9月10日にフランス・トゥールーズでラグビーワールドカップの初戦を迎える日本代表(世界ランキング10位)は、最終メンバーの絞り込みも兼ねて国内5連戦を続けている。 7月22日に行なわれた北海道・札幌ドームでのテストマッチは、その3戦目。「…
9月10日にフランス・トゥールーズでラグビーワールドカップの初戦を迎える日本代表(世界ランキング10位)は、最終メンバーの絞り込みも兼ねて国内5連戦を続けている。
7月22日に行なわれた北海道・札幌ドームでのテストマッチは、その3戦目。「リポビタンDチャレンジカップ2023パシフィックネーションズシリーズ」の初戦として、ホームにサモア代表(世界ランキング12位)を迎えた。
一発退場を食らってベンチでたたずむリーチ マイケル
【W杯で再び対戦するサモア】
札幌ドームでの代表戦は、日本ラグビー史上初めて。しかも、サモア代表はワールドカップで予選プールDの同組だけに、この"前哨戦"は22,063人のファンの目の前でしっかりと勝利を掴む姿を見せなければならなかった。
しかし、オールブラックスXV(フィフティーン)と戦った1戦目(6-38)、2戦目(27-41)に続いて、この試合でも1トライしか挙げられず22-24で敗戦し、3連敗となった。
強化試合と位置づけられた前の2試合とは違い、このサモア戦は国の代表同士の真剣勝負のテストマッチ。負ければもちろん、世界ランキングにも影響する。しかも、札幌山の手高校出身のリーチ マイケル(No.8ナンバーエイト/東芝ブレイブルーパス東京)にとっては、まさに「第2の故郷」で戦う初めての凱旋試合だった。
一方のサモア代表は、南太平洋にルーツを持つ選手によるスーパーラグビーのチーム「モアナ・パシフィカ」の誕生により、強度の高い試合を経験する選手が増えた。
また、ワールドラグビーの規定変更により、在住国で36ヶ月間その国の代表としてプレーしなければ、ルーツを持つオールブラックス(ニュージーランド代表)やワラビーズ(オーストラリア代表)の選手がサモア代表になれるようになり、選手層は確実に厚くなった。
今回の試合でも、2019年ワールドカップまでワラビーズでプレーしたSO(スタンドオフ)クリスチャン・リアリーファノら2選手が出場した。ただ、オールブラックス経験者の2選手は来日しておらず、しかもサモア代表は今季初の試合だったこともあり、やはりホームの日本代表としては勝たなければならないテストマッチだった。
【武器であるアタックが不発】
しかし、試合は思わぬ展開となった。10-3でリードしていた前半30分、リーチが危険なタックルを犯し「人生初のレッドカード」で一発退場を食らってしまう。日本代表は残りの50分間、14人の数的不利で戦うことを余儀なくされた。
ディフェンス面ではしっかりと意思統一が図られ、劣勢だったスクラムも試合途中から徐々に修正。李承信(SO/コベルコ神戸スティーラーズ)が4本のPGを沈めて、あと3点で逆転という状況まで追いすがった。しかし、ミスとセットプレーからの失トライが響き、最後は22-24でノーサイドとなった。
レッドカードでひとり人数が少なくなることは「ワールドカップ本番でも想定されること」。試合後、そのように前向きに捉える選手も少なくなかった。
日本代表を率いるジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)もこう語る。
「選手たちは前に出てタックルを決めて、本当によくやったと思う。ただ、試合はマイケルを退場で失った30分で終わってしまった。14人になってしまうと、レベルの高い相手とテストマッチを戦うのは難しい」
個人的に一番大きな問題だと感じているのは、国内1戦目に続いてこの試合でも1トライに終わったことだ。
「アタックはジャパンの大きな武器」とジョセフHCが胸を張るように、トニー・ブラウンコーチが指導する今の日本代表は、アタッキングラグビーを信条とするチームだ。しかし現状、アタックで納得のいく結果は残せていない。
サモア戦の後半で流れが日本に傾いた時、ラインアウトやクイックタップからトライを狙ってほしいと思った。共同主将のひとりである坂手淳史(HO フッカー/埼玉パナソニックワイルドナイツ)は、それについてこう振り返る。
「得点を取って相手にプレッシャーをかける、という当初のプランがあった。(PGで)得点を重ねて9点差にすれば、相手は強引に攻めてミスが出てくると思っていた。だが、こちらが簡単にトライを取られてしまった......」
【ミスの理由をベテランに聞く】
日本代表は昨年11月、ワールドカップの予選プールDで対戦するイングランド代表に13-52で敗戦。その試合で見えた課題として、接点でのフィジカル強化は急務だった。そのため、6月の浦安合宿では柔術を専門とするタックルコーチを招聘して対策を行なった。その成果は、このサモア戦でも随所に出ていたことは間違いない。
ただ、この試合ではノックオンによるボールロストがあまりにも多かった。稲垣啓太(PRプロップ/埼玉パナソニックワイルドナイツ)も「10回以上あったのでは......」と振り返るほどで、それが後半のノートライにつながったとも言える。
敗戦の責任は、レッドカードをもらったリーチだけが負うものではない。姫野和樹(FLフランカー/トヨタヴェルブリッツ)や松島幸太朗(WTBウィング/東京サントリーサンゴリアス)といった、チームをリードしなければいけない選手もボールを落としていた。
ミスが多かったことについて、ジョセフHCは厳しい口調でこう言い放った。
「(初キャップだった)福井翔太(FL/埼玉パナソニックワイルドナイツ)や長田智希(CTBセンター/埼玉パナソニックワイルドナイツ)ら若い選手たちは、本当によくやってくれた。ミスをしたのはマイケルら主力選手たちであり、若手ではない。
ボールを落としているのは、経験豊富な選手たち。彼らもミスをするつもりはなかっただろうが、テストマッチではどうしてもプレッシャーがかかる。もっと改善しなければならない。だから、ミスをした選手が責任を負わなければならない」
なぜ、これほどまでにミスが増えたのか。原因を選手に聞いてみた。
「経験ある選手が、焦らなくていいところでエラーがあった。しっかりと(ボールをキャッチするために)足をためないといけないのか、(選手同士の)幅を確認しないといけないのか......。いずれにせよ、ディテールを確認していけばミスはなくなる」(坂手)
35歳のベテラン山中亮平(FBフルバック/コベルコ神戸スティーラーズ)は「何でだろう?」と首をひねった。33歳の稲垣は「自分たちのミスで不甲斐ない試合をしてしまった。インディビュジュアル(個人)の問題です」とキッパリと言いきった。
【国内テストマッチは残り2戦】
この試合で4人の初キャップが誕生したように、若い選手の台頭は実にうれしいニュースだ。しかし、やはりチームをリードしないといけないのは、2019年ワールドカップ組であることは明白である。
リーチがレッドカードを受け、山中がダイレクトキックでミスを犯し、チームの中軸である経験豊富な選手たちがノックオンしてしまえば、勝てるはずの試合に当然勝てない。イングランドやアルゼンチンといった強豪国だけでなく、ランキングで格下のサモアにも勝つことは難しくなる。
2019年ワールドカップ以降、日本代表の対戦成績は3勝11敗と大きく負け越している。上位の強豪国である「ティア1」にひとつも勝つことができず、勝利したのは格下のポルトガル戦(38-25/2021年11月)とウルグアイ戦(34-15、43-7/2022年6月)のみだ。
3度目のワールドカップ出場を目指す稲垣は、語気を強めた。
「選手全員がこの結果を受け入れないといけない。そして来週、自分たちが何をすべきか、どういう準備をすべきか、考えないといけない。ファンに勝つ姿を見せることは、日本代表の使命です」
国内でのテストマッチは残り2戦──。7月29日に大阪・花園ラグビー場でトンガ代表(15位)、8月5日に東京・秩父宮ラグビー場でフィジー代表(13位)を迎え撃つ。
"勇敢な桜の戦士たち"は今度こそ、経験豊富なベテラン選手たちがアタックをリードしてトライを量産し、ホームのファンに勝利を届けてくれるだろうか。