高校野球「新基準バットでどう変わる?」後編(全2回) 2024年センバツ高校野球から採用となる新基準の金属バット。今秋の…
高校野球「新基準バットでどう変わる?」後編(全2回)
2024年センバツ高校野球から採用となる新基準の金属バット。今秋の地方大会は現行バットとの併用が可能だが、その後はすみやかに切り替えが必要になる。
今回、帝京(東京)高校を春夏3回の甲子園優勝に導いた前田三夫・前監督(現名誉監督)が新バットを試し打ち。帝京野球部OBで、新バットを手がける「ゼット」勤務の石神弘一氏にも製作サイドからの話を聞いていく。
前田氏や現役球児が新バットの感想を語った前編に続き、後編では、新基準バットの採用で高校野球がどのように変わっていくのか、展望を聞いた。

新基準バットについて語り合う帝京前監督の前田三夫氏(左)と
「ゼット」の石神弘一氏(右)
●ごまかしのきかない新バット
ーー帝京では、2年生以下が積極的に新基準バットを振っています。
前田三夫(以下、前田) 帝京は以前から木のバットで練習する機会をつくっているので、慣れるのは早いかもしれません。選手に聞いても、「あまり違いは感じない」と言っていました。
ただ、フライでは打球音のわりにすっと落ちてしまうケースも見られ、受けるイメージは選手によって個人差があるようです。
ーー新基準のバットの扱いで注意すべき点などを教えてください。
前田 これまでのバットは打球部が太く、詰まっても安打になるなどごまかしがきいたと思う。でも今後は木製に近く、細くなっている分、芯に当たらなかったら弾かない。ヒットになりにくく、飛距離も伸びてこないだろうと思います。
反対に、芯さえとらえることができたら今までどおりの野球はできるのではないかと。新しいバットがそこまで飛ばないという印象はありません。

帝京では、現行と新基準バットの両方で打撃練習を行なう
ーーということは、芯に当ててミートする技術をしっかりと身につけることが何より大事になってきますね。
前田 手だけで持っていくようなバッティングではなく、筋力トレーニングも今までどおり行ないながら、下半身を使って振り抜く。インコース、アウトコースの打ち方を徹底し、フォームを今一度見直すことも大切かと思います。
フリーバッティングでも振り回すのではなく、1球1球ボールを正確にとらえる意識で取り組んでほしいですね。
●選手へのアドバイスは「基本」「個の味」
ーー投手受難の時代から、今後高校野球はどう変わっていくでしょうか?
前田 これまで一発や長打で決まる試合が多々ありましたが、そんな大味な試合は間違いなく減るでしょう。本来、野球にはいろいろな攻め方があります。
東東京大会でのことですが、私も監督時代に立て続けに初球エンドランを出したことがあります。1イニングに7回だったかな。相手も慌てただろうけど、帝京の選手はボールに飛びつきながら打っていましたね。
盗塁やエンドランなど小技をどんどん使ってしかけていけば、主導権を相手に譲ることなく試合を進めることができる。相撲でいう前褌(まえみつ)のとり合いが面白いんですよ。
チームとして1点をとるためにどんな戦術があるのか。そこをしっかりと考え、中身の濃い野球を見せてほしいと期待しています。

前田氏も新バットを試し打ち
ーー選手それぞれにはどんなアドバイスがありますか?
前田 基本に立ち返って正しい打撃フォームを身に着けることと同時に、自分ならではの味を積極的に出したプレーをしてほしいですね。足が速いとか、バントが巧いとか、特性を活かしてほしい。
ロングヒッターばかりでなく、いろいろな選手がいるチームのほうが多彩な攻撃ができる。セオリーどおりでなくていい、今までにない戦法がたくさん生まれたら野球の魅力も増すはずです。
ーー投手に対してはいかがでしょうか?
前田 変化球に頼りすぎることなく、思いきって投げ込む。そして、制球力をこれまで以上に磨くことでいい勝負ができると思います。
一方で、相手は小技を多用してくるかもしれない。状況判断をしっかりと、慌てずプレーしてほしい。これはディフェンス面全体にいえることですね。
●ロースコアゲームが増える可能性
ーーロースコアゲームが増え、強豪が足元をすくわれたりするかもしれませんね。
前田 長打が減ると考えると、コールドゲームが減ってロースコアの試合が増える可能性は大ですね。1点をしつこくしつこくとっていく、そんな意識の強いチームが勝ち残っていくのかなと。
また、選手の特性をより活かすことで、チームのつくり方にも年ごとに変化があるかもしれない。そのあたりは指導者の腕の見せどころですね。

2年の奈良飛雄馬選手は新バットについて「下半身からしっかり使って打つ必要がある」
ーー指導者へのアドバイスとしては?
前田 1点をとるためにどんな野球ができるのかという戦術面。また、選手に正しいバッティングフォームとコースの打ち分けを指導できるよう、あらためて勉強する必要があるでしょう。
そして、選手一人ひとりの特性を見抜き、それを伸ばしながらチームづくりに活かすことが大事と考えます。
ーーバット選びについてですが、まずは日本高野連から各チームに2本、無償で提供されることになっています。
ゼット・石神弘一(以下、石神) 2本のうち1本は、各チームが指定したものを日本高野連が準備してくれます。もう1本は無作為で選ばれ、どのメーカーになるかはわからないということです。
前田 1本は事前申請したバットですが、あと1本はそれとは異なるバットを準備してくれるということだね。
石神 そうなるのではと思います。我々も含めて各メーカーともに、現段階ではどれくらいの数を用意する必要があるのか手探りの状態です。
今後、高野連からの通達を待って本格的な準備に入ることになります。各チームへの納品の時期についても、今のところいつということははっきりと言えません。
●バット基準変更が「有意義」な理由
ーー全メーカーのものが試し打ちできる機会がいろいろあればいいですが、どうでしょう?
石神 今年2月に全メーカーが新基準のバットを持ってきて、都立のチームを対象に試打してもらっていますが、そういった機会があちこちであるわけではないので、基本的には出ている情報をできるだけ集めてもらう。
たとえばゼットでは、自分の情報を入れてぴったりのバットが選べる「マッチングチャート」というのを公開しています。これである程度シミュレーションしたうえでショップに出向き、振ってみる。さらに試打会などのイベントがあれば上手に利用して、バット選びにつなげてほしいと思います。

新基準バットについて説明する石神氏(写真右)。帝京野球部OBでもある
ーーゼットは計7モデルですが、各社どれくらいの種類のバットを出す予定でしょうか?
石神 ミズノも7モデルと同じですね。SSKやアシックス、イーストンなどは2モデル程度と聞いていて、おそらく選手の声を集めながら今後少しずつ機種を増やしていくのではないでしょうか。
値段は税抜きで、35000〜40000円くらいとされています。これまでの価格からか2割ほど上がっていますのでそこはメーカーとして心苦しいところですが、だからこそ選手の皆さんには慎重に選んでもらいたいですね。
前田 まずは自分がバッターとしてどのタイプなのか。そのうえで最適なバランスのバットを選ぶこと。ヘッドバランスを選ぶ選手は少しでもヘッドを感じながら振れるバットを。ニアバランスを選ぶ選手には、しっかりと振り抜けるバットが見つかるといいですね。
また、選手によっては好みのメーカーのバットがあると思いますが、同じ名称のシリーズでも新規格なのでまったくの別物になる。だからこれまでのバットにこだわらず、白紙に戻してバット選びをしたほうがいいかもしれません。
そして、実際に1本でも多く振って特徴をつかみ、守る時も今までと違ってどんな打球が飛んでくるのか。いずれも繰り返し練習して早く慣れてほしいと思います。

前田氏は新バットにより試合の傾向が変わると指摘
ーー野球観が大きく変わりそうですね。
前田 今回のバットの変更は野球界においてとても有意義だと思いますよ。さらに上を目指す選手にとっては、早く「木の感覚」に慣れることで力を出しやすくもなるでしょう。
今から新旧のバットを併用して練習しているチームはまだ少なく、秋の大会が終わってから新しいバットでの練習に入るチームがほとんどのようですが、それはどちらでもいいと思う。
「飛ばない」といわれることを過剰に意識せず、広がる可能性に注視して練習に励んでほしいと思います。
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