7月に女子ワールドカップが開幕する。女子日本代表も出場するが、実はまだ放映が決まっていない。昨年の男子W杯でも問題とな…

 7月に女子ワールドカップが開幕する。女子日本代表も出場するが、実はまだ放映が決まっていない。昨年の男子W杯でも問題となった放映権料は、どうして高騰するのか。この大きな問題に、サッカージャーナリスト・後藤健生が切り込む。

■高騰を続ける放映権

 男子ワールドカップの放映権料は、日本代表が初めて出場した1998年のフランス大会の時にはわずか約6億円だったと言われている。それが、2002年の日韓大会以降は高騰を続け、2022年大会では約350億円に達した(金額はすべて推定)。

 日本では、1978年大会以来、公共放送であるNHKが地上波やBSで放映を続けていたが、2002年大会以降はNHKと民放各局によって構成される「ジャパン・コンソーシアム(JC)」が一括して放映権料を購入して、試合ごとに各局に割り振る形で地上波放送が行われてきた。

 しかし、放映権が巨額化したことで、カタール大会では民放局が相次いでJCから離脱を余儀なくされた。結局、インターネット配信のABEMAが200億円を出資。これに加えてNHK、フジテレビ、テレビ朝日の3社が放映権を獲得。ABEMAが全試合を無料配信し、地上波でも3局で放映がなされることになった(その他の民放各キー局は離脱)。

 こうして、カタール大会の模様はなんとか地上波でも放映され、日本代表チームの健闘もあって多くの人がワールドカップを視聴。長友佑都による「ブラボー!」が流行語となるなど社会現象も引き起こした。

■サッカーはキラー・コンテンツ

 ワールドカップ中継は高視聴率が期待できる、いわゆる「キラー・コンテンツ」である。

 日本における歴代視聴率ランキングでは1963年12月31日の「第14回NHK紅白歌合戦」の81.4%がトップで、2位が1964年10月23日の「東京オリンピック・女子バレーボール 日本対ソ連」の66.8%(スポーツ番組のトップ)。そして、2002年日韓ワールドカップの「日本対ロシア」が66.1%で3位。1998年ワールドカップ・フランス大会の「日本対クロアチア」が60.9%で7位に入っている。

 歴代視聴率の上位はテレビがメディアの主役となり、カラーテレビが普及しつつあった1960年代の番組がほとんどを占めている。多くの人たちが、お茶の間で一つの画面を眺めていた時代である。

 最近はメディアも多様化し、人々の価値観も多様化し、かつてのような高視聴率番組は期待できない時代になった。そんな中で、1990年以降だけに限れば、サッカーのワールドカップ中継が軒並み上位を占めているのである。

■W杯を観戦できない時代が来る?

 しかし、ワールドカップで高視聴率が期待できる日本代表の試合は、ラウンド16敗退となったカタール大会では4試合。グループリーグ敗退に終われば、たったの3試合しかない。そして、民放各局は地上波では日本戦は1試合ずつしか放映できないのだ。しかも、その視聴率も日本代表の戦いぶりに左右される。

 その、たった1試合のために数十億円を投資することが難しい選択であるのは当然であろう。なにしろ、民放各局の年間営業利益に匹敵する金額なのである。

 幸い、2022年大会の場合はABEMAという“白馬に乗った救世主”が登場した。

 だが、ABEMAが思い切った額を出資して無料配信まで行えたのは、たまたま出資者の一つである「サイバーエイジェント」の経営が好調だったからでもある。

 このまま、ワールドカップ(男子)の放映権料が高騰し続けていくとしたら、いずれは地上波ではワールドカップが放映できなくなり、さらにインターネット配信すら不可能な時代が来ても不思議ではない(すでに、アジア予選のアウェー戦はインターネット配信以外で視聴することができなかった)。

■本来のスポーツのとらえ方

 ヨーロッパには「ユニバーサルアクセス権」という考え方がある。有料テレビやインターネット配信の視聴のためには料金や設備が必要だ。こうした諸費用を支払えない低所得の人たちも含めて、オリンピックやワールドカップのようなビッグイベントにはすべての国民が接することができるように、無料放送でも放映すべきだという考え方である。

 もともと、BBCのような公共放送が存在するヨーロッパではスポーツの中継というのはスポーツ団体が主催するイベントを客観的に中継するものであり、高額な放映権料などは設定されていなかった。そもそも、スポーツ団体は「放映されれば観客動員が減る」と考えており、テレビ放映自体に消極的だったのだ。

 一方、プロ・スポーツが盛んだったアメリカ合衆国では、放送局自体がスポーツイベントを主催、後援して開催することもあった。スポーツと放送の強力を通じてスポーツ界には高額の放映権料が入ったが、時には、テレビ局の都合でスポーツのルール自体を放映に便利なように変えてしまうことすらあった。

「ユニバーサルアクセス権」の考え方はヨーロッパ的な考え方と言っていい。

FIFAの路線転換

 だが、現在はヨーロッパ勢が放映権料の高額化に積極的なようである。

 1974年にFIFA会長に就任したジョアン・アヴェランジェ(ブラジル)は、サッカーを商業化させた人物として知られている(あるいは“悪名”が高い)。

 しかし、アヴェランジェ会長はワールドカップは公共放送をはじめとする無料放送で放映すべきだとして、在任中は放映権料を低額に抑えてきた。それが、サッカーという競技を世界に普及させることにつながると信じたからだ。

 ヨーロッパ側は、当初はアヴェランジェ会長の商業化路線を批判していた。だが、1980年代以降の有料放送の登場と、それに伴う放映権料の高額化をビジネスチャンスととらえて、チャンピオンズリーグやEURO(ヨーロッパ選手権)の放映権料で巨額の利益を得たことで彼らの姿勢は大きく変わり、FIFAも放映権料ビジネスに乗り出すべきだと主張したのである。

 1998年にアヴェランジェ会長が退くと、その後、ゼップ・ブラッター会長体制の下でワールドカップ放映権料はうなぎ上りとなっていった。

 ジャンニ・インファンティノ会長が率いる現在のFIFA執行部も、この放映権料高額化のビジネス・モデルを引き継ぎ、今回は女子ワールドカップでも高額化(男子の10%程度)を目指そうとしているのだ。

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