西武の二軍監督、一軍ヘッドコーチを経て、満を持して就任した松井稼頭央監督。しかし、ここまで(6月12日現在/以下同)の…

 西武の二軍監督、一軍ヘッドコーチを経て、満を持して就任した松井稼頭央監督。しかし、ここまで(6月12日現在/以下同)の戦いは58試合を消化して24勝33敗1分の5位と苦戦を強いられている。かつて西武の監督として優勝経験がある伊原春樹氏は、教え子である松井監督の戦いをどう見ているのだろうか。



今季から西武の指揮を執る松井稼頭央監督

【先発三本柱で貯金ゼロ】

── 今季から西武は松井稼頭央さんが監督として指揮を執っています。どういう野球を目指していると思いますか。

伊原 (松井)稼頭央は西武からメジャー、楽天と移籍しましたが、昨年、西武のヘッドコーチを務めたように、基本的は西武の野球を踏襲していると思います。黄金期の西武は投手力を中心とした守りの野球で、少ないチャンスを確実にものにしてきました。稼頭央もそうした野球を目指しているのではないでしょうか。

── 昨年の西武は、それまでの4年連続チーム防御率リーグワーストから一気に1位に飛躍しました。

伊原 先発、中継ぎの質量とも豊富ななか、昨年"最優秀中継ぎ"のタイトルを獲得した平良海馬が先発に転向したのが、今季の一番大きな変化です。ここまで4勝2敗、防御率2.05と、今のところ結果を残しています。

 ただ先発陣は、昨年10勝した左腕のディートリック・エンスが1勝6敗と勝ち星に恵まれておらず、髙橋光成、今井達也、松本航の"三本柱"で貯金ゼロ。そのあたりが苦戦している大きな要因ではないでしょうか。また昨年ドラフト1位の隅田知一郎はストレートの速さや変化球のキレはありますが、微妙なコントロール不足が課題です。

── 抑えの増田達至投手は9セーブを挙げていますが、防御率は6点台です。

伊原 増田はここ数年の勤続疲労が出ていますね。うしろが決まらないと、どうしても難しい戦いになってしまいます。西武のリリーフ陣は質量とも充実していると思うので"勝利の方程式"を早く確立したいところです。

【完全なレギュラーは源田と外崎のみ】

── 打線は、一部で女性問題が報じられた山川穂高選手が総合的に判断してコンディション調整により登録抹消されましたが、WBCで右手小指を骨折し開幕から欠場していた源田壮亮選手が5月26日に復帰しました。

伊原 個人的には、3・4月に打率.308、8本塁打を放ち、月間MVPを受賞した中村剛也が右脇腹痛で5月27日に登録抹消されたのが痛いですね。打線の核になっていましたし、一発の怖さを持った選手がいるのといないとでは違います。

 西武は2018、19年に"山賊打線"と呼ばれていましたが、浅村栄斗(楽天)、秋山翔吾(広島)、森友哉(オリックス)が抜けた。さらに、今は中村と山川が不在。現状、完全なレギュラーと言えるのは源田と外崎修汰しかいません。

── 昨年、チーム打率.229はリーグ6位、得点464は5位でした。さらに、チーム盗塁数60もリーグ6位。そうしたこともあって、今シーズン「走魂」をスローガンに掲げたのでしょうね。

伊原 現時点で35盗塁はリーグ2位。昨年は143試合で60盗塁だったことを思えば、まずまずだと思います。得点力が少ない分、「隙あらば......」という姿勢が見てとれます。源田は盗塁王の経験があり、シーズン20盗塁以上は外崎が4回、若林楽人も1回経験しています。ただ、いかんせん長打不足による得失点差のマイナスが順位に反映してしまっています。

── 注目している若手選手はいますか。

伊原 外野手では若林、愛斗、左打者の鈴木将平、川越誠司。中距離ヒッタータイプが多く、ファームで結果を出している昨年ドラフト1位の蛭間拓哉がなかなか一軍昇格できないほどです。

── 内野手はいかがですか。

伊原 内野手は、山川の代わりに渡部健人や長谷川信哉といった選手が出てきました。まだ粗さはありますが、経験を積むのは大事なこと。捕手にしても、森の代わりなどすぐに出てくるはずがありません。そんななか、柘植世那、古賀悠斗が奮闘しています。今は大変かもしれませんが、楽しみな素材が多いのは間違いありません。

【今年の西武は2014年に似ている】

── 2002年に西武の監督に就任した伊原さんは、前年3位だったチームを優勝に導きました。しかも16.5ゲーム差の圧勝劇でした。

伊原 稼頭央を1番に固定し、4番のアレックス・カブレラが55本塁打。また捕手だった和田一浩をレフトにコンバートして5番で起用。投手陣では森慎二が最優秀中継ぎ、豊田清が最多セーブのタイトルを獲得しました。チームとして戦う形ができていました。

 しかし、2度目に就任した2014年は違いました。チームの中心を担っていた涌井秀章、片岡治大、デニス・サファテが移籍し、2年連続40盗塁のエステバン・ヘルマンもオリックスへ。それに4番を打っていた中村剛也も脇腹痛で出遅れました。さすがに、いかんともし難かったです。今年の西武はその時を彷彿とさせます。

── 西武は監督就任1年目に好成績を残すというジンクスがあります。

伊原 私を含め、伊東勤、渡辺久信らが西武の監督就任1年目に優勝したこともあって、稼頭央にも期待するでしょうが、監督には運、不運のめぐり合わせというのがあります。"適材適所"という言葉がありますが、今の西武は適所にあてはめる適材が不足してしまっている。稼頭央にとっては試練の1年目ですね。ちなみに、東尾修監督は3年目から、辻発彦監督は2年目からそれぞれリーグ連覇を果たしました。だから、稼頭央も頑張ってほしいですね。