セ・リーグ3連覇を目指すヤクルトだが、前半戦は5位で終了。チームの掲げる「次の塁、次の1点」が思うように実践できず、逆…
セ・リーグ3連覇を目指すヤクルトだが、前半戦は5位で終了。チームの掲げる「次の塁、次の1点」が思うように実践できず、逆に相手チームに次の塁、次の1点を許してしまうことが多い印象だ。苦しい戦いが続くなかで、ヤクルト打線の"パワースポット"として、希望をもたらしているのが「代打・川端慎吾」だった。

ヤクルトの
「代打の神様」川端慎吾
【代打打率は驚異の.395】
今シーズン、ここまでの川端の代打成績は以下のとおりだ。
38打数15安打、打率395、打点9、出塁率.465、得点圏打率.438、四球5(申告敬遠4)
川端は前半戦をこう振り返った。
「すごくいい状態、いい集中力で打席に立てたと思います。毎日、同じルーティン、練習をしっかりとして、今の状態をできるだけ崩さないための準備がしっかりとできました。試合前練習のダッシュも、この後、暑さがさらに厳しくなり運動量も少なくなるのでその前にやっておこうとやっています」
7月4日にDeNA戦では、同点で迎えた9回表二死一塁の場面で登場。山﨑康晃から一塁の頭を越える勝ち越し二塁打。同8日の阪神戦は、同点の7回表二死満塁で送り出されると、好投を続けていた先発の伊藤将司からセンター前へ勝ち越しの2点タイムリー。「代打の神様」と呼ぶにふさわしい勝負強さを見せつけた。
相手チームにとって「代打・川端」は4つの申告敬遠が物語るように、じつに厄介な存在だ。
中日のリリーバーとして小気味よいピッチングを見せる藤嶋健人は、7月12日の試合で川端と今季2度目の対戦。ヤクルト2点リードの7回裏、長岡を四球で歩かせ一死一、二塁となった場面だった。
「長岡(秀樹)くんを打席に迎えている時に、ネクストで準備する川端さんが見えて『嫌だなぁ』と(笑)。この気持ちは今年に限らず、毎年どんな球を投げてもしっかり打ち返される印象しかないので、正直なところ勝負はしたくないです」
そして2度目の対戦について、こう振り返った。
「ストライクゾーンで勝負しなければいけないなかで、追い込むまでは真っすぐよりもスプリットのほうがいいだろうと思っていたんですけど......最後は甘いところに入ってしまったのですが、川端さんが打ち損じてくれた。そんな感じでした」
藤嶋はカウント2−1からの4球目をスプリットでセンターフライに打ちとり、ピンチを凌いだ。
「中継ぎというポジション上、川端さんとは厳しい局面で対戦する確率が高いのですが、自分の100%の力を出しても抑えられないんじゃないかというくらいのバットコントローラーですので。今年は抑えることができていますが、自分が小さい頃から見ている選手ですし、すごいバッターだと思います」
【セ・リーグでは群を抜いている存在】
セ・リーグ某球団のスコアラーは川端について、次のように話す。
「セ・リーグの代打では群を抜いている存在だと思います。技術はもちろんすごいのですが、今年は出足でヒットを量産できたことが大きかったと思います。精神的余裕が生まれ、空振りしても自分のいい状態でスイングできています。そのことにプラスして、自分のすべきことを各打席、各カウントでできている印象があります」
スコアラーいわく、対ピッチャーや状況に応じての駆け引きに優れているという。
「ここはアウトコース、ここはインコースに突っ込んでくると読んでくるので、勝負が早いですし、真っすぐ、変化球どちらにも対応してくる。また追い込まれたとしても、そのあとの粘りができる。ふつうは追い込んだからピッチャーはラクになるんですけど、そうはならない。どこがダメとかがないので、本当に厄介な打者です。ほかにもいろいろあるのですが、あまり話しすぎるのもよくないので(笑)」
7月17日、前半戦最後の試合となった巨人戦は、壮絶な打ち合いとなった。10対10の同点で迎えた7回裏一死二塁、打席に丸山和郁が入ったところで、ネクストに川端が姿を見せた。
川端は代打の準備について、「もう慣れました」と言う。本格的に代打のポジションを任されるようになってから、3年が過ぎた。
「『このへんでくるな』というところからスイッチを入れて、ネクストに入っても出番がなかったら一回落ち着いて、もう一度スイッチを入れ直す。ネクストではいつでも不安なことが多いですね。『打てるかなぁ』とか、『ゲッツーになったらどうしよう』とか。そういうネガティブな気持ちをしっかり消化してから打席に向かいます」
先発の時はゲームを通して、打席を重ねるなかで対応していたが、代打での勝負は早い。
「代打ではヒットを狙いにいくだけみたいな場面が多いので、状況にとってバッティングはいろいろ変えますけど、もう本当にシンプルにヒットを打ちにいきます」
【代打・川端のタイミング】
髙津臣吾監督は「今年はまたチャンスになったら川端、スコアリングポジションにいったら川端、という会話がベンチで多くされるようになりましたね」と言って、こう続けた。
「川端については、今シーズンを迎えるにあたって非常に心配していた選手のひとりでした。一昨年(打率.366)がよくて、昨年は悪くて(打率.143)......それを引きずって(シーズンに)入るんじゃないかと、いろんなことを考えていたのですが、川端慎吾は川端慎吾でした(笑)」
先述した巨人戦では、丸山がショートフライに倒れ二死二塁になったところで、髙津監督は迷うことなく代打・川端をコール。満員の神宮球場のボルテージは最高潮に達したが、巨人・原辰徳監督が主審に向かって指で『4』の数字を示す。今年4つ目の申告敬遠の合図だった。セ・リーグの代打では1位の数字で、長野久義(巨人)の3個、宮﨑敏郎(DeNA)、福田永将(中日)が2個で続いている。
代打・川端の存在が強すぎるがゆえに招く申告敬遠。髙津監督に川端を起用するタイミングについて聞くと、「それは難しいですよ」と答えた。
「僕が相手チームの監督だったとしても、一塁が空いていれば申告敬遠を考えるでしょうし、だからといってほかの選手で勝負して凡打になってしまった場合、『なんで川端を使わなかったんだ』と後悔してしまうでしょうし。少し言葉がおかしいかもしれませんが、本当に点がほしい時は川端を先に出して、申告敬遠になってしまったら次のバッターに期待する。もちろん、相手ベンチを見ながらの駆け引きもあるんですけど、基本的にはスコアリングでは川端と決めています」
この試合、延長10回裏にホセ・オスナの申告敬遠のあと、次打者の武岡龍世のレフト前ヒットでヤクルトがサヨナラ勝ち。前半戦を3連勝で締めくくった。
後半戦、一つひとつ順位を上げていくためには、「代打・川端」は大きなポイントのひとつで、相手チームが川端と勝負せざるを得ない状況をつくることが重要になる。
前出の長岡は8番を任されることが多く、「なんとか慎吾さんにつなごうという気持ちで打席に入っています」と話した。前述の7月4日の試合では、川端のヒットで一塁から一気にホームに生還したのが長岡だった。
「二死二塁とかで慎吾さんに回してしまうと勝負されないことが多いので、その前に僕がしっかり打たないといけないんですけど、前半戦はなかなかうまくいかなくて......。後半戦は慎吾さんだけでなく、うしろにつなぐ意識で頑張ります」(長岡)
長岡をはじめ、不調だった選手たちも復調の気配があり、若手にもヒットが出るようになった。そうなれば、川端が勝負を避けられる場面は少なくなっていくはずだ。
川端に後半戦に向けて、バッティングでもっと向上したいところはあるかと聞くと、少し考え込んでから「もっと長打を打てたらいいんですけど」と話した。
「とはいえ、代打で長打を打つのは難しいので、確率性を重視してランナーを還すことに集中したいですね」
髙津監督は前半戦の総括のなかで、「できることを一生懸命、とれるアウトを一生懸命、防げる1点を一生懸命。それに尽きるんじゃないかと思います」と語った。
これらを積み重ねた時、「代打・川端」の大仕事は回ってくるはずだ。