強風という悪条件MENSの決勝前から風はどんどん強さを増していった ©Yoshio Yoshida / YUSF「風が……。」これは7月30日に開催されたYOKOHAMA URBAN SPORTS FESTIVALのSKATE ARKの最後…

強風という悪条件


MENSの決勝前から風はどんどん強さを増していった ©Yoshio Yoshida / YUSF

「風が……。」

これは7月30日に開催されたYOKOHAMA URBAN SPORTS FESTIVALのSKATE ARKの最後を飾るMENS HIの公式練習中に、今大会で3位入った青木勇貴斗が自分に向けて発した一言だ。


3位の青木勇貴斗。ノーリービッグスピンヒールフリップ・バックサイドリップスライド  ©Yoshio Yoshida / YUSF

会場となった横浜赤レンガ倉庫は海の目の前に位置し、風の影響を受けやすい。

夕方からのスタートであったため強烈な日差しの影響は幾分か和らいでいたのだが、 それに合わせ風が強さを増すという条件下での戦いとなった。


強風の場合、こういったボードを回すトリックは空気抵抗を強く受けるので影響が出やすい  ©Yoshio Yoshida / YUSF

スケートボードは一般の方が想像する以上に、ものすごく繊細な動きが必要とされるため、少し風に煽られるだけでトリックの成否が別れるほどだ。

しかも繰り出すトリックの難度が高くなればなるほど、そのリスクは上がっていくので、今大会はより土壇場での精神力が必要とされる環境下であったといえるだろう。

ランは白井空良の独壇場


ランでは流石の滑りを見せた白井空良  © Yoshio Yoshida / YUSF

そんな中、序盤は今大会6位に終わったものの、パリ五輪に向けた世界ランクで現在5位(国内ではトップ)に立つ白井空良の独壇場だった。

今大会は40秒ランを1本と、ベストトリック5本を足した全6トライの中からベストスコア3本を採用する競技フォーマットだったため、ベストトリックでの大逆転も可能ではあったのだが、ランに関していえば一発勝負という厳しいものだった。

しかも強風が吹き荒れる中だ。 案の定、これだけのメンバーでもなかなかフルメイクできる者はいなかったのだが、そこで白井はやはりというべきか、フロンサイド270からのスイッチバックサイドリップスライドや、ノーリービッグスピン・バックサイドテールスライドといった高難度なトリックを織り込んで、文句無しの暫定首位に立ったのは流石の一言だった。

土壇場からの大逆転劇


優勝を決定づけた根附海龍のヒールフリップ・バックサイドテールスライド © Yoshio Yoshida / YUSF

ただベストトリックでは、また違うドラマが待っていたのだから、スケートボードのコンテストは面白い。

白井空良がキャバレリアルシュガーケーン(別名 白井ケーンとも呼ばれている超高難度な彼のシグネチャートリック)をなかなか決め切ることができずにいる中、もう後のないベストトリック3本目から立て続けに3本連続で成功し、根附海龍が逆転優勝を飾ったのだ。 1,2本目はノーリーインワードヒールフリップ・フロントサイドボードスライドが決めきれずに追い込まれていたのだが、3本目にきっちり仕留めると、続け様にヒールフリップ・バックサイドノーズブラントスライド、ヒールフリップ・バックサイドテールスライドという、自身の得意なカカトでボードに縦回転を加えるヒールフリップ系の動きを活かした高難度なバリエーショントリックでキレイにまとめ上げた。


同郷の同い年。3位の青木勇貴斗も根附海龍を祝福  © Yoshio Yoshida / YUSF

まさに土壇場での勝負強さが光ったわけだが、この結果は、決して偶然ではないだろう。

彼はすでに世界を舞台にした豊富な経験を持っている、いわば戦い方を熟知した選手だ。ベストトリックの最中で自身の番になってもすぐにトライするのではなく、強風が一瞬止む、または弱まるタイミングを待ち、自分のリズムでトライする落ち着きも見せていたので、そういったところも彼の安定感のひとつだろう。

実際に追い込まれた状態からの連続成功を見ても、MCからは「彼の場合は見ていてもハラハラしないんだ。やってくれる予感がする、安心してみてられる」といったような言葉が出てきていたので、すでにそれだけの風格を備えている人物ともいえるだろう。


2位に輝いたのは最年少の薮下桃平。ビガースピンフリップ・フロントサイドボードスライド。 © Yoshio Yoshida / YUSF

よくコンテストには最大瞬間風速がものすごく爆発力はあるけれども、安定感に欠けるタイプと、常に安定した滑りを披露してくれるタイプなどがあるが、そういった者が一堂に集結するからこそドラマが生まれるともいえる。

今大会の白井空良と根附海龍の滑りは、まさに双方の典型例が極めて高レベルで実現したものだったのではないかと思う。

もし今大会がランの得点が必ず加算される形だったら、ランが2本あったら、もしくはランのみの構成であったら、また違った結果になっていただろう。

そんな競技フォーマットの違いで生まれるドラマの変化に目を向けてみても面白いのではないだろうか。

そんなYOKOHAMA URBAN SPORTS FESTIVALのMENS HIだった。


優勝が決まってガッツポーズを見せる根附海龍 ©Yoshio Yoshida / YUSF

女子もベストトリックの採用が明暗を分けた


決勝ではベストトリックを採用したことで、勝利の女神は織田夢海に微笑むこととなった ©Yoshio Yoshida / YUSF

続いてWOMENSだが、ここも男子と同じく競技フォーマットが結果に大きな影響を及ぼすこととなった。
そこをTOP3の顔ぶれと、トリック構成から理由を分析していこう。

予選結果から順位を落とした要因


ランでは無類の強さを発揮する3位の松本雪聖。課題ははっきりしているので今後に期待したい。世界はすぐそこにある。 ©Yoshio Yoshida / YUSF

まずは3位、弱冠11歳の松本雪聖なのだが、彼女は予選は1位通過だったにも関わらず、決勝では残念ながら順位を落としてしまう結果となった。

その最たる要因といえるのが、予選と決勝における競技フォーマットの違いだ。

WOMENSも決勝はMENS HIと同様のルールだったのに対し、予選では40秒のランを2本行い、良い方のスコアを採用するというルール。つまりベストトリックがなかったのだ。

彼女の強みは、女子レベルを超越したスピードとダイナミックなライディングにあり、トリックを素早く次々に繰り出すことができるだけでなく、女子なら躊躇してしまいそうな大きなセクションに対する安定感も抜群なので、ランでは無類の強さを発揮するのだ。

正直ランにおける技の構成とビッグトリックの安定感だけなら、小学生ながらすでに世界レベルといって差し支えないだろう。

だからこそベストトリックでは、彼女の現在の課題が浮き彫りになってしまった。

それは「複合トリックの引き出し」だ。

彼女はキャバレリアル・フロントサイドボードスライドという、通常とは逆方向に進みながらお腹側に360度回ってボードの真ん中を滑らせるトリックを狙っていたのだが、成功とはいかなかった。

このトリックは名前の通りキャバレリアルとフロントサイドボードスライドという2つの技を組み合わせたトリックになるので、当然難易度は跳ね上がる。繊細な動きを苦手とする彼女にとっては、まさに大きな壁となって立ちはだかった訳だ。

今や女子もベストトリックでは複合技を成功させなければ勝てない時代になっているので、今後は複合トリックの成功率を上げつつ、男子で優勝した根附海龍のヒールフリップのように、それらを応用したバリエーションを増やしていけるかがカギになるだろう。

逆にそこさえマスターできえれば、彼女ならば世界をアッと言わせることができるはずだ。

メンタルの成長とオリジナリティ


このトリックには会場全体が大きく沸いた。2位に輝いた藤澤虹々可のポップショービット・フロントサイドフィーブルグラインド。 ©Yoshio Yoshida / YUSF

続いては2位の藤澤虹々可。

19年の全日本選手権の覇者で、出場唯一の20代。今大会の女子選手のムードメーカーであり、お姉さん的な存在だ。

ただそんな彼女も、以前は極度の緊張から自身の実力を全く発揮できずに惨敗することも多かった。

だが大ケガを乗り越え、精神的にも逞しくなって復活したことで、以前のような緊張した姿はなくなり、本当に楽しんで滑っている姿が印象的だった。

彼女の持ち味は、他がやらないオリジナリティあるトリックにあるといえるだろう。

そのひとつにボードを浮かせながら180度横回転させるポップショービットというトリックがある。

今回見せてくれたポップショービット・フロントサイドフィーブルグラインドは女子で唯一の9点越え(1トリック10点満点)だったのだが、そこには世界的にみても彼女しかできる人物がいないというのが大きな理由であることは間違いない。


このトリックも彼女の特徴のひとつ。フェイキーバックサイドリップスライド。 ©Yoshio Yoshida / YUSF

他にも対象物を視界に捉えづらいが故に、男子でもあまり見ることのないフェイキーバックサイドリップスライドを得意としていることもオリジナリティという面では強みといえるだろう。

以前よりも一回りも二回りも成長して、円熟みを増した彼女のキャリアのピークは、もしかしたらこの先にあるのかもしれない。

得意技を活かしたトリックチョイスで2連覇を達成


今や彼女の代名詞となったトリック。優勝した織田夢海のキックフリップ・フロントサイドフィーブルグラインド。 ©Yoshio Yoshida / YUSF

では最後に見事二連覇を果たした織田夢海だが、彼女は24.1点と2位に7点以上も差をつけており、結果だけ見れば圧勝だったといえるだろう。

その最たる要因は、”勝てる”複合トリックを持っていたことに尽きると思う。

ベストトリックではキックフリップ・バックサイド50-50グラインドと、キックフリップ・フロントサイドフィーブルグラインドという、得意のキックフリップを活かした複合技のバリエーションで攻め、それを違うセクションで成功させたことが大きかった。

さらにランもノーミスでまとめ上げてきたのだから、流石という他ない。


織田夢海のキックフリップ・バックサイド50-50グラインド。自身の得意技を活かした複合トリックの応用が優勝を呼び込んだ。 ©Yoshio Yoshida / YUSF

それは彼女が16歳にしてすでに豊富な経験を兼ね備えているからだろう。

西矢椛や中山楓奈といった同世代が出場していない大会では、優勝候補の最右翼と目されていたが、前評判通りにきっちり優勝することは、変化の激しいこの世界においても、決して簡単なことではない。

ただ前述のトップ3の点数構成を見ると、女子はベストトリックとの相関性が非常に高いことがわかる。

ベストトリック用の複合トリックを成功させることができずに終わってしまった松本雪聖、ひとつしか成功させることができなかった藤澤虹々可。それに対して、きっちり2本仕留めた彼女の戦略とメンタルが勝利を呼び込んだのではないかと思う。


お互いの成功に喜びを分かち合う織田夢海と藤澤虹々可。スケートボードの魅力が詰まった一枚 ©Yoshio Yoshida / YUSF

そしてここまでわかりやすく順位に現れるというということは、来年のパリ五輪においても、女子ストリートはベストトリックでの複合技のバリエーションが、メダルの行方を左右することになるのではないか。

そんな想いがより強くなったWOMENSクラスだった。

RESULTS/


©Yoshio Yoshida / YUSF

【MENS HI】

1位 根附海龍  26.5pt
2位 薮下桃平  20.1pt
3位 青木勇貴斗 19.9pt
4位 佐々木音憧 16.1pt
5位 佐々木来夢 14.9pt
6位 白井空良  8.9pt


©Yoshio Yoshida / YUSF

【WOMENS】

1位 織田夢海   24.1pt
2位 藤澤虹々可  16.9pt
3位 松本雪聖   16.5pt
4位 大西七海   15.6pt
5位 杉本二湖   12.6pt

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