ホクレンディスタンス北見大会で2位の好走を見せた三浦龍司【課題をクリアするレースができた】 三浦龍司(順大)がググッとスピードを上げていく。  残り500mほどで先頭に立ち、ラスト1周の鐘が鳴った。雨が降る中、ラストでどこまでギア…



ホクレンディスタンス北見大会で2位の好走を見せた三浦龍司

【課題をクリアするレースができた】

 三浦龍司(順大)がググッとスピードを上げていく。

 

 残り500mほどで先頭に立ち、ラスト1周の鐘が鳴った。雨が降る中、ラストでどこまでギアを上げていくのか。三浦のスパートに注目が集まったが、そこで前に出たのは赤崎暁(九電工)だった。三浦は200mでもう一段スピードを上げたが届かず、13分31秒31(5000m)のシーズンベストで2位に終わった。

 

「いやあ、勝ちたかったですけど、最後の100mのストレートは、伸びが敵わないなと思ったので、そこはちょっと残念な結果になってしまった」

 

 少し悔しそうな表情を見せたが、落ち込んでいる体ではない。このホクレンディスタンス北見大会での三浦の狙いは、前半は集団の流れに乗ってラストの1000mで2分35秒から30秒に上げて行くことだった。負けはしたが、自分のポイントを押さえたレースができ、課題をひとつクリアしたことで、むしろホッとした様子がうかがえた。

 

 ブダペスト世界陸上(8月19日開幕)の3000m障害に出場予定の三浦だが、このレースに出場するのには、彼なりの理由があった。

 

「東京五輪の時、最後に北見で調整して、しっかりと体の調子を整えてレースに臨んでいい結果がついてきたので、今回もそうなればいいかなと思って」

 

 2年前、三浦は北見大会の5000mで13分26秒78を出して自己ベストを更新。そのいい流れに乗って東京五輪では3000m障害で7位入賞を果たした。しかし、ユージーン世界陸上では結果が出なかったため、今回のブダペストに賭ける気持ちは強い。それだけに結果が出た時の流れを踏襲したいという気持ちはよくわかる。

 

 流れは同じだが、「中身は前回とはかなり異なる」と長門俊介監督は語る。北見のレースに入る前、長野県の湯の丸高原で高地合宿を行なってきた。

 

「今回、初めて約10日間の日程で高地トレーニングをしてきました。あまり体に負担がかからないように、10日間で区切って、降りて来て、反応を見て、また10日間やってという感じで、みなさんがやっているような1カ月近く続くトレーニング期間は取っていないです」

【高地トレには確かな手応え】

 湯の丸の標高は1700mで、高地トレーニングで有名なコロラドのボルダーより若干高い。慣れるまでは呼吸の苦しさを感じるが、持久力の向上につながるのでマラソンを走る選手も、湯ノ丸で合宿を張ることが多い。近くには菅平もあり、標高を落として練習ができるなど、環境を選べるのも大きい。現地にはトラックの他にウッドチップを敷いた林道コースやクロカンコースがある。クロカンコースは傾斜がかなりあり、高地と相まってかなりキツいコースだ。三浦は、ここを拠点にスピード練習やペース走を行ない、クロカンも走っていた。

 

 初の試みながら、三浦は高地トレーニングの手応えを感じているようだ。

 

「この標高で練習をするのはまだ経験が浅かったので、こういうものかっていうのを理解することができました。有酸素運動をするだけで、すごく追い込まれたような気持ちにもなりました。これを地上と同じぐらいの負荷に近づけたり、体の感覚を取り戻すことができれば、さらにゆとりが持てたりとか、様々なところでプラスに働くことが多いのかなと思うので、これからも積極的に取り組んでいきたいです」

 

 一方で、今回のレースのラスト100mで赤崎にもう一段突き放されたように、ラストのキレにいつもの三浦らしさがなかった。いつもはロケットのようにスピードが増してフィニッシュするが、今回はその伸びを欠いていた。

 

「湯の丸から降りて来て、ちょっと動き出しが悪かったり、疲労感を少し感じていた部分はあったんですけど、慣れればよくなっていくと思います」

 

 高地トレーニングの影響もあり、それほど気にしていない様子だ。

 

 長門監督も「ぜんぜん悪くないと思いますよ」と表情は明るい。

 

「キレに関しては、本人も『あれっ?』というのがあったと思います。でも、レース全体に関しては、プランどおりにできたので、全然悲観するところはないです。ラスト2分30秒で上がればいいかなと思っていたんですが、2分33秒ぐらいだったので、そこもほぼクリアできてよかったですね。最後のところはちょっと重さが残ったのかな。三浦らしいところが見られなかったというか、本来のキレじゃなかったかなと思います。でも、余裕はありましたからね(笑)」

 

 高地から降りてきてのレースでの結果を踏まえて、三浦も長門監督も手応えは上々というところなのだろう。ただ、ラストのキレに本来の鋭さが見えなかったのは、「今後、考えていく必要がある」と長門監督が語る。

 

「基本的に標高が高いと、スピード練習でスピードを出しづらいということがあったので、そこは調整していく必要があると思います。もうちょっと標高を落としてスピード中心のポイントをやるべきかなとも思いました。一度、小諸(標高1000m)まで降りたんですけどね。クロカンも傾斜がきついので、あそこでちょっと重さが残ってしまった。それで、ちょっと動かしにくいという感じがあったのかなと思います。あとは血液検査をして、数値と本人の感覚を検証してみるのが大事かなと思います。でも正直、心配はしていない。あとは、キレだけ戻ればいいので」

【昨年の雪辱を晴らす世陸に】

 標高について、どこまで降りてくればスピードを出せるスピード練習ができるのか。その塩梅が難しいと長門監督はいう。東京五輪前は、標高1000mの富士吉田で最終的に刺激を入れて調整していた。1000mを下ったところが理想なのか、そこは最終的に三浦とも話をして決めていくという。北見でのレースを終え、まずは障害の練習を入れていく。その後、もう一度湯ノ丸に入り、最後に平地でスピードの刺激を入れて、ハンガリーに向かう予定だ。

 

「世陸は、楽しみです」

 

 三浦は、自信に満ちた笑みでそう言う。

 

 6月のダイヤモンドリーグのパリ大会3000m障害で8分9秒91の日本記録で2位に入った。いい流れを自分でも感じているらしく、表情にも余裕がある。

 

「今年はパリで良い手応えを掴んだので、その感覚は大事にしたいと思いますし、これが世界陸上につながれば、僕としては嬉しいので、その感覚を無駄にしないように、失ってしまわないようにやっていきたい」

 ブダペスト世界陸上は、三浦にとってどういう大会になるのだろうか。

 

「世陸に去年、出場したんですけど予選落ちしてしまい、自分の理想や目標には程遠い結果になってしまった。今年はさらなるレベルアップができているかなと思うので、その成長を見せられるような走りをしたいと思います」

 

 一般的に同じトレーニングを続け、アップデートをしていかないのは現状維持ではなく、後退だと言われている。三浦は、もうワンランク上の世界を見るために高地トレでの練習方法や調整方法をいろいろと模索中だ。ブダペストでは、これまでの結果や取り組みが融合すればユージーンの雪辱を晴らせるだろうし、その先のパリ五輪にもきっとつながるはずだ。