ワールドカップ・カタール大会で次々と強豪国を破り、日本中を熱狂させたサッカー日本代表。実は、中心メンバーとして活躍した…

 ワールドカップ・カタール大会で次々と強豪国を破り、日本中を熱狂させたサッカー日本代表。実は、中心メンバーとして活躍した三笘薫田中碧板倉滉権田修一はともに、神奈川県川崎市に根差す町クラブ『さぎぬまSC』の出身だという。

 そんな日本代表輩出の秘密を探るべく、さぎぬまSC代表・澤田秀治氏にインタビューを敢行。4人の幼少期のエピソードとともに、その知られざる裏側に迫る!

■子どもを育てる“伝え方”

――三笘選手は、著書『VISION 夢を叶える逆算思考』の中で、さぎぬまSC時代に行っていた「ボールを止めて蹴る基本練習」と「コーンドリブル」が自身の原点と語っていました。やはり基本練習を重視しているのでしょうか?

 そうですね。基本ができていないと応用はきかないと考えています。たまたまヘディングでゴールができた、足をふったらシュートが打てたというのではなく、基本技術をしっかり身につけて、サッカーのスピード感あるプレーに対応できるようにならなくてはなりません。そのために、クラブでは、小学校1年生から足もとで止めて蹴る、アウトサイド、インサイドでドリブルをできるようにする、利き足でないほうも同じようにドリブルができるようにするといったことを徹底させています。練習開始の15~30分は必ず基本練習で、そのあとにテーマを決めた練習に移るというのが伝統ですね。

――三笘選手が著書で言及しているように、「褒めて伸ばす」ことも大切だとか。

 はい。何よりサッカーを楽しむことを大切にしているので、「褒めて伸ばす」指導を心がけています。スポーツは違いますが、メジャーリーガーの大谷翔平選手は、喜怒哀楽を前面に出して、野球を心の底から楽しんでいますよね。ああいうプレーができるサッカー選手を育てましょうというのが目標なんです。

 人は必ずミスをするので、その時にどう伝えるかが大事になってきます。小学生は、シュートかセンタリングか分からないプレーをするんですが、その時、「中途半端なプレーをするな!」と叱るのではなく、「あれはシュートを打ったんだろ? あんな遠いところからよく打ったな。いい選択だったよ!」と伝えるようにしています。褒める点を探して、選手が自信を持てるような指導をしないと、試合でシュートを打つべきところで、委縮してしまうような子に育ちますから。そうなってしまったら、サッカーも楽しくないですし、もったいないと思うんです。

■日本代表選手も経験したクラブの伝統

――昔と違い、今の子どもたちには褒めて伸ばす指導のほうがあっているのかもしれませんね。その他に、何かクラブとして行っていたことはありますか?

 我々のクラブでは、夏に小学1年生から6年生まで全員で3泊4日の合宿に行くのが伝統なんです。普段は学年別で活動していますが、その時だけは学年関係なしにグループを作って共同生活を送る。そこで、6年生の先輩が、後輩にごはんの食べ方や片付けといった生活面を指導します。もちろん、練習においても、試合を通じてチームプレーを指導します。年代を超えて、互いのリスペクトがないと成立しない取り組みなので、子どもたちの人間教育に大きな影響を与えていると思っています。合宿前に、必ず「個人ではなく、チームで生活する」ということを1年生にも説明して、団体行動を意識させていますね。

――先の日本代表選手4名も、こういった伝統を経験されてきたんですね。一つの町クラブから多数の日本代表選手が輩出されるのは珍しいと思います。何か秘訣はあるのでしょうか。

 他のクラブも同じなのかもしれないですが、あえて言うなら、親御さんが練習をサポートしたり審判をしたりと、深くクラブ運営に関わってくださっているのが大きいと思います。各ご家庭でも、連日の試合で疲れが残らないよう、日々の食事を工夫したりもしているそうです。そういったサポートがないと、サッカーを長く続けられません。プレーで上手くいかなかった時に「あなたなら絶対にできる!」と家族が褒めてくれたら、それを支えにまた頑張れますからね。親がいなくても子は育つと言いますが、「親のサポートがあれば、もっともっと子は育つ」んですよ。もし、サッカー経験がない親御さんなら、ルールを一から学んで、審判の資格を取ったりして、なにかしらサッカーに関わってもらいたい。すると、子どもは必ず成長した姿を見せて恩返ししてくれます。

さわだ・ひでじ
1958年5月17日、大阪府生まれ。長男のさぎぬまSC加入により、サッカーに携わるようになる。以降、チームの監督を務めるなどし、2004年には代表に就任。のちに日本代表となる、三笘薫、田中碧、板倉滉、権田修一らを輩出した。現在は、川崎市サッカー協会4種役員や宮前区少年少女サッカー連盟委員長も務める。

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