サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マ…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回のテーマは、「どこにも規定がないって本当?」なアレについて。

■レッドカードが出ても11人のまま

 6月24日に行われたJ1リーグ第18節の「京都サンガF.C.×横浜FC」で、前半のアディショナルタイムに横浜FCの三田啓貴がレッドカードを示された。しかし横浜FCは後半を11人のまま戦った。三田はピッチ上でプレーしていた選手ではなく、横浜FCの交代要員だったからである。

 直前のプレーで、メインスタンドから見て右エンドの右コーナー付近にボールが出た。和角敏之副審は攻撃側の京都ボールであることを旗で示したが、実際には京都FW山崎凌吾が最後に触れて出したものだった。しかし京都のスローインとの判定であることを見た山崎はそのまま走っていってボールを投げようとした。その一方で、近くでウォーミングアップしていた横浜FCの選手たちが激しく和角副審に詰め寄って猛烈に抗議する。

 投げる先を見つけられなかった山崎は上がってきたDF白井康介にボールを渡し、白井が自陣方向にボールを投げたところで、池内明彦主審が強く笛を吹いた。その直前に和角副審が右手に持った旗を上げ、プレーを止めるよう池内主審に求めたからだ。

 コーナーのところまで走り寄り、横浜FCの選手たちを遠ざけて和角副審と数十秒間話した池内主審は、やがて三田のところに歩み寄り、レッドカードを示す。横浜FCの選手たちの先頭に立って和角副審に抗議していた三田は、最後の瞬間に右手を広げようとした。もちろん、和角副審を打とうとしたわけではなかったはずだ。だが結果的にその指先が和角副審の肩あたりをとらえてしまった。和角副審が旗を上げたのは、その直後だった。

■退場劇の最大の論点

 レフェリーに対する抗議が許されているわけではない。詰め寄ることも同じように禁じられた行為だ。ときとして判定に不満が起こるのは仕方がない。しかし激しすぎたり、執拗であったり、その間に侮辱的な言葉を発したりポーズを取ったりしたりしない限り、レフェリーたちは大目に見る。それでも、その経過のなかでレフェリーの体に触れてしまったら、即レッドカードである。三田が和角副審に触れてしまったことは、ビデオ・アシスタントレフェリー(VAR)が確認した。

 このVAR確認中にボールを出したのは京都の山崎だったことも池内主審に伝えられ、スローインは一転して横浜FCボールとなった。厳密に言えばVARが介入する範囲を逸脱しているが、一連のプレーをチェックするなかで明白になったことだったので、VARのアドバイスを受けて判定を変えたことはそう大きな間違いとは思えない。ただしこれは個人的な感想である。

 さて、ここでの最大の論点は、VARの運用や、選手の手がレフェリーの体に触れたか触れなかったかではない。そもそも、スローインの判定に対してウォームアップ中の交代要員が集団で(7人全員いた。彼らにウォームアップの指導をしていた横浜FCの2人のコーチは、両手を広げて選手たちを止めていた)副審のところまで詰め寄り、抗議をしたことだ。

 ピッチ上の選手が副審に向かって「逆でしょう!」「マイボール!」などと言うならわかる。だが交代要員が詰め寄るというのは論外だと、私は思うのである。そして、こうした傾向は、読者は意外に思うかもしれないが、昨年のワールドカップにおける不適切な試合運営の結果生まれたのではないかと考えている。

■カタールW杯での特例

 カタールで行われた昨年のワールドカップで、私が最も驚いたことのひとつが、「ウォームアップエリア」の設定だった。

 カタール大会では8つのスタジアムが使われたが、「ドイツ×日本」、「日本×スペイン」など8試合が行われたハリファ国際スタジアムを除く7スタジアムがこの大会のためにまったく新しく建設されたものだった。本来は陸上競技場であったハリファはピッチの周囲に大きなスペースがあったが、他のスタジアムは当然サッカー専用であり、できるだけ観客席をピッチに近づけようとした結果、ピッチ周囲のスペースはごく限られたものとなった。

 そこで、大会を主催する国際サッカー連盟(FIFA)が決めたのは、「ウォームアップエリアをテクニカルエリアの延長にする」という考えだった。

 主に監督がピッチ内に指示を出すベンチ前の「テクニカルエリア」は、タッチラインから1メートルのところまで広げられている。カタール大会では、タッチラインに並行なテクニカルエリアの線を延長する形で、濃い緑の塗料を使ってコーナーの横まで破線を引き、そこまでを「ウォームアップエリア」としたのである。

■異様な光景

 ピッチのすぐそばで交代要員たちがウォームアップをしている光景は、開幕当初から私には非常に異様に映った。驚くことに、このエリア設定は周囲に広大なスペースがあるハリファ国際にも適用されていた。

 メインスタンドから見て左側のベンチを使うチームはまだ問題が少ない。しかし右側のベンチを使うチームの選手たちは、メインスタンド側のタッチラインの右半分を受け持つ副審のすぐ背後で動き回っているのである。副審はタッチライン沿いに動く。ときにサイドステップを使い、ときには選手たちに負けないスピードで疾走する。勢いよく旗を上げなければならないときもある。その「走路」の幅が1メートルしかないのは辛いし、ときに怖かっただろう。陸上競技のトラックの1レーンの幅でも、「4フィート(1.22メートル)あるというのに…。

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