卓球でオリンピック3大会連続メダルの石川佳純さん(全農)が23年間に及んだ競技生活に別れを告げた。
 
清々しい幕引きである。5月1日にすでに自身のインスタグラムで引退を発表していた石川さんだが、18日、東京・中央区の丸ビルホールで開かれた引退会見は充実感と感謝の言葉に満ちていた。

「引退を決意した理由は自分自信、やり切ったと思えたから。晴れやかな気持ちで、今日を笑顔で迎えられることをありがたく嬉しく思っています」
 
最も印象に残っている試合は、ロンドン2012オリンピック女子団体と世界卓球2017ドイツ混合ダブルスだという。

ロンドン大会は準決勝でシンガポールと対戦。「ゾーンに入ったというぐらい調子が良くて、今でも鮮明に覚えている」とメダル決定戦を振り返る石川さんは福原愛さん、平野早矢香さんと共に日本卓球史上初の五輪メダル(銀)に輝いた。

世界卓球では吉村真晴(TEAM MAHARU)とのペアで混合ダブルス金メダルを獲得。「我慢、我慢の連続で何とかもぎ取った勝利だった」と語った。

また、直近で忘れられないのが5年ぶり5回目の優勝を果たした2022年全日本選手権。

「諦めないことの大切さ、チャレンジし続けることの大切さを卓球から学びました」と不屈の精神で全日本女王に返り咲いた石川さんらしい教訓を披露した。

引退を決めたのは今年3月だったという。

海外ツアーのWTTシンガポールスマッシュ(7~19日)が終わってから、「その後、2つの大会(4月のWTTチャンピオンズ新郷、WTTチャンピオンズマカオ)で最後にしようと決意を固めました」と明かし、最大のライバル中国の陳夢と両大会で対戦した巡り合わせをこう捉えた。

「陳夢選手とは同じ年代でジュニアの頃から一緒に同じカテゴリーの試合にたくさん出てきました。(彼女は)東京オリンピックのチャンピオンでもありますし、尊敬する選手でもあります。コート外ではすごく仲のいい友人でもあって、今回、2回連続で、そして最後の試合の相手が陳夢選手だっことに不思議な縁を感じました」

競技人生を締めくくる陳夢との試合はゲームカウント1-3で2回戦敗退。「試合が終わった後は涙が出てくるかと思ったんですけど、思ったよりも清々しい気持ちで、現地のファンの方に笑顔で手を振ることができた」と言う。

その一方で、「引退することは家族以外には伝えていなかった。試合直前にファンに引退を伝えようと思ったんですけど、最後まで全力で戦う姿を見てほしくて言えなかった」と胸中を明かした。

ロンドンオリンピックで共に団体銀メダルを獲得した平野さんも会見に駆けつけた。

さまざまな思い出が蘇って来たのだろう。質問するなり涙声に。

代表選考レースが熾烈を極めた東京オリンピックまでの5年間についてたずねられた石川さんは、「最初のロンドンでメダルが取れたのは素晴らしい先輩の背中を見て育ってきたから。そして素晴らしい後輩たちと戦って、追い抜くときはいいけど、追い抜かれるときは苦しいものもあった。でも頑張ることを諦めずに東京オリンピックの出場権を得られた。自分自身を少し褒めてもいいのかな」とはにかんだ。

気になる今後については卓球の魅力を伝えるべく、現在進行中の「全農presents石川佳純47都道府県サンクスツアー」をはじめ、特に子どもたちの指導に力を入れていくという。

また卓球一色だったこれまでとは一転、「勉強をしてみたい。スポーツに関わる分野のほか、人に何かを伝えることは難しいと感じているので、それを学ぶことで成長できると思う」と新たな夢を口にした。

偉大な先輩である石川さんからバトンを託された日本代表選手たちは、20日に開幕を迎える「世界卓球2023南アフリカ(個人戦)」<20~28日/ダーバン>に臨む。

石川さんは「日本代表で出ている選手全員の目標は世界一。やはりまだ中国の壁は高い部分はあると思うんですけど、毎回毎回、全力で戦って挑戦していく中で突破口が見えてくる。全力で戦ってほしいです」と熱いエールを送った。


(文=高樹ミナ)