●「史上最強の留学生」の記録を15秒更新 箱根駅伝において、"史上最強の留学生"の呼び声が高いのが、この春に東京国際大を卒業したイェゴン・ヴィンセント(現・ホンダ)で間違いないだろう。 東京国際大は今年1月の箱根駅伝で1…

●「史上最強の留学生」の記録を15秒更新

 箱根駅伝において、"史上最強の留学生"の呼び声が高いのが、この春に東京国際大を卒業したイェゴン・ヴィンセント(現・ホンダ)で間違いないだろう。

 東京国際大は今年1月の箱根駅伝で11位に終わり、次なる第100回大会は予選会からの再出発となるが、ヴィンセントや日本人エースの丹所健(現・ホンダ)が卒業し、駅伝部創部からチームを率いてきた大志田秀次監督も退任。今季は戦力ダウンが必至で、厳しい戦いが強いられるかと思われていた。

 だが、4月にリチャード・エティーリとアモス・ベットのふたりのケニア人留学生が入学。早速、ハイパフォーマンスを連発している。

 特に活躍が顕著なのがリチャードだ。



「ゴールデンゲームズ in のべおか」で5000mの日本学生記録を打ち立てたリチャード・エティーリ

 まず衝撃を与えたのが、4月22日の「NITTAIDAI Challenge Games」の男子10000mだった。入学早々にもかかわらず、2021年にワンジク・チャールズ・カマウ(武蔵野学院大)が打ち立てた従来の日本学生記録(27分18秒89)を約12秒も上回り、27分06秒88の新記録を樹立したのだ。

 衝撃はこれだけにとどまらない。5月4日の「ゴールデンゲームズ in のべおか」に出場すると、今度は5000mで13分00秒17の学生新記録を打ち立てた。従来の記録はヴィンセントの13分15秒15だったが、一気に15秒も塗り替えた(そもそもターゲットタイムを13分05秒に設定していた)。

 まだトラックシーズンが始まったばかりだったとはいえ、この時点で2023年のリストで世界1位に相当するハイパフォーマンスでもあった。まさにワールドクラスの走りだ。

 記録だけでなく、レース内容もみごとだった。積極的にレースを牽引し、先輩のヴィンセントに先着したばかりか、最後は猛烈なラストスパートを炸裂させ、男子10マイルの世界記録を持つベナード・コエチ(九電工)にも競り勝った。

 もともとトラックではヴィンセントと同等の記録を持ち、2022年は日本国内の大会でたびたび好タイムをマークしており、「今度、東京国際大に新たに入学する留学生も強い」とはたびたび囁かれていた。だが、ここまでの活躍は、我々の想像を大きく超えるものだ。

 大学に入学してわずか1カ月で2種目の学生記録保持者となり、リチャードはトラックでは早くも名実ともに"史上最強の留学生"となった。

●箱根駅伝で真の"最強留学生"となれるか

 もうひとりの留学生、アモスも、国際大会の「World Indoor Tour Madrid2023」で3000mを制した実績があり、5000mの自己記録は13分20秒40と力がある。

 4月8日の金栗記念選抜陸上ではリチャードに先着し、「ゴールデンゲームズ in のべおか」でも13分23秒83と上々の走りを見せた。



アモス・ベットも安定して好記録をマークしている

 リチャードに比べるとどうしてもインパクトは薄れてしまうが、1年目としては十分な活躍ぶりだ。

 だが、トラックでどんなに活躍をしようと、昨今の大学長距離界は、どうしても駅伝、とりわけ箱根駅伝のパフォーマンスで評価されてしまう。トラックで驚異の走りを連発するリチャードでも、箱根駅伝で活躍してこそ、世間からは真の"最強留学生"と見られるのではないだろうか......。

 箱根駅伝にケニアからの留学生が初めて登場したのは昭和最後の大会となった1989年の第65回大会。日本テレビ系列の全区間完全生中継が始まったのもこの年からで、留学生ランナーの走りは、たびたびお茶の間に強烈なインパクトを与えてきた。

 そのなかでも、先輩のヴィンセントのパフォーマンスは圧倒的だった。

 1年時には3区21.4kmを59分25秒で走り切り、従来の区間記録を2分以上更新。2年時はエース区間の2区で、向かい風にも負けず13人抜きの快走。前年に相澤晃(現・旭化成、東洋大OB)が打ち立てた区間記録をわずか1年で塗り替えた。

 3年時はレース中に左足を負傷し区間5位にとどまったが、最後の箱根ではケガ明けにもかかわらず、4区で区間新記録を樹立。ヴィンセントは現行のコースで3つの区間記録を持つ。これが"史上最強の留学生"と呼ばれた所以だ。

●1年目から活躍の期待大

 それでは、リチャードのロードの適性はどうなのか。

 指導する中村勇太コーチによると、昨年の夏に来日していた際には、昨年の北海道マラソンで優勝したルカ・ムセンビの練習パートナーとして、菅平高原で30km走などの練習をこなしていたという。さらには、冬の駅伝シーズンにも日本を訪れ、日本の寒さも体験済みだ。

 ちなみに、先輩のヴィンセントは、大学1年目には、ジョギングでも20km以上の距離を走る練習を一度もやったことがなかった。初めて20km超の距離を走ったのが箱根駅伝予選会で、その次があの衝撃の箱根駅伝3区だった。

 ということは、駅伝でも1年目から活躍を期待していいのではないだろうか。

 もちろんその前に厳しい予選会を勝ち上がらなければならないが、第100回箱根駅伝では、ヴィンセントを超える"史上最強の留学生"の活躍が見られるかもしれない。