6月24日、プロレスリング・ノアの拳王デビュー15周年記念大会が、拳王の故郷・徳島市で開催された。その試合後、リング上でマイクを持った拳王は「安定望めば、進化なし」と語り出し、「今日で金剛を解散する」と宣言。2019年5月4日に拳王が結成…

 6月24日、プロレスリング・ノアの拳王デビュー15周年記念大会が、拳王の故郷・徳島市で開催された。その試合後、リング上でマイクを持った拳王は「安定望めば、進化なし」と語り出し、「今日で金剛を解散する」と宣言。2019年5月4日に拳王が結成したプロレスリング・ノアを代表するユニット「金剛」は4年1か月で幕を閉じた。

 続いて、「これからはプロレス界のことを考えて俺は突き進んでいく。そして、俺はプロレス界の頂点を取ってやる。それが16年目、拳王の誓いだ」と熱い想いを口にした。7月9日の八王子大会で清宮海斗とタッグを組むことも話題になっているが、拳王の「新たなる一歩」に注目が集まる。



YouTubeチャンネルでも人気を集めるノアの拳王

 拳王といえば、プロレス界で屈指の発信力を持つことでも知られている。2022年4月、記者会見での「今までもみ消されてきたことが数々ある。大人の事情、クソくらえ」という決意表明から始まったYouTube「拳王チャンネル」。7月3日現在、登録者数6.27万人、配信動画200本以上、動画の総視聴回数が1000万回を超える人気コンテンツである。

 他の格闘技とのコラボ、対戦相手の経歴紹介、「○○をやってみた」企画、過去の裏話や暴露話など、既存のプロレスチャンネルとは一線を画し、幅広い層に支持されている。拳王はなぜYouTubeを始め、どこを目指しているのか。本人に聞いた。

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――拳王選手がYouTubeチャンネルを立ち上げた経緯を教えてください。

拳王:以前から、発信すること、世間に対するアピールが必要だと思っていた。「プロレスを、もっとプロレスファン以外に届けたい」と。危機感を覚えたのは、2017年12月にGHCヘビー級王座を獲得した頃かな。「世間の人たちに興味を持ってもらえないと、プロレス界に未来はない」と感じるようになったんだ。

――2022年4月15日に「拳王チャンネル」を開設。現在1年以上が経過しましたが、手応えを感じたのは、いつ頃ですか?

拳王:開設して2、3か月経ったあたりかな。ノアのファン以外の人も反応するようになってきたからな。

――企画は拳王選手ご自身で考えているのでしょうか?

拳王:自分だけではなくスタッフとも考えている。試合後の生配信も気心の知れたスタッフがいてくれるから、フレキシブルに対応できる。その点は本当にありがたいと思っているぞ。

――試合後の生配信はファンにとっては嬉しい反面、体のケアを優先してほしいと心配になるのではないかと思います。

拳王:俺は、常に「自分がファンだったら、どんなことをされたら嬉しいか?」を考えている。試合後の生配信は、確かに体的にはつらい。だけどクソヤローどもが喜んでくれるなら、これからも発信していくからな。

――これまで200本を超える動画をあげていますが、ご自身で印象に残っている動画はありますか?

拳王:昨年7月16日のGHCヘビー級王者・小島聡戦の前に配信した「口喧嘩抗争動画」や、今年1月21日の内藤哲也戦に向けての「内藤哲也 丸裸年表」の動画は反響が大きかったな。多くのプロレスファンに対して、試合に向けて期待感を高めることができたんじゃないかな。

――拳王選手自ら対戦相手について調べて発信してくれることは、ファンにとって新たな楽しみになっているでしょうね。

拳王:対戦相手を研究することで、俺自身も対策も練りやすくなる。それに、他団体のプロレスファンやプロレスを観ない人の中にも、「動画が気になったから、この大会を見てみよう」っていう人がいたと思うぞ。

 1月21日の『WRESTLE KINGDOM 17 in 横浜アリーナ』大会はペイ・パー・ビュー(PPV/1本の視聴ごとに課金されるビデオサービス)もあったけど、「拳王チャンネルを見て興味を持った。会場には行けないけどPPVを購入して観戦する」という声もあったのは嬉しかったぞ。

――全日本プロレスとの絡みもあり、5.7大田区大会では、タッグマッチの対戦相手だった諏訪魔選手とSAITO BROTHERSにリング上でマーダーバックに入れられ、連行されてしまいました。しかしタダでは起きず、翌朝にはそれをネタに生配信を行ない、猛烈に抗議していましたね。

拳王:スタッフに連絡して、早朝に来てもらって撮った。「どうしてあんな生配信をやったのか?」と聞かれると困るけど、あくまで直感だな。「YouTubeを見ている人に楽しんでもらえるかどうか」を常に考えていて、あの時は「このタイミングだ」と思っただけだ。

――今後、拳王チャンネルをこのように進めたい、といったプランはありますか?

拳王:さっきは、プロレスが世間に広がるようにやるとも言ったけど、それだけを追求するのもよくないと思っている。その場その場で「おもしろそう!」とひらめいたことを臨機応変に対応することも大事。そのひとつで、俺が原宿・竹下通りで気づかれるのかどうかを検証した動画は面白い企画のひとつだったと思うね。

――最初は気づかれず、最後は試合用のコスチュームまでまとう姿にプロ意識を感じました(笑)。今年の2.21東京ドーム大会前には、全日本プロレスの50周年記念くじを、タッグマッチの対戦相手が出るまで引き続けるという動画も。あれはどういった考えで撮ったんですか?

拳王:プロレスファン以外、 特に小さい子が見ても面白いと思える動画はどんなものか、を考えての企画だよね。くじが当たるのか外れるのか、に焦点を当てる内容ならわかりやすいだろうし。

――先日の徳島で開催された、拳王選手のデビュー15周年興行では、拳王チャンネルで発表された合言葉を言うと学生の入場が無料に。それも、プロレスを気軽に観に来てほしい、プロレスを身近に感じてほしいという拳王選手の思いを感じました。

拳王:このままだと、プロレスファンは減っていってしまう。その危機感から、記念大会でプロレスを観るハードルを下げたんだ。俺が子供の頃にプロレスを見て、新崎人生さん(みちのくプロレス)に憧れたように、今の子供たちにもプロレスを好きになってもらいたいからな。

――あらためて、今後の目標を教えてください。

拳王:YouTuberとして稼ぎたい、とは思ってない。面白いことを発信して、それがきっかけでプロレスに興味をもってくれればいい。だからクソヤローども、これからも拳王チャンネルをよろしくな!

【プロフィール】
拳王(けんおう)

1985年1月1日生まれ、徳島県出身。174cm。95kg。プロレスリング・ノア所属。3歳の頃より日本拳法を習い始め、2005年、明治大学在学中に日本拳法フランス世界大会で優勝。大学卒業後、同郷の新崎人生が所属する「みちのくプロレス」の門を叩き、2008年3月2日デビュー。2014年10月にGHCジュニアタッグ王座を獲得すると、翌年3月にプロレスリング・ノアに移籍。GHCヘビー級王座、GHCナショナル王座、GHCタッグ王座など主要タイトルを獲得した。2019年5月に反体制ユニット「金剛」を結成。2023年3月に征矢学と組み、全日本プロレスの世界タッグ王座、2023年4月には近藤修司をパートナーにDRAGON GATEのオープン・ザ・ツインゲート王座をそれぞれ獲得した。