前節のJ1リーグでは、見応えのある一戦が繰り広げられた。柏レイソルと北海道コンサドーレ札幌による「4-5」という両チー…

 前節のJ1リーグでは、見応えのある一戦が繰り広げられた。柏レイソル北海道コンサドーレ札幌による「4-5」という両チーム合わせて9ゴールが生まれた試合である。このゲームの根底を、サッカージャーナリスト・後藤健生が読み解く。

■進化を止めないミシャ

 まだ「可変システム」などという言葉もなく、DFの攻撃参加といえばサイドバックがタッチライン沿いに上がってクロスを入れるか、センターバックが前線に上がって高さを生かしてヘディングを狙うくらいのものだった時代に、ペトロヴィッチ監督はその愛称をとって「ミシャ式」と呼ばれるサッカーでわれわれを魅了したものだ。

 ミシャ監督の功績やその人物に関しては、『サッカー批評』でも大住良之さんが詳しく論じているので(2020年9月19日掲載「『賢者の贈り物』ミシャ・ペトロヴィッチ論」)参照いただきたい。

 さて、最初にサンフレッチェ広島にやってきてから17年もの間、ペトロヴィッチ監督のサッカーを見続けてきたのだから、そろそろ「『ミシャ式』などはもう見飽きた」という気持ちになってもおかしくはないような気がする。

 だが、柏戦で札幌の攻撃を見ていると、僕は逆に“新鮮さ”を感じていた。

 ミシャの(これから後は、僕も大住良之さんに倣って「ミシャ」と表記する)サッカーは進化を止めないのだ。たしかに広島時代も、浦和レッズ時代もミシャは守備のことなど考えずに攻撃サッカーを追求した。

 だが、ミシャ自身が言うように柏戦の前半は「ベスト」だった。それも、少なくとも攻撃的姿勢についてだけ評価するなら「私が札幌に来てから」ではなく、「ミシャが来日してから」のベストだったかもしれない。

■「ミシャ式」とは

 もちろん、ミシャのサッカーを見るだけのために広島や札幌まで通うわけにもいかないので、僕はミシャの試合を全部見ているわけではない。しかし、柏戦の前半は少なくとも僕が見た中では最も攻撃だった。

「ミシャ式」を簡単に復習しておこう。

 基本のシステムは3-4-3(3-4-2-1)のスリーバックである(守備時にはウィングバック=WBが下がってファイブバックとなる)。

 しかし、攻撃の場面では両WBは最前線まで進出して、前線に5人のアタッカーが並ぶ。さらに、ボランチの1人が最終ラインに下りてくると同時に、左右のセンターバック(CB)がサイドバック(SB)の位置に開いて攻撃に上がっていく。最終ラインには中央のCBとボランチの2人が残るから、この瞬間の並びを数字で表せば「2-3-5」という形になる(システムを数字で表現するのは便宜上のもので、戦術を語る上ではほとんど無意味なのだが……)。

 広島や浦和では、ボランチとして最終ラインに下りてくる役割は森崎和幸や青山敏弘、あるいは阿部勇樹が務め、左右に開いて攻撃に参加するセンターバックとしては森脇良太槙野智章といった選手が中心だった。

「ミシャ式」の基本は変わっていない。

 柏戦では札幌のスリーバックは右から田中駿汰、岡本大八、菅大輝。WBは右が金子拓郎、左がルーカス・フェルナンデス。ボランチはキャプテンの荒野拓馬と中村桐耶。前線は小柏剛を中心に右に浅野雄也、左に駒井善成(駒井はやや下がり目でトップ下的な役割)。

■目についた変化

 そして、これまでのミシャ式に比べて目を引いたのは、WBが最前線に上がったり、CBがサイドに開くタイミングが非常に早かったことだ。

 広島時代、浦和時代の「ミシャ式」では、ボールを保持してパスをつなぐ間に森崎和や阿部が下りてきて、機を見て森脇や槙野がタッチライン沿いを上がっていった。

 WBが最前線に上がるのも、このタイミングである。最初から5人が前線に並ぶ状態になってしまうと、かえって動きがなくなってダイナミックさを失ってしまっていた。

 柏戦は19時3分に札幌のキックオフで始まったのだが、試合開始から20秒くらいで岡本からのロングフィードがトップの小柏に渡っていきなり札幌がチャンスを作った。するると、その後もWBが高い位置に上がったままで、5人のアタッカーが並ぶ形を保ったのだ。

 そして、最終ラインの岡本やボランチの中村からは前線に向けて再三ロングボールが供給される。しかも、かなり速いボールだ。7分にはボランチの荒野が右サイドの深い位置に進出。そこから中央、そして左サイドとパスがつながって、L・フェルナンデスがクロスを入れて浅野がヘディングシュートしたがクロスバーを越える。

 そして、10分には左のCB菅からL・フェルナンデスにパスが入ったのをきっかけに分厚い攻撃が始まり、きっかけを作った菅が上がってきて相手ペナルティーエリア内の深くまでドリブルで進入。菅のクロスからのこぼれを拾ったL・フェルナンデスから駒井につながり、さらに駒井が落としたボールを荒野が決めて早くも札幌が先制した。

 その後、戸嶋のゴールで柏が追いついたものの、18分には札幌が2点目を奪って再びリードしたが、これも荒野から左サイドのL・フェルナンデスへの縦パスが通り、クロスを駒井が決めた速攻によるものだった。

 右サイドの金子もDFの田中とのコンビネーションを生かして攻撃の形を作り、最前線に上がったWBは札幌の攻撃をリードした。

いま一番読まれている記事を読む