サッカーは時代とともに進化していく。近年の大きな変化はGKのプレーだ。「ゴールキーパー」ではなく「ゴールプレーヤー」と…

 サッカーは時代とともに進化していく。近年の大きな変化はGKのプレーだ。「ゴールキーパー」ではなく「ゴールプレーヤー」と呼ぶべきだと主張する声も上がるポジションについて、サッカージャーナリスト・大住良之が深掘りする。

■GKが負うリスク

 さて、過去10年間で最も先鋭的なGKといえば、バイエルン・ミュンヘンドイツ代表マヌエル・ノイアーだろう。彼は「ゴールラインのプレー」でも世界最高クラスの能力をもっているが、ペナルティーエリアを出ても大胆なプレーを見せ、フィールドプレーヤーが11人いる、フットサルの「パワープレー」のような状況をつくりだす。バイエルンでのプレーでは、とくにその傾向が強い。

 もちろん、ブンデスリーガで2011/12シーズンから11連覇というバイエルンの圧倒的強さが背景にある。緊迫した状況の試合では、相手陣までドリブルし、さらにひとりをかわしてクロスパスを送るというようなプレーはしない。すなわち、彼が「フィールドプレーヤー」としての派手な役割を演じるときには、点差が開いている場合であり、「勝敗」という観点から見れば何の「リスク」もないのである。

■DFと違う立場

 2019年のルール改正で、ゴールキック時の「インプレーとなる瞬間」が変わった。それまではボールがペナルティーエリアを出たときにインプレーになっていたが、それが「けられて明らかに動いたとき」にインプレーになることになった。それによって、ペナルティーエリア内の左右にDFが立ち、GKからパスを受けてビルドアップを始めるチームが増えた。

 こうした状況を含め、現代のGKたちは以前と比較すると1試合のボールタッチ数がはるかに多くなり、その多くは守備時ではなく攻撃時、すなわち味方がボールを保持しているときとなっている。2022年ワールドカップでオランダ代表のGKコーチを務めたフランス・フックは、「これからは『ゴールキーパー(GK)』ではなく『ゴールプレーヤー(GP)』と呼ぶべきだ」と主張している。

 しかしGKのほんのわずかなミス、判断の遅れは、即座に決定的なピンチ、そして失点へとつながる。西川周作の「トラップミス」は、どんなに優秀なDFでも1シーズンに1回は経験するものだ。DFならすぐにターンしてGKにバックパスすることもできる。しかしそれがゴール前のGKの場合、失点に直結してしまうのだ。

■メリットとリスク

 「スイーパー・キーパー」も「ビルドアップに参加するGK」も、非常に大きなメリットがあると同時に、小さからぬリスクを負っていることも覚悟しなければならない。そのリスクを適切に管理する能力、すなわち2019年の横浜F・マリノス朴一圭がペナルティーエリアを大きく出ながらも示した「安定感」、どこまでが安全でどこからが危険なのか、正確に判断する能力が不可欠になる。

 ヘディングしたボールを拾われてロングシュートを決められても、トラップミスで勝ち点2を失うことになっても、上福元直人や西川への信頼がすぐに揺らぐわけではない。両チームとも、川崎フロンターレ鬼木達監督も浦和レッズのマチェイ・スコルジャ監督も、彼らの「スイーパー・キーパー」や「ビルドアップに参加するGK」という役割のメリットとリスクを理解しつつ、自信を失うことなくそうしたプレーを続けることを求めている。

 だが、そうした「ミス」が繰り返され、再び勝ち点を失うようなことがあれば、監督たちも考え直さなければならなくなるだろう。そうならないためにも、彼らのエキサイティングなプレーを試合で見せ続けるためにも、リスクを的確に管理する能力が不可欠と言える。今後のGKたちは、フィールドプレーヤーたちと同等のパス能力をもつのが当然となるだろう。違いを生むのは、リスクを管理する判断力の優劣ということになる。

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