サッカーは時代とともに進化していく。近年の大きな変化はGKのプレーだ。「ゴールキーパー」ではなく「ゴールプレーヤー」と…
サッカーは時代とともに進化していく。近年の大きな変化はGKのプレーだ。「ゴールキーパー」ではなく「ゴールプレーヤー」と呼ぶべきだと主張する声も上がるポジションについて、サッカージャーナリスト・大住良之が深掘りする。
■ハンガリー代表の挑戦
20年間の眠りから覚めた人が現代のサッカーを見て最も驚くのが、GKの役割の変化ではないだろうか。
かつて、GKは文字どおり自陣ゴール前に陣取る人だった。「ペナルティーエリア全面をカバーできるGK」という表現があり、それがその選手の「特徴」とされたほど、ゴール正面、ゴールエリア周辺だけでプレーするのが当然だった。まさに「ゴールキーパー」は「ゴールの番人」であり、「守護神」であり、それ以上ではなかった。
だが、このGKをより広く活用したら戦術的飛躍ができるのではないかと考えた指導者は、すでに20世紀の半ば以降、継続的にいた。その最初は、1950年代に「マジック・マジャール」のニックネームで4年間無敗のチームを築いたハンガリー代表のシェベシュ・グスタブ監督(「シェベシュ」が姓)だった。このチームはセンターフォワードを中盤に引かせた「M型FW」で知られるが、GKグロシチ・ジュラ(「グロシチ」が姓)をDFラインの選手である「スイーパー」とGKを合わせた「スイーパー・キーパー」として活躍させたことも、また革命的な出来事だった。
攻守のチーム力を上げるためにDFラインを高く保つ。そしてDFラインの背後にできる広大なスペースは、GKグロシチがペナルティーエリアを出てカバーする―。理屈としてはごく単純なのだが、ゴールをがら空きにするという「リスク」を冒す勇気をもつチームはなかった。そのなかでシェベシュがグロシチにペナルティーエリアを離れることを命じたのは、当時のハンガリー代表の技術レベルが隔絶して高く、パスをつなぐなかでミスが非常に少なかったためと思われる。
■W杯で抜てきされた33歳
その後に「スイーパー・キーパー」の起用で話題になったのは、1974年ワールドカップで世界に衝撃を与えたオランダ代表のリヌス・ミケルス監督だった。当時オランダにはヤン・ファンベベレンというワールドクラスのGKがいたが、ヨハン・クライフなど一部の選手へのオランダ・サッカー協会の特別扱いに強く反発し、ワールドカップへの招集に応じなかった。そこでミケルスが選んだのが、当時すでに33歳で、FCアムステルダムという弱小クラブでプレーしていたヤン・ヨングブロートだった。
彼は1962年に21歳でオランダ代表でデビューしたが、交代出場した5分間のうちに1失点を喫し、その後は忘れられた状態となっていた。しかしアヤックスのGKとして欧州でも知られる存在になっていたGKピート・シュリベールスをベンチに置いても、ミケルスはヨングブロートをプレーさせることを選んだ。彼の「スタイル」が、ミケルスが考える「トータル・フットボール」にぴたりと適合していたからだ。
これはミケルスにとってひとつの「賭け」だったが、ヨングブロートは見事なプレーで期待に応えた。オランダの極端に浅いDFラインの背後のスペースを彼は判断よくカバーし、中盤を極端に狭くするミケルスのサッカーの実現を助けたのだ。
■GKの有効活用へ
21世紀にはいると、「ペナルティーエリアを出てDFラインの背後をカバーする」という「スイーパー」的な役割だけでなく、積極的にGKを活用してチーム全体の攻撃力を上げようというアイデアが誕生する。そのきっかけは1992年の「バックパスルール」だったかもしれない。
1990年のワールドカップで1試合平均2.21ゴールという史上最少記録となり、もっと攻撃的で得点の多い試合にしなければサッカーの人気は廃れると憂慮した国際サッカー連盟(FIFA、具体的にはその事務総長のゼップ・ブラッターである)は、「味方から足でパスされたボールについては、自陣ペナルティーエリア内のGKでも手でプレーすることはできない」とルールを改正した。
それまでのサッカーでは、非常に安易にGKに戻し、それをGKは安全に手で受けて時間をつくったり、余裕をもって攻撃に展開することができた。しかし新ルールにより手を使えないGKへのバックパスは「リスク」を伴うことになった。FIFAの思惑どおりバックパスは減った。バックパスせざるをえない場合には、受けたGKはワンタッチで前線に大きくけるのが普通になり、試合のスピードは上がった。
こうした時期に、逆に「GKのパス」を有効に使うことでDFラインで「数的優位をつくれるのではないか」という大胆な発想が生まれた。DFラインでビルドアップを始めるとき、GKがペナルティーエリア内で、あるいはときにそこを出て加われば、間違いなくフリーの選手をつくることができる。自分たちの前線の選手のひとりを相手GKがマークするという状況はありえないから、GKがビルドアップに加われば「11対10」の状況になるのである。