ラグビーワールドカップ2023「Road to France」<08>齋藤直人(東京サンゴリアス)前編 2019年のワールドカップイヤー、大学生のなかで一番「日本代表に近かった選手」は誰か。それをひとりに絞って挙げるならば、SH(スクラムハ…

ラグビーワールドカップ2023「Road to France」<08>
齋藤直人(東京サンゴリアス)前編

 2019年のワールドカップイヤー、大学生のなかで一番「日本代表に近かった選手」は誰か。それをひとりに絞って挙げるならば、SH(スクラムハーフ)齋藤直人(東京サンゴリアス)と言っても差し支えないだろう。

 ワールドカップ後、齋藤は早稲田大学のキャプテンとして大学選手権優勝に貢献したのち、すぐさまスーパーラグビーに参戦していたサンウルブズに加入。サンゴリアスでも1年目から主力として出場し、2021年6月には「桜のジャージー」に袖を通して初キャップを獲得した。

 今季はサンゴリアスの共同キャプテンに就任するなど、リーダーとしても申し分ない。経験豊富ながらまだ25歳──日本を代表する若きSHに、初のワールドカップへ挑む心境を聞いた。

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齋藤直人●1997年8月26日生まれ・神奈川県横浜市出身

── 2019年のワールドカップはスタジアムまで見に行きましたか?

「もちろんです! 何試合か見に行きましたが、どれも楽しかったですね。ワールドカップ期間中に後輩の河瀬諒介(早稲田大→東京サンゴリアス/WTBウィング)と新宿のアンダーアーマーショップに訪れたら、ウェールズ代表のSO(スタンドオフ)ダン・ビガーとLO(ロック)アラン・ウィン・ジョーンズがいて、写真を撮ってもらいました(笑)。2021年6月に対戦した時に挨拶したかったのですが、コロナ禍で規制が厳しく会えませんでした」

── 2019年ワールドカップの前年は、代表予備軍にあたるNDS(ナショナル・ディベロップメント・スコッド)に招集されて、大学生のなかでは一番代表に近い存在でした。

「2018年は春のNDSだけでなく、夏に発表された日本代表にも声がかかっていました。だけど、2019年は腰のケガもあって、呼ばれる可能性はなかった。

 今、日本代表に入るようになって思ったのは、自らチャンスを手放すような選手は100%(ワールドカップメンバーの最終スコッドに)入れない。だから2023年は、絶対にチャンスを逃したくない気持ちが強いです。

 2019年の(最終スコッド30名の)メンバー発表があった日、 僕は菅平の早稲田大ラグビー部の宿舎で合宿中でした。メンバーを見た時、すごくかっこいいなと思ったと同時に、自分にもチャンスがなかったわけじゃなかったので、本気でワールドカップを目指していなかった自分に対し、すごく悔しい気持ちを感じたことは覚えています」

── メンバー発表の時、改めて本気で「ワールドカップに出たい!」と思ったわけですね。

「はい。それまではあまり強く思っていませんでした。自分のレベルが正直、世界のなかでどのくらいかもわかっていなかったです。

 2018年の時は、口では『日本代表になりたい』とか言っていたんです。だけど、具体的に『ワールドカップに出たい』とまでは言えてなかったかな......。あのメンバー発表のタイミングは、僕のなかですごく大切な瞬間です」

── あの日の悔しさが齋藤選手の原点になっているのですね。2019年のワールドカップ後、キャプテンとして早稲田大を優勝に導いたのち、1週間も経たないうちにサンウルブズにも合流しました。

「やっぱり、それらの行動も悔しさの表れだったと思います」

── スーパーラグビーはコロナ禍で途中終了しましたが、2020年にはサンゴリアスに再び入り、1年目から活躍してプロ選手にもなりました。

「サンウルブズの一員としてスーパーラグビーでプレーさせてもらったことで、世界とのレベルの差を感じることができました。その時に思ったのは『スーパーラグビーのプロの選手とすごく差があるのに、働きながらラグビーをしていたら、さらにどんどん差が開いていく』と。

 その気持ちを一番強く感じたので、プロになって勝負したいと。同期の中野将伍(早稲田大→東京サンゴリアス/CTBセンター)も同じタイミングでプロになりましたが、サントリーに社員で入社して1年でプロになったのはあまり例がなかったので、本当に感謝しています」

── プロ選手として一番大事にしていることは?

「ずっと大事にしているのは準備です。いつ、どこで、誰とどんな練習をやるのか。毎週、毎週考えて、1週間後にそれがどうだったのか、できたのかできなかったのか、どれくらいできたのか......と振り返る。そして次(の週)にはこうしようと、常にアップデートし続けることを大事にして、日付ごとにiPadに書いています」

── それを見返したりするのですか?

「1週間のスケジュールで書いたのは消して、その次の週の予定を書いています。ただ、レビューで気づいたことや感覚がよかったことの記録は、たまに見返しています。

 たとえばメンタル面でいうと、昨春の日本代表の合宿には『絶対に9番を取ると毎日思い続ける。そこに絶対1ミリも妥協しない』という言葉を書いて臨みました。いろいろ見返してみると、面白かったですね(笑)。その気持ちは今も変わらないです」

── 現在、齋藤選手は日本代表で11キャップを数えます。一番覚えている試合は?

「以前は『ラグビーをやってきて一番うれしかった試合は?』と聞かれたら、大学選手権で優勝した試合を挙げていました。でも今は、2021年6月にブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズと(スコットランドの聖地である)マレーフィールドで戦ってファーストキャップを得た試合でしょうね」

── ファーストキャップを得た時の「22番」の桜のジャージーは?

「実家で保管しています。交換したオーウェン・ファレル(イングランド代表SOスタンドオフ)のジャージーも一緒に飾っています。

 あのライオンズ戦は、僕のなかでのターニングポイント。毎回テストマッチが終わるたびに『もっとあの舞台でやりたい』『感情が高ぶる舞台でやりたい』と思っています」

── 日本代表で「このプレーはうまくいったな」と覚えているシーンはありますか?

「味方をサポートしてトライを上げるプレーは、自分の強みのひとつとしているので、初めてスタメンで出場したアイルランド代表(2021年7月/ダブリン)ではうまく出せました。

 ただ、その試合では2回ペナルティをして、1回ダイレクトタッチを蹴ってしまった。最後は8点差(31-39)だったので、モメンタム(勢い)を失うようなプレーでチームに迷惑をかけてしまったことを、逆によく覚えています」

── 昨シーズンは日本代表でもリーダーグループに入っていたそうですね。

「それまではガムシャラに、あまり考えずにラグビーをやっていました。それが昨年、日本代表でリーダーグループに入ることになってから、ジェイミー(・ジョセフHC)やコーチ陣が何を求めているかを考えるようになりました。また、リーダーは『まずはパフォーマンスで示す』というところも学びましたね」

── 2023年のワールドカップまで100日を切り、6月から浦安合宿が始まりました。今の心境は?

「ワールドカップを報じるメディアの情報を見て特別に思うところはないですけど、もちろん必ず出たいという気持ちは強まっています。そういう雰囲気に触れるとやる気が上がりますので、フランスに向けてより一層、気を入れていこうと思います」

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【profile】
齋藤直人(さいとう・なおと)
1997年8月26日生まれ、神奈川県横浜市出身。桐蔭学園高→早稲田大を経て2020年に東京サントリーサンゴリアスに加入。日本代表歴はジュニア・ジャパンやU20代表を経験したのち、2021年6月のブリティッシュ&アイリッシュ・ライオンズ戦で初キャップを獲得。ポジション=SHスクラムハーフ。身長165cm、体重75kg。