東京六大学野球の春季リーグ戦で、3季連続43度目の優勝を決めた明治大の田中武宏監督は、「去年は"チーム村松(開人/現中日)"。今年は"チーム上田"の初優勝を本当に嬉しく思う」と目を細めた。 その「上田」とは、主将で4番を務めた上田希由翔(…

 東京六大学野球の春季リーグ戦で、3季連続43度目の優勝を決めた明治大の田中武宏監督は、「去年は"チーム村松(開人/現中日)"。今年は"チーム上田"の初優勝を本当に嬉しく思う」と目を細めた。

 その「上田」とは、主将で4番を務めた上田希由翔(きゅうと・4年)。12試合に出場して打率.313、3本塁打、12打点と大活躍し、今秋のドラフト会議での指名が有力視されている。



3季連続の優勝を決めた明治大の(前列左から)3年の杉崎成、4年の上田希由翔、(後列)田中武宏監督

 明治大の3連覇は、1937年春から38年秋に成し遂げた4連覇以来85年ぶりのこと。2022年春以来となる勝ち点5(※)の完全優勝となった今季も、明治大の圧倒的な強さが際立つシーズンとなった。

(※)先に2勝したチームに勝ち点1が加えられ、勝ち点によってリーグ戦の順位が決められる)

 全試合を終え、10勝1敗1分けの勝ち点5と力を見せつけたが、上田が「毎試合、死にものぐるいで戦って、ラクな試合は1試合もなかった。それが結果につながってホッとしています」と話すように、栄冠への道のりは順風満帆なものではなかった。

 春季リーグ初戦の東大戦は、先発のマウンドに上がったドラフト候補の村田賢一(4年)が自らタイムリーを放って先制したものの、8回にエラー絡みで2失点。一時は東大にリードを許すことになった。延長戦の末に3対2でサヨナラ勝ちを収めたが、東大と引き分けた昨秋の開幕戦を彷彿とさせる苦しい試合展開に、田中監督は「嫌な感じはしていたが、昨年に比べるとチームの状態はかなりよかった」としながらも、「簡単に勝たせてくれなかった」と反省を口にした。

 続く2回戦も、初回に宗山塁(3年)のタイムリーと上田の2ラン本塁打で3点を先制するも、一時は同点に。9回に途中出場した菅原謙伸(4年)と水谷公省(3年)にタイムリー2塁打が飛び出して勝ち点こそ手にしたが、後の戦いに不安も感じさせた。

【苦しい戦いを救った伏兵の活躍】

「今(先発に)入っているメンバーも明日はどうなるかわからない。こちらとしても悩ましいが、もっと悩ませてほしい」(5月13日、対早稲田戦)という田中監督の言葉にあるように、明治大の快進撃と3連覇は、クリーンナップを担う上田や宗山はもちろん、エースの村田を脇で支える"伏兵"の活躍なくしては成し得なかっただろう。

 慶應大との2回戦(4月23日)では、広陵時代にU-18ワールドカップ高校日本代表を務めたルーキーの内海優太(1年)を代打で起用。6回に決勝点となる2ラン本塁打を放ち、チームの勝利に貢献した。

 1勝1敗1分で迎えた4回戦(4月25日)も延長戦までもつれたものの、今季から正捕手を任された小島大河(2年)の決勝3ランが10回に飛び出し、苦しみながらも勝ち点を獲得。「自分ができることをしっかりやっていきたい」と語る小島は、東海大相模高でセンバツ優勝を決めるサヨナラ打を放った2年前と変わらぬ"勝負強さ"を見せつけた。

「また4戦までもつれる可能性があるので、覚悟しておいてほしい」

 そんな田中監督の言葉に引き寄せられるように、翌週(4月29~30日)に行なわれた法政大戦も、1戦目は逆転につぐ逆転の試合展開となったが、接戦に決着をつけたのは8回に代打で登場した伏兵の木本圭一(2年)だった。

 田中監督が「与えられたところできちんとやってくれる」と信頼を寄せる木本の逆転2ラン本塁打で劇的な勝利を手にすると、続く2戦目もエース村田の完封勝利で2連勝。今季の最優秀防御率のタイトルを手にするだろう法政大・篠木健太郎(3年)から奪った白星は、チームに勢いをもたらした。

【早稲田大との一戦で、田中監督の起用が的中】

 そして2連勝で3季連続のリーグ優勝が決まる早稲田戦(5月13日〜14日)でも、日替わりのヒーローがチームの勝利を手繰り寄せた。

「打倒明治!」に燃える早稲田大は1回戦(5月13日)で、昨秋に最優秀防御率のタイトルを手にしたエース右腕の加藤孝太郎 (4年)を中3日で先発のマウンドに送る。対する田中監督は、「ずっと状態がよかったので、いつか使いたいと思っていた」という左打者の今井英寿(2年)を初のスタメンに抜擢した。「いつ(試合出場を)言われてもいいように準備をしてきた。やってやるぞという気持ちだった」という今井は、1本塁打を含む4安打4打点で監督の起用に応えた。

 投げては、先発したエースの村田が6回2失点(自責1)の好投。試合後に村田は「調子はあまりよくなかったが、自分のピッチングができたことはよかった。(早稲田の選手は)ボールが高めに浮くと捉えられる印象だったので、浮かせないように心がけた」とコメント。15得点の大量援護にも助けられて安定した投球を披露し、今季2勝目をマークした。

「優勝を意識するというよりは、全員が勝ち点をとるために戦っていた」(上田)という2回戦も、初回に上田と杉崎成(3年)のタイムリーで先制。久々の先発起用に応えた杉崎が3安打3打点の活躍を見せるなど、田中監督の采配も光った。

 試合は今季から先発を任され「心身ともに成長し、球質も良くなった」という石原勇輝(4年)、久野悠斗(2年)、ドラフト候補の蒔田稔(4年)のリレーで早稲田大の反撃を振り切り、6対3で勝利。1カードを残し、3季連続の栄冠を手にした。

【「チーム上田」が目指す大学日本一】

「上田と宗山だけではなくいろいろな選手が出てきた。これもチームの成長だと思う」

 田中監督がそう振り返ったように、多くの新戦力が台頭するチームで特に存在感を示したのが、今季からスタメンに定着した飯森太慈(3年)だろう。「体力もつき、彼の特長が出たシーズンだった」という飯森は、今季を締めくくる立教大との2回戦で、5打数3安打2打点と活躍した。

 飯森は、「三振を恐れずに、しっかりバットを振れるようになったことが打率につながっている」と躍進の理由を語ったが、その試合で打率を.426にまで上げ、首位打者のタイトルを手繰り寄せた。試合後には、昨春に首位打者を手にした宗山からの「逃げたら負ける。攻めた奴が勝つ」というアドバイスでバットが出るようになったエピソードも披露した。

 飯森にとっては自身のタイトル獲得をかけた春季リーグ最終戦だったが、プレッシャーのかかる場面でもふだんどおりの実力を発揮した。タイトル争いの行方は、5月27日から行なわれる早慶戦の結果を待つことになるが、「チームで一番練習してきたと思っているので、それが結果につながった」とタイトル獲得に確かな自信を覗かせる。

 圧倒的な強さで春季リーグを制した明治大は、6月から行なわれる全日本大学野球選手権(神宮球場・東京ドーム)へと駒を進める。

 主将の上田は「負けたら終わりの場面が続く試合なので、緊張感を持ちながら、チーム全員で優勝を目指して戦いたい」と抱負を口にするが、昨年の同大会では、延長タイブレークにもつれた準々決勝の佛教大戦で「非常に悔しいサヨナラ負け」(田中監督)を喫している。今年はその雪辱と、森下暢仁(現広島)を擁して優勝を掴んだ2019年以来の全国制覇を目指すこととなる。

 前人未到の大学4冠(大学選手権、春秋リーグ戦、明治神宮大会)達成に向けて、さらなる高みを目指す「チーム上田」の成長から今後も目が離せない。