ロコ・ソラーレの吉田知那美がこれまでの人生で影響を受けた「言葉」や「格言」にスポットを当てた連載。第9回は、自身とチームの思いを代弁してくれた妹・夕梨花の発言と、本日7月7日に誕生日を迎える彼女へのメッセージを綴る――。吉田知那美にちなんだ…

ロコ・ソラーレの吉田知那美がこれまでの人生で影響を受けた「言葉」や「格言」にスポットを当てた連載。第9回は、自身とチームの思いを代弁してくれた妹・夕梨花の発言と、本日7月7日に誕生日を迎える彼女へのメッセージを綴る――。

吉田知那美にちなんだ『32の言葉』
連載◆第9エンド

世界一への探求心が強くなった
(吉田夕梨花)



日本カーリング史上初の姉妹出場となった2018年平昌五輪にて。写真:本人提供

 ロコ・ソラーレの選手のパーソナリティを説明する時、私はいつも「石橋を叩いて渡る」という諺を思い浮かべます。

 石橋があるのに面白そうだからと川を飛び越えようとするのが私と(鈴木)夕湖だとすると、慎重なさっちゃん(藤澤五月)は石橋が割れるくらい何度も叩いて渡れるかどうか確かめて、それをじっと観察し分析しているのが、ゆり(吉田夕梨花)というような感じです。

 ゆりは小さな頃から本当に用心深く、姉たちを観察している子だったと両親から聞きました。少し怖がりでもあり、何かに挑戦する時もできるかできないか、自分なりに見極めてから着実に行動に移す。ゆりの小さな頃の口癖は「無理」だったというのは、吉田家ではお馴染みの思い出話です。

 何事も熟考してから行動を起こすのは、今も変わりません。たとえばメディアの取材時も、自分のなかでしっかりと考えて、言葉がまとまってからでないと彼女は口にしません。

 逆に私は、感覚頼りの性格なうえにとてもお喋りなので、頭のなかにわいた言葉をそのままポンポン口に出してしまいます。ゆりは私に対して、「チームの思いを言語化してくれる」といい解釈をしてくれているのですが、たくさん発した言葉がたまたま的を得る時があるだけ、というのが私の見解です。

 そんなゆりが、今年の世界選手権のあとに「世界一への探求心が強くなった」という発言をしていたのを、あるインタビューで読みました。

 ロコ・ソラーレは今でこそ世界で戦うチームのひとつになりましたが、結成した2010年、私が入った2014年、さっちゃんが来てくれた2015年あたりでも、まだ「世界一」を具体的な目標として掲げられるような場所には立てていない途上のチームでした。「世界一」はその当時の私たちの現在地からはあまりに遠く、目的地に設定してもルートがわからずに迷子になってしまいそうだったので、それよりも目の前のより具体的な成長課題を達成することに集中していました。

 だから、「世界一」を目標として口にできるようになったのは、ここ最近のことなのです。

 単純に勝ちたい、強くなりたいという気持ちはある。でも、「世界一」の称号がほしいからやっているかと言われたら、それは違う。チームで「世界一」を目指して試行錯誤しているこの時間も、「世界一」や「金メダル」と同じ価値がある。それをうまく説明する言葉を私は持っていなくて、そんな時にゆりの発言を目にしました。

 そこには世界一になりたいという欲より、「世界一に到達したチームと、そうでないチームとの差はどこにあるのだろう。ロコ・ソラーレがそこへ到達するには、どんな方法が効果的だろう」という好奇心が強くにじみ出ていて、それは私の心にもスッと入ってきました。

 研究者みたいで、ゆりらしいなと思いますし、「世界一」へ至る道を楽しみ、勝つも負けるも研究のひとつとして肯定し、悲観せずに落ち着いて一歩ずつ着実に進む、彼女の雰囲気そのままの表現だなと感じました。

 ロコ・ソラーレはこれまで、ゆりの表現どおり「ただ勝つこと」ではなく、「このメンバーで、どうパフォーマンスし、どう勝つか」の好奇心を大切にして、チームを作ってきました。

 そして、ゆりよりちょっとだけ長く生きている姉の私が最近知ったのは、「この時間は永遠ではない」ということです。世界中の尊敬する先輩たちから教わった、当たり前だけれど忘れがちな事実。どんなに強いチームにも、すばらしい選手にも、それぞれのキャリアにいつか終わりはきます。

 それは私たちも例外ではなく、すべてのことにタイムリミットや区切りはきっと存在しています。いつ訪れるかはわからないけれど、それを意識して過ごすことができれば、常に「今すべきこと」がよりクリアになる気がします。

 そして、ゆりがチームの気持ちを優れた言葉で代弁してくれた「世界一への探求心が強くなった」という希望を満たす時がもし来た時、その時も隣に立っていられるように努力を続けたいと思います。

 直接はなかなか言えないけれど、これから始まる今季も、その先の"いつか"までも、よろしくお願いします。ゆり、お誕生日おめでとう!

吉田知那美(よしだ・ちなみ)
1991年7月26日生まれ。北海道北見市出身。幼少の頃からカーリングをはじめ、常呂中学校時代に日本選手権で3位になるなどして脚光を浴びる。2011年、北海道銀行フォルティウス(当時)入り。2014年ソチ五輪に出場し、5位入賞に貢献。その後、2014年6月にロコ ・ソラーレに加入。2016年世界選手権で準優勝という快挙を遂げると、2018年平昌五輪で銅メダル、2022年北京五輪で銀メダルを獲得した。2022年夏に結婚。趣味は料理で特技は食べっぷりと飲みっぷり。