サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マ…

 サッカーは無数のディテール(詳細)であふれている。サッカージャーナリスト・大住良之による、重箱の隅をつつくような「超マニアックコラム」。今回は「サッカーの法律」って何?

■なぜ「法律」なのか

 サッカーのルールは、日本サッカー協会は「サッカー競技規則」としているが、英語では正式には「Laws of the Game(直訳すれば『競技の法律』)」ということになっているのである。「Rules of the Game」ではないことに、私は長い間疑を抱いてきた。

 「Law」という言葉は、「法律」と日本語訳されているように、公的権力、一般的には国家権力が定め、執行している規則に使われる。ときに刑罰など国家権力の発動を伴うものであるため、現代的な民主社会ではその制定には厳格な手続きが求められている。それに対して「Rule」とは、必要に応じて設定や調整されるもので、スポーツやゲームのやり方を示したり、企業・学校などの団体で行動の指針を示したりする「約束ごと」を定めたものということができるだろう。

 サッカーの「競技ルール」にふさわしい言葉はどちらだろうか。100人に聞いたら、おそらく99人は「Rule」と答えるのではないかと、私は考えている(どんな集団にも、100人にひとりぐらいは「へそ曲がり」がいる)。さまざまな競技の「競技ルール」を調べてみたが、予想どおり、大半は「Rule」であった。

■18世紀の「源流」

 ところがサッカーでは、160年間の長きにわたって「Law」なのである。サッカーの他に競技ルールに「Law」が使われているのは、ラグビーとクリケットぐらいのものである。すべて英国で誕生した競技である。

 サッカーとラグビーはともに19世紀半ばに競技ルールが定められ、近代スポーツとして誕生して現代に至っている競技である。それに対しクリケットの最初の競技ルールが書かれたのは、それより1世紀半近くも前の18世紀前半のことだった。これはある試合のための合意書という形だったが、その後条文が整備され、「Laws of Cricket」として定着した。

 おそらく、スポーツの競技ルールを「Law」とした始まりはクリケットであり、1863年にサッカーの、そして1871年にラグビーの最初の競技ルールが書かれたときにも、クリケットの競技ルールが念頭にあったに違いない。当時のスポーツマンたちは、夏にはクリケット、冬にはフットボール(サッカーやラグビー)というのが普通だったからだ。

■「ルール」の語源

 「Rule」という英語は、ラテン語の「regula(規則、規定)」を語源とし、フランス語を経由して定着したものである。1066年に北フランスからノルマンディー公ウィリアムがイングランドに侵攻して始まったノルマン人の征服(ノルマン・コンクエスト)により、フランス語のボキャブラリーが大量に英語に流れ込んだ。当時のフランス語「Ruile」を「被征服民」である英国人たちが「Reule」と使い、やがて「Rule」の表記となった。

 それに対し「Law」は、「ノルマン・コンクエスト」以前の「古期英語」時代からあったボキャブラリーで、古期北欧語、すなわちスカンジナビア半島のゲルマン系の言葉に起源をもっている。もしかしたら、クリケットをプレーしていた18世紀の「英国紳士」たちは、もう流入して500年以上もたつとはいえ「外来語」であるフランス語=ラテン語系の言葉を使うのを潔しとしなかったのかもしれない。

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