絶望的なオーストリアGPから中3日で、角田裕毅は「F1の聖地」と謳われるシルバーストンへとやってきた。「今年ここまでのワーストレースだったかもしれません。ターン4で飛び出したせいで、少しフロアにダメージがありました。でも、いずれにしてもポ…

 絶望的なオーストリアGPから中3日で、角田裕毅は「F1の聖地」と謳われるシルバーストンへとやってきた。

「今年ここまでのワーストレースだったかもしれません。ターン4で飛び出したせいで、少しフロアにダメージがありました。でも、いずれにしてもポイントを獲得できるようなペースはなかったので、1周目から少しでもポジションを上げようとアグレッシブに攻めたことに後悔はありません」

 空力効率の悪いAT04では、高速コーナーを速く走るためにダウンフォースを増やそうとすればドラッグ(空気抵抗)が増え、ストレートでスピードが伸びず勝負できなくなる。

 レッドブルリンクで苦しんだということは、同じように空力効率のよさが求められるシルバーストンでも苦戦を強いられることは間違いない。



角田裕毅にとってシルバーストンはホーム

【新型フロア投入の効果は?】

 角田は語る。

「ほとんどが高速コーナーのシルバーストンで求められるマシンというのはオーストリアとかなり似ていて、ドラッグが少なくてダウンフォースが多いことです。オーストリアではすべてが足りていませんでした。

 ドラッグが大きすぎてストレートラインスピードがかなりプアでしたし、それと同時にダウンフォースも十分ではないですし、マシン自体のドラッグを低減する必要がありますし、それと同時にダウンフォースを増やす必要もあります(苦笑)。足りないのはすべてですね」

 しかし、今週末のイギリスGPには新型フロアが投入される。これがAT04の問題を改善してくれるだろうと、角田は期待を寄せている。

「今週末は大きなアップグレードを投入するので、そこ(空力効率の問題)は楽観視していますし、前進できると思っています。今回のアップグレードはダウンフォースを増やすというだけでなく、これまでとは少し違ったアプローチを採ったものですし、データ上ではかなりよさそうなので、実際にコース上で試すのを楽しみにしています」

【最高の快感を得られるか?】

 トラックサイドエンジニアリング責任者のジョナサン・エドルスによれば、このフロアは空力効率の向上だけでなく、AT04がずっと抱えてきたハードブレーキングから低速コーナーへの進入時のリア安定性を向上させ、レイトエントリーを可能にすることを狙ったものだという。

 まさに、角田の得意技を可能にするためのアップデートだ。

「コーナーへのレイトエントリーを可能にするためにはリアの安定性が重要で、そこが今、我々が改良を進めているところだ。シーズンを通して改善はしてきたが、まだ弱点であることに変わりはない。イギリスGPで投入するフロアは、その部分をターゲットにして改善を見込んだ初めてのアップデートということになる」

 このアップデートは、シーズン序盤のつまずきから空力部門の体制を変更し、そこから切り替えた方向性での開発がようやくかたちになったものだという。

「(シーズン序盤に)空力開発の方向性を変更したところから実際にマシンにアップデートが投入できるまでは時間がかかるもので、ようやくここからそのエアロマップ変更の効果がかたちになってくるところなんだ。そこからさらにアップデートも重ねていく予定だ」

 角田もこのアップデートが今後の開発方向性を見定めるうえで重要なキーポイントになると見ている。フリー走行が1回しかないスプリント週末のオーストリアには投入せず、このシルバーストンでしっかりと新型フロアの効果を見極めたいというのは、この新型フロアがそれだけ重要なアップデートだからだ。

「先週末とは違ってスプリントではなく通常のレースフォーマットなので、レース週末を通してしっかりとアップデートパーツをテストすることができます。シーズン後半戦に向けて何が期待できるのかを見極めるうえで重要なレースになると思います」

 シルバーストンは長いストレートと高速コーナーが連続するドライバーズサーキットであり、F1マシンの性能が遺憾なく発揮される場所として知られる。優れたマシンで走ればドライバーは最高の快感を得ることができるが......。

【冗談を言えるほどリラックス】

「ほぼすべてのドライバーがシルバーストンは好きだと思いますし、もちろん僕もそうです。走っていて本当に楽しい昔ながらのサーキットで、すごくクールで大好きです。F2ではスプリントレースで優勝しましたし、フィーチャーレースでも表彰台を獲得したので、いい思い出もあります」

 シルバーストンという伝統のサーキット、F2時代に住み慣れた土地、そして待望のアップグレード。オーストリアGPではあれだけの苦渋を味わった角田だが、イギリスでは非常にリラックスしているように感じられた。

「いい気分ですね、以前はミルトンキーンズに住んでいたので、僕にとってはホームグランプリのような雰囲気です。チームとしても、ここからそう遠くないところにあるビスターには風洞と空力部門がありますし。

 イギリスのファンのみなさんはモータースポーツに対してすごく情熱的ですし、この雰囲気は本当に特別で、F1にとってとても重要なものだと思います。僕は今回イギリスに来てからまだフィッシュ&チップスを食べていないので、それを食べるのがまずは今週末のターゲットのひとつではありますね」

 そんな冗談を言えるくらいに吹っ切れている。再び角田が自分の実力をフルに引き出し、マシンの実力を十分以上に引き出して結果につなげるシーズン序盤戦の輝きを取り戻せるか。

 このイギリスGPがシーズンのターニングポイントになることを願いたい。