2023年箱根駅伝での東海大。2区石原翔太郎(右)と1区・梶谷優斗 前回の箱根駅伝で15位となり、2年連続でシード権を逃した東海大。 その後、吉田響ら当時の2年生に大量に退部者が出るなどチームに激震が走ったが、越陽汰(3年)がキャプテンとな…



2023年箱根駅伝での東海大。2区石原翔太郎(右)と1区・梶谷優斗

 前回の箱根駅伝で15位となり、2年連続でシード権を逃した東海大。

 その後、吉田響ら当時の2年生に大量に退部者が出るなどチームに激震が走ったが、越陽汰(3年)がキャプテンとなり、4月から新たなスタートをきった。トラックシーズンにおける重要な大会である関東インカレを迎え、果たして東海大は復活を印象づける結果を生むことができたのだろうか。

 1500mで松本颯真(2年)と兵藤ジュダ(2年)はともに予選敗退で決勝に残れず、3000m障害も飯干凌成(2年)が14位で決勝に進出できなかった。ハーフマラソンは、前回の箱根4区9位のキャプテン越が12位(64分23秒)、入田優希(4年)が14位(64分50秒)、前回の箱根7区18位の竹割真(2年)はDNF(途中棄権)に終わった。

 竹割は序盤、力感のある走りで上位をうかがっていたが、フィニッシュできず、越も前回の箱根9区6位の湯浅仁(中央大4年)らの先頭グループから遅れ、力を十分に発揮できずに終わった。

【10000mで好走した花岡寿哉、梶谷優斗】

 調子のよさを見せたのは、雨のなか、10000mに出場した花岡寿哉(2年)と梶谷優斗(3年)だ。

 梶谷は前回の箱根で1区19位だったが、その後、練習に意欲的に取り組み、今回は28分37秒32で7位入賞を果たした。箱根では悔しい表情を見せていたが、今季にかける思いが伝わってくるレースだった。

 花岡はすばらしいレースを見せ、日本人トップ、総合2位という結果を出した。レース後は充実した表情を見せていたが、今回のレースに臨むにあたり、1年前の関東インカレを思い出し、ある決意を胸に出走したという。

「昨年の関東インカレの10000mを観客席から見ていたんですが、東海大としてはあまり勝負にならなくて、その前年(のシーズンで)戦えなかった弱さが少し出たのかなと思っていました。その時、次回、自分が出たらしっかりと結果を残したいと思ったので、その気持ちで今回臨みました」

 レース展開は、強気な姿勢を崩さず、スタートから先頭を行く留学生について走り、8000mまでピタリと背後についた。

「最初はあまりペースが上がらないのかなと思って、うしろから行こうと思ったんですけど、序盤からけっこうハイペースになったので、これはしっかりついていって粘るレースになるなと思ってついていきました。4000mぐらいからキツかったんですけど、それでもペースを上げて、できるだけひとりで走る距離を短くしようと思っていました。8000mから少し離されたんですが、しっかりと2位でゴールできて、日本人トップになれてよかったです。でも、石原(翔太郎・4年)さんが2年前、10000mで2位になった時、最後まで留学生と戦っていたので、まだそこには力が及んでいないですね」

 それでも28分15秒65というタイムは2部の選手を合わせても日本人トップで、存在感を示す結果になった。

【花岡寿哉は次期エース候補】

 もともと花岡は、2年生のなかでは突出した存在だった。前回の箱根駅伝予選会は故障で出場できなかったが、チーム内4位と好走した鈴木天智(2年)が、「今の自分たちの代では花岡が本当に強い。花岡には簡単に勝てないので、まずは練習から勝つことを目標にしたいです」と語るほど飛び抜けていた。実際、花岡は箱根駅伝に出走し、3区6位、順位を11位から9位に上げる走りを見せた。

 だが、花岡にとっては、満足のいくシーズンではなかったようだ。

「昨年は前半、ケガをしてしまって後半だけ安定した結果を残せたのかなと思っていました。今年は、安定した結果だけでは駅伝では戦えないというのを感じたので、今回のように日本人トップだったり、よりインパクトのある結果を残せるような力をつけていきたいと思います」

 石原に次ぐエース候補と言ってもいいだろう。今季のトラックでの目標は、5000mは13分30秒をきること、10000mは27分台を狙っていくという。

「これからしっかり力をつけていけば、狙えなくはない記録かなと思います」

 何かやってやる、強くなってやるという気持ちが見える選手だけに、今回の花岡の走りと結果は、チームに大きな刺激を与えたに違いない。

【エース石原翔太郎が感じているチームの変化】

 5000mではエースの石原が2位、五十嵐喬信(3年)が13分57秒59の自己ベストで7位入賞を果たした。2年時に大量の退部者が出た代から越、梶谷に続いてしっかりと走れる選手が出てきたのは、戦力的にはもちろん、来年度の編成を見据えても大きい。

 エースの石原は、雨のなか、留学生を始め、伊藤大志(早稲田大3年)、吉岡大翔(順天堂大1年)、三浦龍司(順天堂大4年)らが形成する先頭グループでレースを展開していた。残り200mのラストスパートで逃げきりを見せた三浦を追ったが、とらえきれずに2位でフィニッシュした。

「天候が悪かったなか、体力的に厳しいかなと思ったので後半まで我慢していました。ラストスパートの勝負になったんですが、あと少し届かず、悔しかったです」

 石原は今年、最上級生になった。

 前回の箱根駅伝は総合15位、惨敗とも言える結果に終わり、石原はレース後、チーム内の競技に対する意識や取り組みについて厳しい表情で、こう語った。

「復路で崩れたのは、チームの底上げができていないからだと思います。中間層を含めて個々がもっとレベルアップしていかないといけなかった。正直、その部分では物足りなさがありました。練習のなかでも追い込める選手とそれができない選手がいるんですが、もっと追い込める選手が出てこないといけない。自分はふだんはひとりで練習をしているんですが、そこに誰もついてこない。そこに、どれだけみんながついてこられるか。自分に続いたり、追いかけるレベルの選手が出てこないと来年も厳しい結果になると思います」

 果たして、石原から学び、そのうしろ姿を追う選手が出てきているのか。

 花岡は、昨年は「石原頼りのチーム」だったことを認めつつ、今年は高い意識で練習に取り組んでいるという。

「今回の関東インカレは石原さんとは日程や種目も違うので自分は同じ種目の選手とポイント練習をしてきたんですが、ふだんは石原さんと練習し、途中でペースアップした時には頑張ってついていっています。石原さん、越さんら強い選手からいいものを自分のなかに入れこんで力をつけて、今年は自分がチームを引っ張って(駅伝シーズンで)シード権獲得とか上位に食い込めるチームにしていきたいです」

 花岡のような意識を持ち、表現できる選手が出てきたのは昨年との違いだろう。

 石原も練習での取り組みなどで、選手の意識の変化を感じるという。

「前回の箱根の結果が悪かったので、そのためには何かを変えていこうという意識が強くなったと思います。練習は、基本は全員でしていますけど、意識と自主性が高まり、一人ひとりが一生懸命に取り組んでいます。生活面でも、寮でルールを守って規則正しい生活を送れるようになってきました」 

 昨年の2、3年生が反発し、ギスギスした感じはなくなり、花岡は「新体制になってからいい雰囲気で練習ができています」と、違いを実感している。変化の過程にあるチームにおいて石原は自分がやるべきことについて、こう考えているという。

「自分は日本選手権やユニバー(ワールドユニバーシティゲームズ)など、大きな大会が控えていますが、そこで結果を出してチームに勢いをつけていきたいと思っています。チームとしては、みんな意識が変わって、しっかり練習に取り組んでいるので、あとは各自が結果を出して、100回大会の箱根でシード権を獲れるようにしたいですね」

 越キャプテンが掲げた「箱根総合3位」という目標を石原に投げると、控えめな笑みを浮かべた。

「うーん、予選会を突破して、そこでどういう走りができるのかで、その目標が見えてくるんだと思います。越はしっかりしていますが、4年生としてもしっかり支えていきたいですね」

 東海大の再建のシーズンともいえる今季、関東インカレの結果からはまずまずのスタートをきったと言える。続く6月の全日本大学駅伝の予選会で、チームとしてどんな走りを見せるのか、そして、ユニバーから石原が戻ってきたあと、夏合宿で選手個々の成長を促進し、チームをさらにビルドアップしていけるのか。いくつかの大きな山を越えた先に、今年の東海大なら復活の尻尾を必ず掴めるはずだ。