ルーキーシリーズの2開催で好成績を残した(左から)東美月、神戸暖稀羽、枝光美奈【 「まさかの優勝」に笑顔 】 3月に日本競輪選手養成所を卒業したばかりの選手たちが、最初に出走するのがルーキーシリーズ。いち早く選手たちの顔と名前を知ってもらう…
ルーキーシリーズの2開催で好成績を残した(左から)東美月、神戸暖稀羽、枝光美奈
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「まさかの優勝」に笑顔 】
3月に日本競輪選手養成所を卒業したばかりの選手たちが、最初に出走するのがルーキーシリーズ。いち早く選手たちの顔と名前を知ってもらうのが目的のレースで、2023年度は4月から6月にかけて全国4カ所の競輪場で開催される。すでに宇都宮(4月30日~5月2日)、四日市(5月5日~7日)が終了。残すは松戸(5月26日~28日)と福井(6月1日~3日)の2開催となった。
前2開催のガールズ部門で特筆すべきは、下馬評では決して高くなかった選手たちの活躍だ。養成所では在所成績を公表しているが、成績1位の竹野百香が宇都宮で優勝し、四日市で2着に入るなど、予想どおりの強さを見せた。
ただ宇都宮で2着に入ったのは在所成績11位の枝光美奈、四日市で優勝したのが同12位の東美月、3着が同16位の神戸暖稀羽といずれも10位台の選手たち。全23人の女子卒業生のなかでいずれも中位に位置していた。
ちなみに宇都宮で走った枝光は初日3着、2日目3着で決勝に進み最終的には2着に。四日市で走った東は3着、2着ときて優勝。神戸は1着、1着で勝ち進み最後は3着に入った。
優勝を手にした東が「まさか優勝できるとは思っていなかった」と驚きの表情を浮かべたように、レースを見た周囲からも予想外の結果と捉えられたようだ。
「優勝して師匠がとても喜んでいました。(第3コーナーから第4コーナーにかけて選手と選手の間を抜けてゴールしたことに)『新人なのによくあんな度胸のあることができるな』と言われました」(東)
「師匠は正直びっくりされていました。周りの人も、自分があんな結果を出すのが考えられないという反応でした」(枝光)
「『立派に走れていたから、俺、必要ないじゃん』とほめてもらえました」(神戸)
いずれの3選手もこう語って、笑顔を見せた。
【卒業からの2カ月でレベルアップ】
在所成績が振るわなかった彼女たちが、ルーキーシリーズで結果を残せたのは、やはり3月初旬の卒業以降の練習に要因があった。
枝光の成長を促したのは、練習場として使用している久留米競輪場でのガールズ選手たちの存在だ。
「久留米はガールズの選手がいっぱいいますし、その先輩方と一緒に練習させていただいたり、師匠にバイクで引っ張っていただいたりして、トップスピードの強化をやってきました。環境がすごく恵まれているので、すごくありがたいですね」(枝光)
久留米競輪場をホームバンクとしている選手には、ガールズグランプリ覇者の小林優香、児玉碧衣ら国内トップクラスの選手がおり、彼女たちの走りを間近で見ることで、目標を高く設定できるとともに、練習に臨む意識も自然と高くなる。この環境のなかで枝光の力が引っ張り上げられたのは想像に難くない。
宇都宮の決勝で2着に入った枝光(2番車・黒)
photo by Takahashi Manabu
神戸が着実にステップアップできたのも、練習相手の存在だ。
「(ホームバンクの)函館では、先輩の女子選手や男子選手の後ろにつけさせてもらったりしていました。複数人でのダッシュなどもやっていました」(神戸)
当然練習はハードなものだったが、先輩たちと一緒に練習するのは「楽しい」と語る神戸。それは、ベースアップを実感できている証拠でもある。また、養成所では実力をつけるために、あえて先頭に立って風を受けて走っていたという。在所成績が中位だったのは、それが理由のひとつだが、負荷のかかる厳しい道を選んだからこそ、このルーキーシリーズで結果を出せたと言える。
そして東に関しては、卒業後に取り組んだ練習がそのままレース展開に生かされた結果だ。
「男子選手の後ろについていく練習をしたり、追い込みの練習もしたりしていました。四日市ではレースの流れを見て臨もうと思っていて、その練習もしていたので、練習どおりの走りが結果につながりました」
東が走った四日市の3レースは、いずれも在所成績1位の竹野と同じ組となり、前に出てレースを引っ張る竹野に対して、決勝では最後に追い込みをかけて、ゴールラインぎりぎりでかわして優勝している。まさに狙い通りのレースだった。
【 残りは松戸と福井の2開催 】
ルーキーシリーズは1開催で14選手が参加するが、神戸は松戸(5月26日~28日)、東と枝光は福井(6月1日~3日)で出走することになっている。彼女たちは、初陣の好成績を踏まえ、さらにレベルアップを図るために、課題の克服に取り組み始めている。
神戸は長い距離でもトップスピードを維持できるよう「街道に行って50kmや100kmを乗り込む」ことに初めて挑戦している。また初戦を終えてすぐにジムに入会。「ゴール前でもフォームが崩れないように、上半身を鍛えようと思っています」と語る。
初戦で優勝した東は「さらに頑張らなきゃいけない」と気の緩みはない。四日市では当初自ら動いてレースの主導権を握る走りを目指していたが、その練習が足りていなかった。それは「やっておかなければいけない練習メニューがあったのに逃げていた」からだという。今は次の福井に向けて、先頭で走る練習を重点的に取り組んでいる。また「トップスピードにどれだけ早くもっていけるかという瞬発力をつける練習もしています」と余念がない。
枝光はスパート時での加速力を第一の課題に挙げ、現在そこをメインに取り組んでいる。また 、1着を狙うために位置取りの重要性も痛感。「宇都宮で3レース走ってみて、力を出せるようになったのがわかったので、踏み出しと位置取りでさらにレベルアップできるようにしている」と力を込めた。
最後のルーキーシリーズに向けて、東は「次も優勝を狙う」と宣言。神戸も「絶対に決勝に残って、優勝を狙いたい」と意気込む。まだ1着をとっていない枝光は「まずは1勝したい」とさらに上を目指す。
そのうえで、神戸は「今しかできない走り、思い切った走りをしてみたい」と語れば、枝光も「自分の走りをしたい」と、自らのスタイルの確立にも取り組む姿勢をみせる。また東は「自分は地道にコツコツ練習して伸びていくタイプだと思っているので、少しずつ強くなっていけたらいいなと思っている」とルーキーシリーズを踏み台にして、次への飛躍を見据えている。
このルーキーシリーズが終われば、いよいよ歴戦の猛者たちとの戦いが待っている。だからこそ彼女たちは、ルーキーシリーズを将来に向けた特別なレースだと捉えている。戦う相手は約10カ月間、苦楽を共にした仲間だ。互いの特徴を知り尽くし、これから共にプロの荒波に挑む、その想いを共有している同士だからこそ、思う存分、遠慮なくチャレンジできると考えている。
ルーキーシリーズに出場できるのは、この1年だけ。今しかない彼女たちの輝きにぜひ注目してほしい。
【Profile】
東美月(あずま・みづき)
2001年11月8日生まれ、兵庫県出身。身長159.0cm、体重66.9kg。小学時代からショートトラックスピードスケートを始め、2021国民体育大会の成年女子3000mリレー5位など好成績を残す。大学から本格的に自転車競技を始め、休学して養成所に入所。在所成績12位で卒業し、四日市のルーキーシリーズで優勝。現在は大学に在籍しながら競輪に励む。
神戸暖稀羽(かんべ・ののは)
2003年11月5日生まれ、北海道出身。身長154.0cm、体重52.0kg。高校から自転車競技を始め、全日本自転車競技選手権大会(ジュニア)500mTT2位、全日本自転車競技選手権大会(ジュニア)スプリント2位の成績を上げる。高校卒業後に養成所に入所し、16位で卒業。四日市のルーキーシリーズで3着に入る。
枝光美奈(えだみつ・みな)
1998年2月8日生まれ、福岡県出身。身長158.0cm、体重62.0kg。小学1年から大学までトライアスロンや水球に励み、アジアジュニアトライアスロン選手権3位、JOCジュニアオリンピックカップ水球競技優勝などの成績を残す。3度目の挑戦で養成所に合格し、11位で卒業。宇都宮のルーキーシリーズでは2着に入る。