ノーサイドのホイッスルで、国立競技場を埋めたラグビーファンの歓声がピークに達した。クボタスピアーズ船橋・東京ベイの初優勝が決まった瞬間だった。これほどの盛り上がりは2019年ワールドカップ決勝以来としていいだろう。20日の決勝に駒を進めたの…
ノーサイドのホイッスルで、国立競技場を埋めたラグビーファンの歓声がピークに達した。クボタスピアーズ船橋・東京ベイの初優勝が決まった瞬間だった。これほどの盛り上がりは2019年ワールドカップ決勝以来としていいだろう。
20日の決勝に駒を進めたのは、リーグ戦トップの埼玉パナソニック・ワイルドナイツと2位のスピアーズだった。ある意味、順当な勝ち上がりだが、準決勝の戦いぶりは対照的だった。
ワイルドナイツは横浜キヤノン・イーグルスを51-20と粉砕、昨年の覇者の貫禄を見せつけた。一方のスピアーズは東京サントリー・サンゴリアスに24-18と辛勝。ロスタイムに2度もサンゴリアスのトライが“幻”になる球運に救われた。
ワイルドナイツは失点数がリーグ最少、スピアーズは得点数がリーグ最多と、それぞれの持ち味がはっきりとしている。点の取り合いならスピアーズ、守り合いならワイルドナイツという展開が予想された。リーグ戦では第10節に顔が合い、30-15でワイルドナイツが守り勝った。
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■山沢、堀江、小山の投入で“ワイルドナイツ勝ち”の展開に
試合は開始直後から激しく攻守が入れ替わるレベルの高い攻防となった。特に動きが目立ったのは、ワイルドナイツの長田智希とマリカ・コロインベテ、スピアーズの根塚洸雅と木田晴斗という両チームの両ウイング。再三、スピードあふれる突破とタックルをぶつけ合い、エキサイティンな試合を演出した。
ボールは動くものの、お互いに接点での圧力が強く得点が動かない。ワイルドナイツに有利なロースコアの試合展開となり、前半はPGだけの得点で9-3とスピアーズがリードした。
ワイルドナイツは12-3と差を広げられると、後半14分、いつもより早く山沢拓也、堀江翔太、小山大輝を投入。センターラインをリフレッシュした。この作戦が当たり、17分にモールから堀江がトライを奪って12-10と追い上げを開始、24分には長田のトライで12-15と試合をひっくり返した。後半に逆転する“ワイルドナイツ勝ち”の展開にまんまと持ち込んだ。
■木田の再逆転トライでスピアーズが初優勝
しかし、今シーズンのスピアーズは底力が違う。28分に木田がお返しとばかりにトライを決めて、17-15と再逆転に成功。そして、PGでも逆転という緊迫したシーンを12分間にわたってしのぎ切り、ついに栄冠をつかんだ。
マン・オブ・ザ・マッチにも選ばれた立川理道キャプテンは、高さ75センチ、重さ8.08キロの優勝カップを抱き、「国立に来るためではなく、勝つために準備をしてきた」と仕事人らしく静かにコメントした。
■“デクラーク劇場”が炸裂し、イーグルスが3位決定戦に勝利
19日に雨の中で行われたイーグルスとサンゴリアスの3位決定戦も観客が沸く好ゲームだった。前半、ペースを掴んだのはサンゴリアス。敵陣に入ると得点をして帰る試合巧者ぶりを発揮し、15-7でハーフタイムを迎えた。
しかし、チーム設立以来、初めてプレーオフ進出を果たしたイーグルスの勝利への執念は貪欲だった。特に素晴らしかったのはファフ・デクラークだ。キック、タックル、ラックで反則を誘うトリッキーな動きと、すべての局面で最高のパフォーマンスを発揮した。
極めつけは後半5分のプレー。密集からボールを持ってショートサイドへ抜け出すと、ディフェンスの背後に絶妙のパント。そのボールを自ら拾ってインゴールに滑り込むという、まさに“デクラーク劇場”を披露した。
その後、ゴール前でのトリックプレーからのトライ、東京オリンピックにセブンスのキャプテンとして出場した松井千士のトライを重ね、リーグ戦で連敗したサンゴリアスに借りを返して3位の座を掴んだ。最終スコアは26-20だった。
来季は、今季の上位4チームに加え、オールブラックスのスタンドオフ、リッチー・モウンガが加入する東芝ブレイブルーパス東京、今シーズン6位に沈んだトヨタ・ヴェルブリッツの巻き返しが期待される。実力拮抗の面白いリーグワンとなりそうだ。
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著者プロフィール
牧野森太郎●フリーライター
ライフスタイル誌、アウトドア誌の編集長を経て、執筆活動を続ける。キャンピングカーでアメリカの国立公園を訪ねるのがライフワーク。著書に「アメリカ国立公園 絶景・大自然の旅」「森の聖人 ソローとミューアの言葉 自分自身を生きるには」(ともに産業編集センター)がある。デルタ航空機内誌「sky」に掲載された「カリフォルニア・ロングトレイル」が、2020年「カリフォルニア・メディア・アンバサダー大賞 スポーツ部門」の最優秀賞を受賞。