眼前に立ちはだかるライバルに、確実にハードな一撃を食らわせる井上(右)。その強さを知るモロニー(左)が生々しい証言をした(C)Getty Images 世界が「怪物」と評する偉才の凄みは、体感した者にとって鮮烈な記憶として焼き付いて…

眼前に立ちはだかるライバルに、確実にハードな一撃を食らわせる井上(右)。その強さを知るモロニー(左)が生々しい証言をした(C)Getty Images

 世界が「怪物」と評する偉才の凄みは、体感した者にとって鮮烈な記憶として焼き付いている。WBO世界バンタム級王者のジェイソン・モロニーにとって、20年11月に対峙した井上尚弥(大橋)は、文字通り未知なる体験をさせられる猛者だった。

 舞台はコロナ禍で無観客という異様な雰囲気が漂うラスベガス。普段の華やかさなどなく、限られた関係者のみが立ち入りを許された場で、日本が生んだモンスターは真価を発揮する。

【動画】モロニーが膝から崩れ、病院送りとなった一撃 井上尚弥の衝撃KOをチェック

 決着は衝撃的だった。序盤から攻勢を強めて主導権を握っていた井上は、6回に左フックで初ダウンを奪うと、続く7回には渾身の右ストレートによるカウンターを炸裂させる。これを頭部に受けたモロニーは力なく膝から崩れ落ちた。

 試合直後に病院へ直行したモロニー。敗北の記憶は、いまだ色褪せない。32歳になった彼は、現地時間7月22日に英老舗専門誌『Boxing News』で当時を回顧している。

 まず、下馬評で格上と見られていた井上との対戦が「人生に一度のチャンスだった」というモロニーは、「彼のようなボクサーを倒せば、スーパースターになれる。キャリアは急上昇し、世界は自分のものになる。要するにハイリスク、ハイリターンだった」と舞台裏を告白する。

 しかし、勇猛果敢に立ち向かった井上は異次元だった。「彼は僕の予想をはるかに上回ってきたんだよ」と語るモロニーは、こう続けている。

「彼のスピードは爆発的で、パンチはもちろんパワフルだった。だけど、何よりも信じられなかったのは足さばきだ。こっちが攻撃したい時に彼は被弾しないように絶妙な距離をコントロールする。あのステップバックは異常だった。僕の攻撃は届かず、瞬く間に彼のショットが飛んでくる。彼の足と手の爆発力は想像していたよりもさらに並外れていた」

 猛烈な攻撃を受けたモロニーの言葉には説得力がある。そんなベテラン戦士は、世界を震撼させたKOシーンを「パンチがただただ見えなかった。彼のスピード、タイミング、パワーは想像していたよりもさらに良かった」と振り返っている。

「最後のダウンを受けるころには、意識こそあったけど、僕は自分がどこにいるかも分かっていなかった。人生であんな風に打ちのめされた経験は一度もなかった。僕が右を繰り出した瞬間、ジャブの上から彼が出したパンチのタイミングは申し分がなかった。

 僕はあれ以上のパンチを受けることはないだろうね。うん。ハイライトを見直しても、僕の首が大きく揺れて、耳の中で何かが揺らいでいるのが分かる。実際に打たれたときに気付くんだよ。『ああ、イノウエのパワーは本物だ』とね」

 来る7月25日に井上は東京・有明アリーナで、WBC&WBO世界スーパーバンタム級王者のスティーブン・フルトン(米国)とのタイトルマッチに臨む。

 世界が熱視線を注ぐ大一番を「楽しみだ」と語るモロニーは、フルトンへメッセージを送るかのように、インタビューを締めている。

「イノウエのパワーは破壊的だよ。彼は無慈悲だ。『これは当たる』って、ダメージを与えられると考える、あるいは相手に弱点があると感じたら、冷酷なまでに仕掛けてくる。その瞬間に、あのパワーが本性を現すんだ。異常さ」

[文/構成:ココカラネクスト編集部]


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