常に移り変わるサッカー界の流れに、新たな潮流が生まれようとしている。世界の名手を大金で集めるサウジアラビアだ。その存在…

 常に移り変わるサッカー界の流れに、新たな潮流が生まれようとしている。世界の名手を大金で集めるサウジアラビアだ。その存在は、サッカーにどのような影響を及ぼすのか。サッカージャーナリスト・大住良之が目を凝らす。

■最もホットな場所

 日本は連日体温を超す猛烈な暑さに見舞われているが、サウジアラビの首都リヤドでは最低気温32度、毎日の最高気温は44度にもなっているらしい(日本気象協会)。そしてサッカー界でこの夏最も熱いのもサウジアラビアであることに異論をはさむ人はいないだろう。

 これまで10年間にわたってリオネル・メッシとともに世界のサッカーを牽引してきたクリスティアーノ・ロナウドが、昨年のワールドカップ終了後にサウジアラビアのアルナスルと契約。その年俸が、サッカー史上空前の2億ユーロ(当時約280億円)というとんでもないものであることも伝わった。280億円といえば、吹田市のパナソニックスタジアムを2つ建設しても余りある巨額なのである。

 現在発表されている2022年の資料によれば、Jリーグ1部(J1)の年間売り上げの平均は約50億円で、浦和レッズの約81億2700万円が最高額である。クリスティアーノ・ロナウドひとりの年俸がそれをはるかに上回るのはもちろん、それどころか、欧州のビッグクラブと比較しても、彼の年俸は「デロイト・フットボール・マネー・リーグ2023」第23位のブライトン&ホーブ・アルビオンの年間総売り上げ(約1億9840万ユーロ)を上回っていることになる。いかにクレージーなものかわかるだろう。

■バブルの胎動

 コロナ前まで、世界のサッカーで「爆買い」といえば中国だった。河北華夏で2016年から4年間プレーしたアルゼンチン人FWエセキエル・ラベッシの年俸は約60億円だったと伝えられている。それがサッカー選手として当時世界ナンバーワンの「高給取り」だった。中国サッカーのバブルが去ったと思ったら、文字どおりケタ違いの勢いで「サウジアラビア・バブル」がやってきたことになる。

 クリスティアーノ・ロナウドはことし1月からサウジアラビアでのプレーを始めた。所属するアルナスルはそれまで平均入場者が7000人程度だったが、2万人にまで跳ね上がった。しかしどうやらそれは単なる「観測気球」だったらしい。この夏の欧州の移籍市場は、サウジアラビア・マネーのうわさでもちきりになったからだ。

 5月、サウジアラビアのファンド会社「パブリック・インベストメント・ファンド(PIF)」が、アル・イテハド、アル・アハリ(ともに本拠地はジッダ)、アル・ナスル、アル・ヒラル(ともにリヤド)の4クラブの買収を発表した。PIFは、サウジアラビア政府(すなわちサウジの王族)が100パーセント出資する「国営投資企業」である。PIFがサウジアラビアを代表する4クラブのオーナーになったということは、この4クラブが事実上無制限の資金力をもったことを意味している。

 サッカーにおけるPIFの活動が急に始まったわけではない。2021年にイングランドのニューカッスル・ユナイテッドを買収、大金を注ぎ込み、2016-17シーズンには「2部」にあたる「チャンピオンシップ」で戦い、昇格後も下位の常連だったクラブを2022-23シーズンにはプレミアリーグで4位に躍進させ、一躍UEFAチャンピオンズリーグ出場に引き上げた。

■世界のスター買い

 さて、新たな資金を得たサウジの4クラブは、即座に「世界のスター買い」に走った。その対象は、一時の中国のレベルをはるかに超える。2022年のAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝(ことし4月~5月)で浦和レッズに敗れたばかりのアル・ヒラルが、昨年のワールドカップ優勝の立役者メッシに提示した年俸は、クリスティアーノ・ロナウドの3倍にあたる6億ユーロ(約900億円)とまで言われた。

 最終的にメッシはこのオファーをけり、元イングランド代表のデビッド・ベッカムらが所有するアメリカの「マイアミ・インター」に移籍したが、アル・ヒラルはめげず、イングランドのウォルバーハンプトン・ワンダラーズからポルトガル代表MFルベン・ネベス、イングランドのチェルシーからセネガル代表DFカリドゥ・クリバリ、そしてイタリアのラツィオからセルビア代表MFセルゲイ・ミリンコビッチサビッチを獲得した。

いま一番読まれている記事を読む