インディカー・シリーズ第11戦アイオワ・コーン300で優勝したのは、エリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)だった。 2014年6月のデトロイト・レース2以来となる久しぶりの勝利。ブラジル出身の42歳が大喜びしたのは、それがレース…

 インディカー・シリーズ第11戦アイオワ・コーン300で優勝したのは、エリオ・カストロネベス(チーム・ペンスキー)だった。

 2014年6月のデトロイト・レース2以来となる久しぶりの勝利。ブラジル出身の42歳が大喜びしたのは、それがレース展開やチームの作戦頼みで達成されたラッキーなものではなく、実力でもぎ取ったものだったからだ。



シリーズ第11戦アイオワで優勝したエリオ・カストロネベス

 キャリア20年目を迎えても、カストロネベスはデビュー当時と変わらない速さを保っている。インディカーでベテランが活躍することが珍しくないのは、経験が大きくものを言うオーバルコースのレースがシリーズの重要なパートを占めるからだ。しかし、カストロネベスの場合はストリートやロードコースでも若い頃とスピードが変わらない。今年も第11戦までで3回のポールポジションを獲得。その中にはロングビーチのストリートコース(3年連続!)と高速ロードコースのロード・アメリカが含まれる。彼の通算PP獲得数は歴代3位の50回に届いた。

 カストロネベスと同世代の現役ドライバーといえば、その代表格はトニー・カナーンだろう。カストロネベスと同じくブラジル出身で、レーシングカート時代から競い合い続けてきた間柄だ。2人はインディライツでチームメイトとなり、カナーンがランキング1位、カストロネベスが2位で1998年に揃ってインディカーにデビュー。現在カナーンはチーム・ペンスキーのライバルであるチップ・ガナッシ・レーシングから出場している。

 70年代生まれという括りだと、今年のインディ500で優勝した佐藤琢磨(アンドレッティ・オートスポート)が77年生まれの40歳。タイトル4回獲得のセバスチャン・ブルデー(デイル・コイン・レーシング)が79年生まれの38歳だ。ブルデーはインディ500予選での負傷で欠場中だが、今年の開幕戦で優勝している。

 過去4回チャンピオンになっている現在ポイントリーダーのスコット・ディクソン(チップ・ガナッシ・レーシング)は80年生まれ。2012年チャンピオンで2014年インディ500ウィナーのライアン・ハンター-レイ(アンドレッティ・オートスポート)も80年組だ。今シーズンここまで11戦のうち、35歳以上のドライバーが5戦で勝利を挙げていることになる。

 今年のインディ500に出場したF1ドライバーのフェルナンド・アロンソは35歳。彼のライバルたちは、キミ・ライコネンが37歳で、ルイス・ハミルトンは32歳。30代半ばでもF1でトップドライバーとして活躍することは可能だということだ。しかし、40代となると、引退から復帰後のミハエル・シューマッハを別にすれば、90年代のナイジェル・マンセルまで遡らないと見当たらないのではないだろうか。

 インディ500に限れば、今でもベテランの需要はある。75年生まれのファン・パブロ・モントーヤはインディ500での3勝目を目指してチーム・ペンスキーの5台目に乗ったし、74年生まれのオリオール・セルビアもレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングの2台目で出場していた。

 しかし、レギュラーであらゆるコースのレースに出場し、シーズンを通して戦うとなると、やはりパフォーマンスを保てるドライバーには限りがある。それがカストロネベスでありカナーンであり、琢磨なのだ。

 カナーンはインディカー業界きっての肉体派。トレーニング・フリークでトライアスロンにも出場するほどだ。彼らがインディカーに上がってくる少し前ぐらいから、レーシングドライバーは食事に気を遣い、ストイックに身体を鍛え上げるようになった。

 ここ1~2年のカストロネベスは少々お腹周りが太くなってはいるものの、アイオワでは気温33度の暑さの中で300ラップのレースを戦い抜いた。自らの優勝を讃える彼のトレードマーク、”フェンス・クライミング(金網登り)”を披露すると、「以前より登るのはキツかった」と笑っていた。

 カストロネベスの目標はチーム・ペンスキー、つまりはオーナーのロジャー・ペンスキーに15回目のインディカー・タイトルをもたらすこと。20年のキャリアのうちの17シーズンをチーム・ペンスキーで走っている彼だが、チャンピオンになったことはまだ1度もないからだ。

 カストロネベスは年間ランキング2位には4回もなっており、チャンピオンと2点差でランキング3位になったこともあった。レースでの2位フィニッシュの回数も歴代2位の多さで、今年のインディ500では歴代最多タイとなる3回目の2位フィニッシュを記録した。そのインディ500の直後に彼は言った。

「年齢は単なる数字でしかない。あっちも40歳ぐらいのはずだ」

 “あっち”というのは、カストロネベスとのバトルを制してインディ500初優勝を果たした琢磨のことだ。

 今シーズンも、もう残すところ6レース。ポイントリーダーのディクソンと2位につけるカストロネベスの差は僅かに8点。”チャンピオンになれるドライバーはキャリアの早い段階でそれを達成する”と言われるが、カストロネベスがその通説を覆し、42歳で初タイトルを獲得することも十分に考えられる。