず、初めての試合、たとえばジュニアグランプリ(GP)シリーズ、世界ジュニア、(シニアの)GPシリーズとか、一発目はその時の精一杯をやっても順位は低いんです。でも2回目って、1回目の経験が活かされるのか、自信を持って滑ることができるんです」

 その言葉どおり、2022年北京五輪で坂本は泰然自若のスケーティングで団体、シングルと輝くメダルを勝ち獲っている。その余勢を駆って、自身3度目出場の世界選手権で優勝。そして昨シーズンは2年連続の女王に輝いた。

「今シーズンは、全日本3連覇、世界3連覇が目標です。次は(9月の)オータムクラシック。一つひとつを糧にして、先に進めたらと思います」

 大会後、彼女はそう明言している。少しの衒(てら)いもなく、突き進むだろう。女王の進軍が始まる。