バレーボールのネーションズリーグは予選ラウンド第2週が始まり、男子日本代表は現地6月20日、カナダを下して無傷の5連勝とした。その試合の終盤でサービスエースを奪い、画面越しでもわかるほどに会場を沸かせたのがオポジットの西田有志である。<西…
バレーボールのネーションズリーグは予選ラウンド第2週が始まり、男子日本代表は現地6月20日、カナダを下して無傷の5連勝とした。その試合の終盤でサービスエースを奪い、画面越しでもわかるほどに会場を沸かせたのがオポジットの西田有志である。
<西田有志(にしだ・ゆうじ/身長186㎝/最高到達点350㎝/海星高〔三重〕→ジェイテクトSTINGS→ビーボ・ヴァレンティア〔イタリア〕→ジェイテクト→公益財団法人日本バレーボール協会/オポジット>
【ギャラリー】気合い十分! 西田有志のプレーシーン15点
カナダ戦での勝利を決定づけた西田のサービスエース
左腕から打ち出されたボールが、カナダのアウトサイドヒッター、マティアス・エルサーを強襲する。セットカウント2-1で迎えた第4セット、20-12から日本は4度のブレイクに成功し、この試合を決定づけた。そのうち、2本は西田のサービスエース。いずれもエルサーを狙った打球だった。
これだよ、これ。西田のこんな姿が見たかったんだ。
日本だけでなく、世界中のファンがそう思ったことだろう。完全復活を遂げたかは、本人の中にしか答えはない。けれども、予選ラウンド第1週、名古屋大会での姿を思えば、復活の兆しにあることを願わずにいられないのだ。
<カナダ戦では3本のサービスエースを含む15得点をマークした(写真:FIVB)>
サーブの直接失点が続いていた名古屋大会
6月9日、ネーションズリーグ名古屋大会4日目、セルビア戦。日本ガイシホール(愛知)の記者席で、思わず隣のメディア関係者にこぼしてしまった。
「西田選手、サーブがはまってなさそうですね」
初日のイラン戦では全8本のサーブのうち、直接失点の数は4で効果率は-50%。そして、この日のセルビア戦でも第1セットは3本すべてがアウトもしくはネットにかかり、エラーは3を記録していた。
西田の代名詞の一つに、強烈なサーブがある。ときにレシーバーを吹き飛ばし、あるいは相手が誰も微動だにできないようなノータッチエースを突き刺す。そうしてムードを一気に我が物にし、これまでもそうしてきた。もちろん、全部のサーブでエースを奪うなんて夢物語。けれども、続く第2セットでも、西田のサーブは2本中2本ともアウトになり、直接失点の合計は5を数えていた。
おそらくは見ている大半が描く、サーバーとしての西田の姿ではなかっただろう。第3セット、11-9からのタイムアウト明けで、西田は今大会自身初のサービスエースをマークする。それでも、試合後の本人の表情は晴れなかった。エースが決まって安心しましたか? と聞いてみたが…
「いや、全然安心じゃないです。やっと、とは思いましたが、安心ではないス」
その口ぶりからは、苦しんでいる様子がうかがえた。
<名古屋大会では初戦(写真)からサーブによる失点が続いた>
【次ページ】「徐々に調子を上げていけばいい」とブラン監督
<ブラン監督は西田へ厚き信頼を寄せる>
「徐々に調子を上げていけばいい」とブラン監督
セルビア戦の西田のパフォーマンスについて、フィリップ・ブラン監督は「全体的にはよかった」と評価した。事実、この試合で西田はチーム最多24得点をマーク。アタック決定率は56.25%(32本中)と高い数字を残した。一方で、サーブの直接失点は終わってみれば7。ブラン監督は奮起を促すように、会見で優しくこのように語った。
「フルパワーでうまくいかないときは少しでもリスクを減らして、方向をコントロールする必要があります。ですが、彼にはどんな難しい状況でも、常にサービスエースを取れる実力があることは誰もが知っています。我慢強く、そして徐々に調子を上げていけばいい」
指揮官いわく、西田のサーブは豪快そのものだが、その力加減はフルパワーつまり全開でないときのほうが「いいサーブが打てている」。確かに、西田といえば2019年のワールドカップ、カナダ戦での連続サービスエースが今なお強烈な記憶として残っているが、その場面でも当の本人は「冷静で、力んでいなかった」とかつて明かしている。
覆いかぶさるような雲から、ようやく晴れ間がのぞいたのは、その2日後の名古屋大会最終日のフランス戦。第1セット中盤、西田は相手エースのケバン・ティリをのけぞらせる強烈なサーブを打ち込んだ。ボールは後方へ飛んでいき、フランスのアップゾーンへ落ちる。この日、自身1本目のサービスエース。その瞬間、西田はすぐにベンチへ行き、ブラン監督とハイタッチを交わした。
<フランス戦で1本目のエースを奪い、西田は感情を爆発させる>
「焦らず、うまくやっていきたい」と西田
「ブランからは『もっとこうしたほうがいい』と、たくさんアドバイスをもらっていたので。2人で喜べたのはうれしかったです」と西田。
そしてブラン監督もまた、交わした手の感触を思い返すと、白い歯をのぞかせた。
「われわれスタッフはチームの一員として、選手たちと一緒に喜びを共有する仲間だと考えていますから。西田とはサーブに関して試合前に個別で映像を見ながら話していました。彼が今、機能しているサーブの方向についてディスカッションし、あの1本はまさに確認していた方向へのサーブでした。そういう意味でも、喜びはいっそう大きかったことでしょう」
名古屋大会の最後で、ようやく復調の兆しが見えたのは確かだろう。西田はこう語った。
「やっと戻ってきたかな、とは。あのサーブも100%というわけではなかったですが、しっかりと点数につながったところなので、安心している部分はあります。焦らず、うまくやっていけたらいいなと思っています」
<代表シーズン前から「秋のオリンピック予選にフォーカスを当てて、そこでベストが出せるようにもっていきたい」と語っていた西田>
舞台をフランスに移しての予選ランド第2週。カナダ戦では序盤からスパイクがなかなか決まらず、第1セットはわずか1得点。第2セットでサービスエースを含む6得点をマークし、試合が進むごとに調子を上げたのが見てとれた。
そして最後に決めた、2本のサービスエース。以前、西田は自身のサーブを、このように表現していた。
「スパイクもそうですが、サーブのターゲットが、僕の中では“人”なんです」
相手レシーバーを撃ち落すような一撃が出ると、見ている側は胸が弾む。やっぱりこれが西田有志だよね、と。
<チームメートとポージングする①西田。笑顔がキラリ>
(文/坂口功将 写真/石塚康隆〔NBP〕、FIVB)
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【西田有志選手のプロフィール】
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西田有志
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