7月8日、大阪。全日本強化合宿は百花繚乱だった。日本女子フィギュアスケート界の実力者がそろったと言える。 世界女王、坂本花織が女子シングルを牽引しているのは間違いない。全日本選手権、世界選手権を連覇。総合力で坂本を超える選手は、今や世界に…

 7月8日、大阪。全日本強化合宿は百花繚乱だった。日本女子フィギュアスケート界の実力者がそろったと言える。

 世界女王、坂本花織が女子シングルを牽引しているのは間違いない。全日本選手権、世界選手権を連覇。総合力で坂本を超える選手は、今や世界にもいないだろう。

 もっとも、追随するライバルは少なくない。

 坂本と同門の三原舞依は昨シーズン、グランプリ(GP)シリーズで連勝し、GPファイナル女王に輝くなど、力強さも身につけつつある。

 世界ジュニア女王の島田麻央も昨年の全日本で3位に入るなど、新たな時代の扉を開くような底知れなさを見せつける。また、疲労骨折で1年休養して復活を遂げた樋口新葉も、北京五輪メダリストとして虎視眈々と上位を狙う。

 そして伏兵たちも機会を待っている。

●渡辺倫果は「苦しみ」をも表現

「スピード出世」。昨シーズン、とくに前半戦を席巻したのは渡辺倫果(20歳、TOKIOインカラミ)だった。



昨シーズン飛躍を遂げた渡辺倫果

 渡辺はロンバルディア杯でISU(国際スケート連盟)大会初優勝を飾ると、GPシリーズでは代替出場のスケートカナダでいきなり優勝。NHK杯でも5位に入ってGPファイナル出場権を得て、4位と表彰台まであと一歩に迫った。

 全日本ではショートプログラム(SP)の失敗が響いて12位と低迷したが、四大陸選手権、世界選手権に出場する栄誉を得た。

 新シーズンは真価が試される。

「(全日本合宿は)今回が初めての参加です。ノービス以来、みんなとなかなかいることがないので、楽しい時間を過ごせています」

 合同インタビューで、渡辺はそう感想を口にしている。ジュニア時代は思うように結果が出ず、遅咲きの選手と言える。しかし辛酸を舐めたことが、むしろスケーターとしての厚みになっているようだ。

「新しいフリーは3、4曲を組み合わせた曲なんですが、テーマとしてはジュニア時代の苦しさを経て今の立場になる、という過程を。

 冒頭のところでテレビが壊れたような音があって、それを『絶対使いたい』って言ったら、初めてタッグを組んだ振付師のシェイ=リーン(・ボーン)さんに『どうして?』って聞かれて、『ジュニア時代の苦しさと重なるから』と返したら、『それをつなげていこう!』と言ってもらえて」

 苦しかった過去も、彼女の大事なピースなのだろう。すべてを出しきって、その先に進むつもりだ。

「昨シーズン、すでに夢の舞台に出ているので、その先を見据えて、それ以上の結果を出せるように。出ることは当たり前にして」

 渡辺は言う。

「トリプルアクセルはショート1本、フリー2本、合計3本をベースに入れられるように。4回転もループ、ルッツと取り組んでいます。ループは早く習得できそうですが、今シーズンは振り付けが終わっているので、入れないかな。

 でも、大きな大会じゃなかったら......普通は(難易度で)トーループ、サルコウになるんでしょうけど、私は不仲なので(笑)。親友のループと行きます!」

 渡辺は、彼女らしいリズムで爪を研ぐ。

●15歳・中井亜美「お姉さんたちの演技を学べたら」

 そして、中井亜美(15歳、TOKIOインカラミ)もジュニア年代ながら、新シーズンの「刺客」のひとりと言えるだろう。昨年の全日本では、フリーでトリプルアクセルを2本成功。スピン、ステップもレベル4で、なんと4位におどり出た。



ジュニア世代ながら昨年の全日本選手権で4位に入った中井亜美

「今回の合宿は、お姉さんたちの演技を見つつ、いいところを学べたら。やっぱりスケーティングは格が違うので。どうやったら(スケートが)伸びるのか。間近で見られるのはいい経験です」

 合宿の囲みインタビューで、中井は心境を早口で話している。

「ショートは『Baby, God Bless You』で、振り付けは鈴木明子さん、テーマは命です。途中で曲調が変わるところがあるので、その変化も表現できるようにしたいです。

 フリーは『Only Hope』で、振り付けはデイビッド・ウィルソンさん。初恋の曲で歌詞があるので、その和訳に沿って演技できたら。どちらもきれいな曲です」

 新シーズンは、ジュニアを主戦場に腕を磨く。全日本ではダークホースになるはずだ。

●成長著しい同世代・同門の千葉百音、吉田陽菜

 千葉百音(18歳、木下アカデミー)、吉田陽菜(17歳、木下アカデミー)のふたりも、全日本では5、6位と健闘している。ふたりはジュニア年代でしのぎを削り、そのままシニアに雪崩れ込む。

 千葉は今年2月の四大陸選手権で銅メダルを勝ちとったあと、ISU大会のプランタン杯で優勝し、進境著しい。

「今シーズンは演技に組み入れるのは難しそうですが、4回転トーループはもう少しで降りられそう」と手応えを口にし、「毎日が勉強で。悪いところだけ直す感覚もつかめてきました」と成長を続ける。

 新シーズンはGPシリーズのスケートアメリカ、フランス杯と2試合に出場予定だ。

 一方、吉田はSPが『Koo Koo Fun』という曲で、合宿の曲かけ練習でもすでに個性が際立っていた。フリーは「鶴」をイメージ。ローリー・ニコルの振り付けが落とし込まれると、魅力的なプログラムになりそうだ。GPシリーズはスケートアメリカ、中国杯と2戦にエントリーしている。

 そして合宿に参加していない選手でも、松生理乃(18歳、中京大)、河辺愛菜(18歳、中京大)、住吉りをん(19歳、オリエンタルバイオ/明治大)など実力者が控える。2021年までトップを走っていた紀平梨花(20歳、トヨタ自動車)も、ケガからの復活が待たれる。他にも頭角を現す選手がいるかもしれない。

 日本女子フィギュアは、今シーズンもにぎやかになりそうだ。