【物足らなかった打撃に変化】 今から1年前、仙台育英のグラウンドで初めて山田脩也のフィールディングを目にした時、ショートの定位置にスポットライトが当たっているような錯覚を起こした。力感のないショートの守備が高く評価される、仙台育英の山田脩也…

【物足らなかった打撃に変化】

 今から1年前、仙台育英のグラウンドで初めて山田脩也のフィールディングを目にした時、ショートの定位置にスポットライトが当たっているような錯覚を起こした。



力感のないショートの守備が高く評価される、仙台育英の山田脩也

 力感なく、弾力のある1歩目、なめらかな足運び、極めてソフトなグラブさばき、流れるような握り換えとスローイング、繊細なフォロースルー。すべてのアクションが絵になり、美しかった。

 高校生の内野手は懸命にプレーするがゆえに、体に必要以上に力が入りやすい。だが、山田の軽やかな動きには、余計な力みがまるでなかった。

 山田は自身の守備について、こんなこだわりを語っている。

「脱力したほうが動きやすいので、1歩目は脱力して動き出しています。ボールは卵を扱うように捕っています。グラブの芯に当たる寸前にワンクッション置くというか、やさしく吸収するイメージです」

 投手としても最速140キロを超える快速球を投げると聞き、2023年のドラフト候補になるだろうと予感させた。

 ところが、山田がバッターボックスに入ると、ふくらんでいた期待が途端にしぼんでいった。

 高校生としては十分な打撃力なのだが、どこか物足りない。遊撃のポジションではあんなに輝いていた山田が、打席に入ると小さく見えてしまう。線の細さ、非力さが目についてしまうのだ。

 仙台育英は昨夏の甲子園を制し、今春のセンバツでもベスト8に進出した。大舞台を経験した山田だったが、それでも打撃への印象は変わらなかった。「打撃面さえ化ければ......」そんな密かな願望を抱き続けたなか、5月25日の春季宮城大会準々決勝(古川学園戦)で印象が一変した。

 打席で大きく見える――。

 どこがどう変わったかまではわからず、あくまで筆者の主観である。それでも、山田の構え姿に今までにないムードを感じた。この日、山田は0対0の均衡を破る爽快なタイムリーヒットをレフトに放ち、チームの勝利に貢献している。

【プロのスカウト、監督の評価は?】

 バックネット裏で視察した橿渕聡スカウトグループデスク(ヤクルト)に尋ねると、こんな感想が返ってきた。

「もともと形はよかったですけど、バットを振れるようになってきましたね。上のレベルでも"脇を固める存在"として求められると思います」

 試合後、仙台育英の須江航監督に「山田くんの打撃に雰囲気が出てきたのでは?」と尋ねると、須江監督は「それはうれしいですね」と笑ってこう続けた。

「センバツを振り返って、チーム打撃をしてほしい場面とそうではない場面が、私と山田の間で認識にズレがありました。『そうじゃないだろ?』というストレスがあったので話をしたのですが、今はそれがほぼなくなりました」

 須江監督の言うように、この日の山田は進塁打を3回決めるなど2番打者としての役割もこなしている。

 そして、須江監督は山田をこうも評した。

「山田は天才肌なので、私と話をしたからよくなったのか、勝手によくなったのかはわかりません。でも、総じてレベルアップしていますよ」

 本人にも打撃面について聞いてみた。よほど手応えがあるのだろう。山田は喜々として語り始めた。

「右の股関節にはめることと、トップをずらさないことを意識したら、だいぶよくなってきました」

 和田照茂トレーナーのレクチャーを受け、股関節に意識を置いた状態から力を一気に解放するトレーニングを試したところ山田の感覚にマッチしたという。

「センバツの頃は右の股関節がはまっている感覚がなかったんですけど、今ははまるようになって、そこから状態がよくなりました」

 また、山田の言う「トップ」とは、打者がスイングを開始する位置のこと。山田は村上宗隆(ヤクルト)のようにグリップを引いた状態で構えることで、ミスショットを減らすことに成功した。

 つまり、山田の進化には技術的な裏づけがあったのだ。

【稀代の遊撃手が、一番気持ちいいプレーは?】

 現時点で山田は支配下でのプロ志望を明言している。今年は高校生遊撃手のドラフト候補が乏しいため、この調子でいけば山田の注目度はさらに高まるだろう。山田自身、「ずっとショートをやっていきたい」と守備へのこだわりは強い。

 最後に「ショートをやっていて、一番気持ちいいプレーは?」と山田に聞くと、思いがけない答えが返ってきた。

「ランナーが盗塁してキャッチャーからの送球がきた時、シュートして一塁側にそれたボールを捕って、ノールックでランナーにタッチするプレーですね」

 あまりにもマニアックなプレーに感じられたが、山田にとっては「アウトにしたという感じがあって、『よっしゃ〜』と思うプレー」なのだという。須江監督は「天才肌」と評したが、やはり独特の感性の持ち主だ。

 そのフィールディングをいつまでも眺めていたくなる。稀代の遊撃手・山田脩也は今日も華麗に、軽やかにゴロをさばいていく。