イギリス・ロンドンで開催されているウィンブルドン(本戦7月3~16日/グラスコート)は大会10日目、女子シングルス準決勝などが行われた。第14シードのガルビネ・ムグルッサ(スペイン)は世界ランク87位のマグダレナ・リバリコバ(スロバキア)…

 イギリス・ロンドンで開催されているウィンブルドン(本戦7月3~16日/グラスコート)は大会10日目、女子シングルス準決勝などが行われた。第14シードのガルビネ・ムグルッサ(スペイン)は世界ランク87位のマグダレナ・リバリコバ(スロバキア)に6-1 6-1で圧勝。また、5回の優勝を誇る第10シードのビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)が地元イギリスの期待を背負う第6シードのジョハナ・コンタ(イギリス)を6-4 6-2で破り、8年ぶりのウィンブルドン決勝進出を決めた。◇      ◇      ◇

 逆境を力にするのは、ウイリアムズ・シスターズの方程式だ。正確には、その強さは妹セレナのほうが顕著で、ケガのあと、大病のあと、彼女はいつもドラマチックな復活劇を見せたものだ。

 ビーナスのほうの試練で思い出されるのは、2011年に患った〈シェーグレン症候群〉という自己免疫疾患で、疲労や関節痛などを引き起こすといわれるが、それ以来ビーナスは今年の全豪オープンまでグランドスラムの決勝に一度も進んだことがなかった。セレナと違って、復活までに長い時間を必要としたビーナスは、妊娠中の妹が不在のこの大会、一番好きなこのウィンブルドンに大きな狙いを定めていたはずだ。

 しかしそんなビーナスは、開幕直前、大変なものを背負って戦わなくてはならなくなった。交通死亡事故の加害者というレッテルと、その責任と罪悪感。事故を起こしたのは6月初めだが、衝突した車の高齢の同乗者が2週間後に死亡し、遺族がビーナスを訴えたことで状況は急速に悪化した。1回戦のあとの記者会見で、この件に話が及ぶと、「どう言っていいのか、本当に、言葉が見つからないの......」と言い、こみ上げる涙でそれ以上言葉が続かず、インタビュールームを去るという出来事もあった。

 とてもグランドスラムを戦い抜く精神状態ではないようにも見えたが、その後、この交通事故に関してビーナスが合法的に交差点に入っていたことを警察が発表したことも多少は気持ちをやわらげたのだろうか、3回戦以降は、大坂なおみ(日清食品)、アナ・コニュ(クロアチア)、エレナ・オスタペンコ(ラトビア)といういわゆる『97年組』のホープたちを連破。イギリス期待の26歳コンタとの準決勝を迎えた。

 通算6度目の優勝に向けてまずは8年ぶりの決勝進出を狙うビーナスに、イギリス人女子の40年ぶり決勝進出という快挙をかけたコンタ。

 第1セット、先にブレークポイントを握ったのは、ビーナスを上回るペースでウィナーを決めていたコンタだ。第9ゲームで15-30からフォアのウィナーを放って15-40。しかしこのピンチでビーナスが本能的な勝負強さを見せた。バックハンドのウィナーで1ポイント返して30-40。次のポイントで、ファーストサービスを大きく外したかと思うと、ファーストサービスに引けをとらない時速171kmのセカンドサービスでコンタのラケットを弾いた。このピンチをしのいだビーナスは、コンタに二度とチャンスを握らせなかった。

「あれができるから、彼女はここで5回も優勝したんだと思う」とコンタは賞賛し、ビーナス本人は「目の前のポイントが欲しいだけ。そのときそのときにやるべきことをやった」と謙遜気味に語った。

 直後のゲームでビーナスがブレークに成功。つまり第1セットはビーナスが奪った。第2セットは第4ゲーム、0-30からダブルフォールトをもらい、0-40。このチャンスを生かせないはずはない。そして最後は、サービング・フォー・ザ・マッチを待たずに5-2でのリターンゲームで締めくくった。2度のマッチポイントを逃しての4度目のデュースのあと、コンタがこの試合4つ目のダブルフォールト。最後はビーナスのフォアハンドのパッシングショットがきれいにコンタの脇を抜けていった。

 1時間12分の勝利。8年ぶりのウィンブルドン決勝の相手は、2年前の決勝でセレナに敗れたムグルッサだ。ウィンブルドンの決勝で、ビーナスが妹のセレナ以外の相手に負けたことはない。心乱れてスタートした戦いを、『ウイリアムズ』らしく終えることができるのか。37歳の旅路の果てには、オープン化以降最年長チャンピオンという椅子も用意されているが...。(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)

※写真は「ウィンブルドン」で決勝進出を果たした37歳のビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)。地元イギリスのジョハナ・コンタをストレートで下す。(写真◎Getty Images)

Photo: LONDON, ENGLAND - JULY 13: Venus Williams of The United States celebrates match point and victory during the Ladies Singles semi final match against Johanna Konta of Great Britain on day ten of the Wimbledon Lawn Tennis Championships at the All England Lawn Tennis and Croquet Club at Wimbledon on July 13, 2017 in London, England. (Photo by Andrew Couldridge - Pool/Getty Images)