今年も”熱い夏”がやってきた──。全国の高校球児たちが甲子園を目指して熱戦を繰り広げる都道府県大会が各地で始まっている。なかでも189チームが参加する神奈川県大会は、大阪府と並んで全国でも屈指の激戦区として知られている。

 強豪校も数多い神奈川県を勝ち抜くのはどこになるのか。コーチ、野球部長として長年にわたり横浜高校を指導し、甲子園の強豪に育て上げた小倉清一郎氏に、”神奈川をもっともよく知る男”としての見立てを聞いてみた。



投手のバリエーションに欠ける横浜は、外野手の万波中正もマウンドに

──7月8日に、高校野球の神奈川県大会が開幕します。2014年まで横浜高校のコーチ、部長として、ずっと神奈川で戦い続けた小倉さんは、今年はどこが優勝すると予想しますか。

小倉 単刀直入に言うと、優勝するのは、横浜か東海大相模のどっちかです。その確率は、横浜40%、東海大相模40%ずつか、横浜45%、東海大相模45%といったところ。それ以外の高校が勝ち上がる可能性は低い。慶應のエースの故障が治れば、慶應の可能性が10%くらい出てくるかもしれません。

 東海大相模の秋田稜吾(3年)というエースはフォークみたいに落ちる縦スラを投げるんですが、9回まで握力が持つかどうか。横浜は左(板川佳矢・2年)と右(塩原陸・3年)がいて、外野手の万波中正(2年)をピッチャーで使っているけど、それを続けていかないと相手にとって対策が立てやすくなる。

 チームとして一番いいのは、左と右とアンダースローと3枚そろっていることなんです。対戦相手は3人の異なるタイプのピッチャーに対する練習をしないといけないですから。実際には、そこまで駒がそろうことはなかなかないけどね。

 そういう意味では、東海大相模は秋田のほかに沖縄出身の左ピッチャー、安里海(3年)がいます。ほかに横手投げのピッチャーもいて、バラエティに富んでいますね。

――小倉さんは180を超えるチームが参加するマンモス大会の神奈川県大会を戦うとき、投手起用について何か決めごとはありましたか?

小倉 いまではプロ野球の投手は分業制になり、投球イニングや球数を計算していますが、高校野球もそうです。準決勝までは、エースに18イニング以上は投げさせたくない。準決勝と決勝で連投になれば、そこで18イニングを投げることになりますからね。

 そもそも、県大会を通じてエースが投げるイニングは合計36回以内に抑えたいと考えていました。そうしないと、甲子園に行ってからエースがバテちゃうんですね。2004年夏の涌井秀章(千葉ロッテマリーンズ)がそうでした。その点、準決勝までのエースの登板を18イニングまでに抑えられれば、準決勝と決勝を思い切って戦えます。さらに、甲子園に勝つためにもそれが一番いい方法なのです。

――準決勝までにエースがたくさん投げなければいけないようなら、あとの戦いが苦しくなるわけですね。

小倉 そういうことです。準決勝の前に手ごわい相手と戦う必要があれば、その試合前に練習量を落とさなきゃいけない。調整の仕方が難しくなるんです。スタミナは1週間しか持たないんですよ。あんまり早く緩めちゃうと、あとでバテちゃう。そのサジ加減が難しい。

 夏の場合は、体よりも精神的な部分、ハートの疲れが大きい。でも、足が動くようにしておけば、精神的な疲れも足でカバーできる。早めに練習を緩めちゃうと、足が動かなくなってしまう。そのあたりの調整をしっかりしないとダメなんです。エースには、準決勝の2日前まできつい練習を課すようにしていました。

――温暖化の著しい昨今、夏の大会は暑さ対策も必要になりますね。

小倉 ピッチャーにカッパを着させて練習させたこともあります。気温31〜32度の日には、人工芝の球場の上だと37〜38度くらいに感じます。

――今夏の神奈川県大会は、横浜、東海大相模、星瑳国際湘南、桐光学園が第1シード、平塚学園、慶應、橘学苑、横浜隼人が第2シードです。横浜にとって、決勝までに怖いのは暑さだけでしょうか。

小倉 準決勝で対戦する可能性のある慶應のチーム状態がどうか、ですね。そこまでは問題ないと思います。でも、慶應と同じ山にいる三浦学苑のピッチャー・石井涼(3年)がいいので、警戒は必要です。

 東海大相模にとって、怖い相手はいませんね。星瑳国際のピッチャー・本田仁海(3年)の評判がいいので試合を見ましたが、思ったほどではなかったですね。1番打者でセンターの小倉健太朗(2年)という選手は面白いけど。

――横浜と東海大相模の戦力を比較したら?

小倉 正直言って、五分五分です。キャッチャーは横浜のほうが、肩やリードはいい。横浜に大きな欠点はありません。2番から4番までいいバッターが揃っています。特に3番の齊藤大輝(2年)、4番の増田珠(3年)はいい。ここは横浜のほうが上かもしれない。

 とはいえ最近は、健大高崎に代表されるように、足を使った奇襲作戦をするチームが増えて、そういうのが高校野球の流行りになっています。たとえば、ランナー1、3塁でピッチャーが左のとき、1塁ランナーがわざと挟まれている間にホームを狙うとか、ランナー2、3塁で、セカンドに牽制球を投げさせてホームに帰ってくるとか。

 そういう奇襲に対して備えておかないと、やられたほうは1点が2点にも3点にも感じてしまう。そういう失点はショックが大きいんですね。今年は神奈川大会の上位対戦でも、どこかでそういうプレーがあるんじゃないかと思っています。ランナーがいても座ったままでピッチャーに返球するキャッチャーが目立つので、ディレードスティールが増えるのではないと見ています。

 神奈川の2強として知られる、横浜と東海大相模。小倉元部長の見立ても、ズバリその両校の優位を断言した。しかし、何が起きるかわからないのが高校野球。順当にいけば決勝で対戦することになる両校だが、シード通りに勝ち進む保証はどこにもない。今夏の神奈川大会では、はたしてどのようなドラマが待っているだろうか。

小倉清一郎(おぐら きよいちろう)
1944年、神奈川県横浜市生まれ。77年から横浜高校野球部監督、78年から横浜商業コーチ。90年から2014年まで、横浜高校のコーチ、部長を歴任。独自のメソッドと徹底した分析力で松坂大輔、涌井秀章、筒香嘉智らを育てた。甲子園出場春夏通算32回、うち優勝3回。著書に『参謀の甲子園 横浜高校 常勝の「虎の巻」』(講談社+α文庫)など。