久保建英を擁するレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は昨シーズン、ラ・リーガ4位でチャンピオンズリーグ出場権をつかみ取っている。FCバルセロナ、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリードを破った攻撃力は伊達ではない。今シーズンに向けては、…

 久保建英を擁するレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は昨シーズン、ラ・リーガ4位でチャンピオンズリーグ出場権をつかみ取っている。FCバルセロナ、レアル・マドリード、アトレティコ・マドリードを破った攻撃力は伊達ではない。今シーズンに向けては、「台風の目になる」とも目されていた。

 しかし、プレシーズンは逆風のなかでのスタートになった。

「魔法使い」の異名を取るダビド・シルバが練習中に左膝前十字靭帯を断裂し、少なくともシーズンの半分以上を棒に振ることになった。37歳という年齢もあって、「引退」も囁かれる。サッカーセンスは今もラ・リーガ指折りで、マンチェスター・シティから戻って以来、チーム全体の活性化に努めてきた。昨シーズンは新入団の久保とのコンビを確立し、大化けさせた"師匠"の苦境だ。

 そして、久保と前線で「牛若丸と弁慶」のようなタッグを組んでいた大型FWアレクサンダー・セルロートが急転直下、ビジャレアルへの移籍を発表した。パス所有先のライプツィヒが構想外とし、キャンプにも帯同させなかったため、「完全移籍も秒読み」と言われていただけに、動揺は小さくない。昨シーズンのチーム最多得点者というだけでなく、左利きで周りとのテンポもあっていたからだ。

 おまけに、ラ・レアルはプレシーズンマッチでオサスナに1-3で敗れた後、スポルティング・リスボンにも3-0と負け、連敗を喫している。若手を多数起用し、コンディションもバラバラ、テスト的要素も強いため、結果はあまり関係ない。しかし主力ふたりの"離脱"があるだけに、「本当に大丈夫か?」と不安が蠢く。

「Toque de atencion」(アラーム、警鐘)

 スペイン大手スポーツ紙『アス』も、スポルティング戦後の記事でそんな見出しを打っている。

 窮地に陥ったチームで、久保はどのようなプレーを見せるのか?



新シーズンはレアル・ソシエダの攻撃の中心になると期待される久保建英

 スポルティング戦に久保は4-3-3の右アタッカーとして先発している。

 2分、右サイドでボールを受けると、得意のカットインで、左のミケル・オヤルサバルへ。チームに躍動感を与え、積極的に自らが切り込むプレーを多用していた。オヤルサバルとサイドを頻繁に変えることで、相手の3-4-3のウィングハーフの裏を狙った。

【復活する選手や若手の台頭も】

 18分には左サイドバックで左利きのディエゴ・リコからのボールを右で受けると、抜群のコントロールでシュートポジションに置き、相手を跳び込ませず、左足で際どいシュートを放った。31分にはやはりカットインし、中央のウマル・サディクへスルーパス。これは流れたが、新相棒予定のナイジェリア代表FWと呼吸を合わせていた。

 32分には右サイドで相手2人を引きつけ、エリア内に入ったロベルト・ナバーロに通し、45分にも左足クロスをエリア内のベニャト・トゥリエンテスに通したが、ヘディングはうまく当たらなかった。

 久保は前半で退くことになったが、攻撃のリーダーになっていた。プレシーズンマッチとしては順調な出来だろう。暗いニュースが続くチームで、朗報と言えるはずだ。

 チームとしても、実はそれほど嘆くような現状ではない。

 サディクが、右膝前十字靭帯断裂から11カ月ぶりに実戦のピッチに立ったことは明るいニュースだろう。昨シーズン途中で左膝前十字靭帯断裂から復帰後、試合勘の鈍さで不調だったオヤルサバルも、完全復活が近づいている。そして昨シーズンはケガに悩まされたモハメド・アリ・チョも久保と代わって出場し、スポルティング戦では何度もゴールに迫っていた。

 戦線離脱者がいる一方、復活の狼煙を上げつつある選手もいるのだ。

「急いではいけない。チャンピオンズリーグがあるからと言って、それだけのために右往左往せず、今後10年の成長を目指すべき。我々は若い世代の台頭を信じています」

 ホアキン・アペリバイ会長の言葉は本音だろう。

 イマノル・アルグアシル監督は、もともと人材を最大限に生かす手腕に優れている。下部組織スビエタの有望選手も控えているだけに、長いシーズンを考えた場合、心配はない。U-21欧州選手権準優勝メンバーになったアンデル・バレネチェア、ジョン・パチェコは確実に戦力を引き上げるはずだ。

 ただし、ダビド・シルバ、セルロートの不在は事実である。復帰したばかりのサディクのプレーは不透明で、チャンピオンズリーグ開幕も含めたシーズン序盤をどのように乗りきるかは課題になる。

 昨シーズン、奏功した4-4-2中盤ダイヤモンドの継続は難しいかもしれない。たとえダビド・シルバの代役としてファンタジスタ、イスコ(無所属)を獲得できたとしても、同じ水準でのプレーは望めないだろう。

 だからこそ、開幕ダッシュには久保の力が必要になる。

 昨シーズンも、ダビド・シルバが不在だったり、あるいはセルロートがスランプだったゲームで躍動したのは久保だった。どの布陣、ポジションであれ、攻撃を牽引できる。自ら仕掛けられるし、攻撃の起点にもなれて、その存在だけで相手と駆け引きができる。単純にコントロール&キックの質は極まってきているだけに、相手守備陣には脅威だろう。

 はたして、久保は救世主になれるのか。

 ラ・レアルは、月末にレバークーゼンとテストマッチを予定。8月には北米ツアーを行なう。アトレティコ・マドリード、ベティスと戦った後、13日には本拠地でラ・リーガ開幕戦、ジローナ戦に挑む。