9回のマウンドがだいぶ板についてきた。セ・リーグ首位を走る広島だが、開幕から”勝利の方程式”の再編を繰り返すなど、投手のやりくりが安定しない。そのなかで、新たな守護神に定着したのが、今村猛(いまむら・たける)だ…

 9回のマウンドがだいぶ板についてきた。セ・リーグ首位を走る広島だが、開幕から”勝利の方程式”の再編を繰り返すなど、投手のやりくりが安定しない。そのなかで、新たな守護神に定着したのが、今村猛(いまむら・たける)だ。飄々(ひょうひょう)と投げる姿は、持ち場を抑えに代えた今も変わらない。



プロ8年目の今季、カープの守護神として活躍している今村猛

 昨季34セーブの中崎翔太が、開幕直後の4月10日に右腹部の違和感で戦列を離脱。そこで空席となった抑えのポジションとして白羽の矢が立ったのが、今村だった。

「やることは変わらない。任されたイニングを抑えるだけ」

 チームの勝敗の行方を託されても、これまでと変わらずマウンドに上がる。そして淡々と仕事をこなす。5月19日の中日戦以降、セーブ失敗はなし。また、6月6日の日本ハム戦から無失点投球を続けている。

 入団からここまで、日本代表として2013年のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)に出場するなど輝かしい実績を残しながら、チームではスポットライトを浴びる立場ではなかった。

 2009年のドラフト1位で入団してから8年目を迎える。清峰高校(長崎)時代にセンバツで優勝を果たした右腕は、1年目から一軍のマウンドに上がり、先発で2試合に登板。2年目の2011年には4月16日の巨人戦で、先発のジオ・アルバラードの負傷降板で巡ってきた緊急登板の機会にプロ初勝利をマークした。しかし、その後は先発で勝てないまま、6月上旬からは中継ぎに配置転換。以降、今村の居場所はブルペンとなった。

 投手として、先発への思いは当然ある。だが、それ以上に”求められる場所”こそ、自分の生きる場所だと信じて投げてきた。

「チームに必要とされれば、それでいい。先発陣が揃っているのなら、足りない中継ぎで投げればいい」

 入団2年目、20歳になったばかりの頃から、チームのことを第一に考えられる芯の強さがあった。

 キレのある球に、強心臓、なにより疲れを見せないタフネスぶりは、中継ぎというポジションで最大限に力を発揮した。若くしてセットアッパーの座に就き、抑え不在時には代役も務めた。2年目の2011年から54試合、69試合、57試合と3年連続50試合以上に登板。前述のように、2013年には日本代表としてWBCにも出場している。

 下支えする役割を担い、自身も意気に感じて投げてきた。次第に体に歪(ひず)みがきていることは感じていたが、それでもチームのために投げ続けた。そして、気がつけば無理がきかなくなっていた。

 右打者の外角低めに伸びるように決まっていたストレートのキレが落ちてきた。生命線であるストレートの精度悪化は、投球を苦しくした。

 投球内容は残酷なまでにはっきりと数字に表れている。2014年は17試合、2015年は21試合の登板にとどまり、二軍で過ごす時間が増えた。

「体が以前と違う。前と同じような投球をしようとしてもできない。今の体の状態でできることを考えていかないといけない」

 ジレンマは募る。たとえ投球内容が良化しても、周囲は以前の今村と比較する。フル回転していたときの自身の残像が、苦しみを深くした一因にもなった。

 そこで今村は新たな道を探った。トレーナーから助言を受けながら、新たな投球を模索し続けた。

 光明が見えたのは昨年だった。シーズン途中からフォークを多投。先発時にも使っていたフォークの精度が上がったことで、ストレートとスライダーに頼っていたこれまでの投球の幅が広がった。開幕時は敗戦処理の立場だったが、登板するごとに首脳陣の信頼を勝ち取り、シーズン半ばには勝利の方程式の一角を任されるようになった。

 本人のなかには、「昔の自分とは違う」という不満がどこかにあったかもしれない。だが、今村を知る松原慶直(まつばら・よしなお)一軍トレーナーは、「(今の体の使い方は)猛にずっと言ってきたことでした。選手にはこだわりもあるでしょうし、(変えることに)不安もあると思います。それを本人が受け入れた。猛のなかではマイナーチェンジと思っているかもしれないですが、僕らのなかではメジャーチェンジだと思っています」と、今村の”進化”と断言する。

 実際に投球も変わった。苦しみを味わい、そして乗り越えた分だけ、力強さのなかに繊細さが加わったように感じる。今の今村はきっと、昔の今村を超えている。

 昨年オフから、「できるなら抑えをやりたい」と公言するようになった。これまでポジションにこだわらなかった男は、自然と次のステップを求めたのかもしれない。

 宣言通り、抑えに定着しても、スタイルは変わらない。広島のレジェンドである”炎のストッパー”津田恒美氏(故人)の熱投型とは対照的な冷静沈着な投球スタイルでセーブを積み重ねる。広島の連覇に向けたキーマンのひとりであることは違いない。

「自分が抑えても、チームが勝たないと面白くない」

 チームの勝利が最優先。プロ入りしてから今村の信念は変わらない。

「7回のポジションは難しい。その分、自分は経験もあるし、投げられる体力もある。自分がそこをできればいいのかもしれないけど……」

 抑えというポジションにやりがいを感じながらも、今季は26歳で一軍投手陣最古参の時期が長く、中継ぎキャプテンも務める責任感がにじむ。だが、チームの勝利に直結する抑えこそ、今村が最も果たすべきポジションなのではないか。代役ではない。もう今村は、押しも押されもせぬ広島の守護神なのだ。