鈴木清明球団本部長から「いや、お前は出さん」 他球団に行けばレギュラーになれるのではないか。元広島外野手の浅井樹氏(現カ…

鈴木清明球団本部長から「いや、お前は出さん」

 他球団に行けばレギュラーになれるのではないか。元広島外野手の浅井樹氏(現カープ・ベースボールクリニックコーチ)は現役時代、よくそう言われた。金本知憲氏、前田智徳氏、緒方孝市氏の外野レギュラーの壁は分厚く、代打の切り札にならざるを得なかった状況があったからだ。実は浅井氏は雑談レベルながら、広島・鈴木清明球団本部長に「トレード志願」の話をしたことがあるという。

 浅井氏は「鈴木さんは覚えているかどうか。たぶん忘れておられると思いますけどね」と前置きしながら振り返った。「僕が何年目だったか覚えていないですけど、確か、契約更改交渉前、予備段階での面談の時だったと思います。軽い感じの話ですよ。鈴木さんに『トレード志願制度ってあるんですか、僕って出してもらえるんですか』って聞いたんですよ。そしたら『いや、お前は出さん』って言われました」。

 その前の時点で、マスコミ関係者から「トレードがあるんじゃないか」と言われて気になっていたという。「あの時の野手のメンバーにはどう考えても勝てないけど、1年間、自分が試合に出続けたら、どのくらいできるだろうって。自信があるとか、ないとかじゃなくて、よそで挑戦できるならやってみたいなという思いは当然ありました。カープが嫌いとか、そういうのじゃなくてね」。

 そこで思い切って聞いたわけだが、鈴木本部長の回答は「出さない」。これに浅井氏は「何かうれしかったですね。必要とされているのかなっていう立ち位置が……。そういう喜びはある意味、ちょっとありました。じゃあ、このチームで勝負をかけるしかないって気持ちにもなりました」という。

2004年にFA権取得も行使せず残留「すごいメンバーとやれたことが大きかった」

 とはいえ、代打中心の生活が変わるわけではなかった。「僕は左利きだから、守るなら外野かファーストしかない。外野陣は絶対的だから、ファーストで、と思いましたけど、ここに(球団は)外国人選手を引っ張ってきますからね。鈴木さんには『オープン戦から勝負かけて外国人よりも打ってくれ』って言われましたけど、外国人より打っても開幕は外国人なんです。『結局そうじゃないですかぁ』って愚痴ばかりですよ。まぁ聞いてもらいたいというのもあるんですけどね。今思えば、鈴木さんも答えようがないですよね」。

 浅井氏はプロ1年目にアメリカ留学したが、その時の引率が営業企画課長だった鈴木本部長。「いろいろお世話になって、一緒に生活して、勝手に僕が身近に感じていたのもありますけど、解決しないことも言わせてもらって……。そんなことも言える環境を作ってもらって、僕はその点でも恵まれてましたよね」と感謝しきり。モチベーションをキープして、長く現役生活を続けることができたのは鈴木本部長の存在も大きかったようだ。

 プロ15年目の2004年に浅井氏はFA権を取得した。この時もいろいろ考えたそうだが、結局は行使せずに残留した。「1年違っていたら、とかはありましたね。プロ野球選手の1年って、世の中の4、5年分あると思いますからね」。だが決めたことに悔いはない。「すごいメンバーの中でやれたことが僕にとっては大きかったと思ってますから。すごかったからこそ、頑張れたんですもんね」。カープ一筋でプレーできたことは浅井氏にとって誇りであり、勲章みたいなものだ。(山口真司 / Shinji Yamaguchi)