夏の甲子園出場をかけ、全国各地で熱戦が繰り広げられている。そんな中、全国屈指の激戦区である大阪で、興国高が古豪復活…

 夏の甲子園出場をかけ、全国各地で熱戦が繰り広げられている。そんな中、全国屈指の激戦区である大阪で、興国高が古豪復活に向け順調なスタートを切った。



夏の大阪大会1回戦で7回一死まで無安打ピッチングを披露した興国のエース・植田健人

 今年の興国には、春の大阪大会4試合で5本塁打を放った中野翔哉がいる。さらに、昨年のチームからエースで4番を担ってきた植田健人(たけと)もいる。大阪にはセンバツ優勝の大阪桐蔭、準優勝の履正社という2大強豪校が君臨しているが、投打に柱となる選手を擁する興国にも十分チャンスがあると見ている。

 そして大阪大会1回戦(対貝塚南戦)で植田は7回一死まで無安打という圧巻の投球を披露。以降も打たれたヒットは内野安打の2本だけでスコアボードに9つの「0」を並べた。一方、3番に入った中野は期待のホームランこそなかったものの1安打を放ち、次戦に期待を抱かせた。

 実は、今年の6月、興国が関東遠征に来たときに、彼らのプレーを見ている。相手は桐蔭学園(神奈川)だった。

 会場となった東京経済大のグラウンドは、両翼95メートル、フェンスの向こうに高いネットがめぐらされている。野球場というのは面白いもので、外野のネットが高ければ高いほどフェンスがすぐそこに見えて、こういう環境での長距離砲は「よし、狙ってやるか」と一気にテンションが上がってしまうものだ。

「粗くならなければいいが……」

 そんな心配が頭をよぎったとき、中野が最初の打席に入った。177センチ、93キロという堂々の体躯が、右打席で高くバットを掲げる。真ん中から外へわずかに滑るカットボールを引っ掛けて、サードゴロになった。

 マウンドに上がった桐蔭学園の柿崎颯馬(そうま)も、「将来はプロ」と心に決めた選手だ。この試合はピッチャーとしてマウンドに上がっていたが、本来は神奈川屈指のスラッガー。打ちたいヤツの心の内は手に取るようにわかっている。

 その後の打席でも、初球に落差の大きいカーブから入って、気負う気持ちを空転させる空振りでカウントを稼ぎ、徹底して中野にフルスイングさせまいと知恵を絞り込んだ。

 結局、この日は最後まで気負いと力みが出て、本来のスイングは見られなかった。ただ、内野手の正面に飛んだゴロでも、打ち損じのフライでも、中野は全力疾走でベースに向かう。きっと、野球にひたむきな高校生なのだろう。

 ひとつ残念だったことは、ウェイティング・サークルでの過ごし方だ。長距離砲を打席に迎えて、相手バッテリーが考えることは「いかにしてタイミングを外してやろうか」ということだ。コースを間違えないことも大切だが、それよりもタイミングだ。タイミングさえ外せれば、ど真ん中でもフェンス手前で失速してしまう。

 ウェイティング・サークルの中野を見ていたが、彼が投手のフォームに合わせてタイミングを取っている場面は、一度も見られなかった。タイミングを合わせる動作は、前の壁を意識した理想的なステップでスイングするから、気負っている日の体の開きも修正できる。ウェイティング・サークルでの意識が変われば、履正社の安田尚憲クラスのスラッガーになっても全然おかしくない。

 もうひとりの注目選手・植田は先発のマウンドに上がり、5回を投げて14安打9失点。数字だけを見れば”炎上”なのだろうが、ところどころに非凡さを散りばめて、印象に残るピッチングを見せた。

 セットポジションから両サイドを丹念に突こうとする姿勢。ボディーバランスのよさと柔軟性は、投球フォームからもひと目でわかる。ただ、ステップした瞬間に体の正面を見せてしまう”開き”の早さは、前日にも5イニングを投げた影響なのか。

 体が開くから、相手打者はボールが見やすくなり、つまりタイミングも取りやすくなる。それが14安打という結果につながったのだろう。

 それでも、一方的にやられたわけではない。特に、左打者のインコースに食い込む速球は力があり、相手打者のスイングを圧倒していた。打者が「あっ!」と驚いて、思わず出したバットが間に合わず、三塁側ダグアウト方向に跳ね返されたファウル。植田の速球の質の優秀さが伝わるシーンだった。

 この試合に限っていえば、ピッチングよりもバッティングだった。

 植田は左打席に入る前から熱心にタイミングを合わせていた。打席に入ると、真ん中あたりのスライダーをしなやかに振り抜いて、ライト前に強烈な打球を弾き返してみせた。次の打席では、全身の連動を効かせた美しいレベルスイングからライトのネット中段にライナーが突き刺さった。

 植田のスイングの特長は、いい意味で力感を感じないことだ。おそらく、インパクトの一瞬に全身の力を集中させる技術を持っているのだろう。軽く振っているように見えて、力強い弾道の打球が飛んでいく。

 ピッチングもバッティングも力感こそ感じないが、”超高校級”の逸材であることは間違いない。その意外性が大きければ大きいほど、才能の器も大きいということだ。

 ただ、この試合を見ていて、ひとつだけ残念なことがあった。それは気持ちが「顔」や「態度」に出てしまうことだ。

 たとえば、ある打席で足元を速球で攻められ、「そこは打てません」という雰囲気を目一杯出してしまった。結局、同じコースに決められ見逃し三振。投げる方でも、打ち取ったと思った打球がヒットになったり、エラーになったりすると、ついつい”落胆”の気持ちが前面に出てしまう。気持ちはわからないでもないが、それが弱みになることだってある。

 戦いはいつも”カラ元気”と”やせ我慢”。大阪大会の快投を見る限り、そこの部分に関しては大きな進歩を遂げたのだろう。

 興国は1968年の夏の甲子園で全国制覇を果たしたが、近年は低迷が続いている。最後に甲子園に出場したのは1975年の夏。古豪復活を託されたエースと主砲が、42年ぶりの甲子園に導くのか。興国の戦いに注目したい。