イギリス・ロンドンで開催されているウィンブルドン(本戦7月3~16日/グラスコート)は大会3日目、男女のシングルス2回戦などが行われた。 第9シードの錦織圭(日清食品)は芝巧者のセルゲイ・スタコウスキー(ウクライナ)を6-4 6-7(7)…

 イギリス・ロンドンで開催されているウィンブルドン(本戦7月3~16日/グラスコート)は大会3日目、男女のシングルス2回戦などが行われた。

 第9シードの錦織圭(日清食品)は芝巧者のセルゲイ・スタコウスキー(ウクライナ)を6-4 6-7(7) 6-1 7-6(6)で退け、2年連続5度目の3回戦進出。5人いた日本女子で唯一初戦を突破した大坂なおみ(日清食品)は、第22シードのバーボラ・ストリコバ(チェコ)を6-1 0-6 6-4で破り、グランドスラム自己最高成績に並ぶ3回戦に駒を進めた。◇     ◇     ◇

 この日、錦織を悩ませたものが2つあった。一つはスタコウスキーのバックハンドのスライス。そしてもう一つ、実はこっちのほうが厄介だったと錦織は半ば冗談で言ったのだが、それが、コートの中を飛び交っていた小さな虫だ。

「びっくりしました。ラリー中に顔に当たってくるし、試合が終わったらバッグの中にも5匹くらい入っていたので」

 急に気温が上がったために、大量に羽化した羽蟻だったという。

 前の日、「最高の準備をして最悪に備える」という言葉を紹介してくれたのは尾﨑里紗(江崎グリコ)だったが、スタコウスキーのスライス攻撃は想定内でも、虫という敵は錦織も想定しえなかった。苦しみながらも集中力が途切れなかったのは、過去に2戦して2敗を喫している難敵に対する勝利の執念、そして、グランドスラムで唯一ベスト8に入っていないウィンブルドンでの活躍を期する思いの強さだろうか。

 スタコウスキーは、予選上がりの世界ランク122位とはいえ、3年前にここでロジャー・フェデラー(スイス)を破ったこともある31歳。193cmの長身からのサーブ・アンド・ボレーを軸に、片手打ちのバックハンドでフラットの強打とスライスを器用に使い分ける。多用するドロップショットの精度も高い。自分に優位に試合を進めるための間のとり方も巧く、なぜこの一年ほどの間、ずっとトップ100外なのか不思議なくらいだ。

 第1セットを先取した錦織は、第2セットのタイブレークでも2度のセットポイントを握ったが、要所でダブルフォールトなどをおかしてセットを奪われる。

「多少のショックはありましたけど、第3セットはいいかたちで入れました」

 ここでの気持ちの切り替えがこの日の勝因だろう。第3セットは第4ゲームと第6ゲームを相手のダブルフォールトも生かしてブレーク。6-1で余裕を持ってセットを奪った。

 第4セットはふたたびタイブレークとなり、6-4で迎えた最初のマッチポイントでサーブ・アンド・ボレーを仕掛けたが、ボレーがネットに。その後6-6に追いつかれたが、ここでスタコウスキーがダブルフォールトをおかし、最後はワイドに入れたファーストサービス一本で締めくくった。

 スタコウスキーのスライスショットに対して、低い体勢からボールを持ち上げるように打つプレーを何度も強いられたが、「(体調は)問題ない。痛みも出ず、今のところいい状態」と語った。新鮮な自信が微かでも湧いてくる一戦となったことは間違いない。◇     ◇     ◇

 昨年の全豪、全仏、全米、一年遅れでこのウィンブルドン-----これで大坂はすべてのグランドスラムで3回戦進出を果たしたことになる。

「グランドスラムはすごく注目されるから、自然と力が出る。ほかで一生懸命やってないってわけじゃないんだけど...」

 大舞台での強さについて自分なりに分析し、そう話したが、多少危なっかしい内容ではあった。

 31歳のストリコバは2014年のウィンブルドンでグランドスラム最高のベスト8入りを果たし、前哨戦のバーミンガムでは2度準優勝している芝巧者。一昨年の東レ パン・パシフィック・オープンの1回戦で大坂は敗れている。

 第1セット、立ち上がりのサービスゲームで2度ブレークのピンチをしのぐと、第2ゲームで2つのダブルフォールトをもらってラブゲームでブレーク。リターンからアグレッシブに攻め、第6ゲームで2度目のブレークに成功した。しかし第2セットになると形成は大逆転。

「1セット目と同じようにしようと思っていたのに、彼女のサービスがよくなって、私はどんどんナーバスになっていった」

 1ゲームも奪えず、勝負は最終セットへ。第2ゲームのサービスゲームをキープして悪い流れをいったん止めることができた意味は大きかった。

 ここからの自身のサービスは危なげなくキープし、第7ゲームで2度のデュースのあと、このセット4つ目のブレークポイントを生かした。第9ゲームでは、自身のサービスゲームを待たずに6回のデュースの中で3度マッチポイントを握るものの結局ストリコバがキープ。サービング・フォー・ザ・マッチでも40-30からストリコバのフォアハンドのリターンがネットインする不運もあり、最後まで苦しんだが、ここというところで頼りになったのは武器のサービスだった。

 サービスエースで5度目のマッチポイントをつかむと、最後はフォアハンドのスイングボレーを決めた。

 3回戦のカードが今から大いに注目されている。元女王ビーナス・ウイリアムズ(アメリカ)への挑戦だ。グランドスラムの中でも特別の大舞台が用意されるかもしれない。(テニスマガジン/ライター◎山口奈緒美)

※写真は「ウィンブルドン」2回戦でセルゲイ・スタコウスキー(ウクライナ)を破った錦織圭(日清食品)は、2年連続5度目の3回戦進出。(写真◎小山真司/テニスマガジン)