天候をも味方につけてしまった!? 「もしかしたらこの壁も超えちゃうのかな」直前練習中に目の前でシャッターを切りながら想像していたことが現実となった。もちろんそれはX Games初出場で史上最年少優勝を成し遂げた小野寺吟雲のことである。 自身…
天候をも味方につけてしまった!?
「もしかしたらこの壁も超えちゃうのかな」
直前練習中に目の前でシャッターを切りながら想像していたことが現実となった。もちろんそれはX Games初出場で史上最年少優勝を成し遂げた小野寺吟雲のことである。
自身のランの前に集中力を極限にまで高める小野寺。類まれな集中力とは、まさに彼のこと。
©Yoshio Yoshida/X Games
5月12日から14日にかけて開催されたX Games Chiba 2023男子ストリートは、中日に予定されていた予選が雨天のため中止となり、出場全15選手が45秒間に自由にトリックをつないで争う2本のランに変更して行われた。
本来決勝は30分のコントロールジャムセッションだったため、この競技フォーマットの変更が、彼にとって有利に働くのではないか!? 漠然としたものではあったのだが、なんとなく勝ってしまいそうな予感がしていたのだ。
競技フォーマットの変更が与えた影響
「高くて乗れるか悩んだけど、どうしてもやりたかった」というフラットレール。練習中は何度か失敗する姿も見られたが、本番ではキックフリップB/Sテールスライドを完璧にメイク。
©Yoshio Yoshida/X Games
なぜなら彼の滑りの特長は、圧倒的なトリックのメイク率(成功率)にあり、複雑なトリックもあまりにあっさりと乗ってしまうため、多くの人がゲームのようだと例えるほど。その分スピードをつけて幅を飛び越え、そこからトリックをしかけるような大きな技は持ち合わせていない。そこは成長しきっていない身体の小ささが影響していることは間違いないのだが、このところ高得点が出るようになってきた類の技でもあるので、ベストトリックなどで見られるようになってきているのだ。そう考えると、天候という不確実性の高い要素も彼に味方したといえるのかもしれない。
相手は世界の一流ライダーばかり
今回急遽参戦が決まったナイジャ・ヒューストン。キックフリップF/Sボードスライド
©Yoshio Yoshida/X Games
しかしそれだけで勝てるほどX Gamesは甘いモノでない。 実際に今大会は当初参加予定がなかったナイジャ・ヒューストンや、直近のSLSを制したケルビン・ホフラー、さらにジェイミー・フォイといった錚々たるメンバーも参加していたので、やはり成し遂げた出来事は快挙といえるだろう。
2位のケルビン・ホフラー。キャバレリアル・バックサイドリップスライド ©Yoshio Yoshida/X Games
3位はジェイミー・フォイ。フェイキーオーリー・オーバークルックドグラインド
©Yoshio Yoshida/X Games
小野寺が見せたトリックチョイスの進化
彼は今後どこまで登り詰めるのだろうか!? 小野寺吟雲のスイッチヒールフリップ・フロントサイドボードスライド ©Yoshio Yoshida/X Games
それだけランにおけるトリックチョイスも進化しているのだ。そもそも彼はテールと呼ばれるボードの後端をかけるトリックを得意としていて、ボードに縦回転を加えるキックフリップからのフロントサイドブラントスライドやバックサイドテールスライドは代表的なトリックと言える。
もちろん今回もそれらのトリックは見られたが、途中にスイッチヒールフリップからのフロントサイドボードスライドという新たな組み合わせのトリックを入れてきたのだ。 最近のジャッジングは得意な技の傾向に寄ったトリック構成では高得点が出づらくなってきており、今年の世界選手権ではそれが原因であと一歩及ばなかったので、スタンスも回し方も変えてきたというのは、彼なりに考えた上でのトリックチョイスだったと言ったら大袈裟だろうか。
ストリートは決して子供が有利なわけではない
ジャンカルロス・ゴンザレスが見せた幅を飛び越えてのF/Sノーズブラントスライド。こういった技は絶対的な身体能力に左右されるため、小野寺のような小柄な選手がこなすのは難しいといえる。
©Yoshio Yoshida/X Games
よく彼のような若年層が勝つと、大人は敵わない競技なのかも。体の軽さとか子供特有のバランスがこういう結果になってるんじゃないかというような人がいるが、男子ストリートにおいてそれはないだろう。先ほど少しお話したのだが、体格が小さいというだけで高さや幅への対応が物理的に不可能なシチュエーションが出てくるからだ。
だからこそ彼は特別な存在だといえるだろう。今後彼が成長して周囲と同じような体格になり、やれることが増えた時、今以上にテレビゲームのようなトリックが再現されるような気がしてならない。昨年末の全日本選手権から続く快進撃は、もしかしたら、今後続いていく前人未到の伝説の序章に過ぎないのかもしれない。
決勝が雨天中止でも上位の顔ぶれに変動なし
今回の表彰台。左から西矢椛、ライッサ・レアウ、赤間凛音 ©Yoshio Yoshida/X Games
続いては女子ストリート。
こちらは男子とは違い中日に決勝が行われる予定だったため、雨天中止となったことで予選の結果がそのまま最終順位となってしまった。そのため一言で括るならば「消化不良」という言葉が出てきてしまうのかもしれないが、当日の天気が崩れることは前々から予測できていた事実。
そう考えると、決勝が行われないことも想定した戦略を立てたトリック構成ができた選手で、なおかつ今回のように練習時間がわずかしかない特設パークでも実力を十分に発揮できるという対応力の高さのあるものが、上位に食い込んできたのではないかと思う。
頭ひとつ抜きん出た存在
今回も安定したランを披露した西矢椛。フロントサイド・サラダグラインド ©Yoshio Yoshida/X Games
ただ蓋を開けてみると優勝・ライッサ・レアウ、2位・西矢 椛という並びは、直近のSTREET LEAGUE SKATEBOARDINGと同じ。最近のこの2人はどんな世界大会でも常に表彰台に上がっているので、安定感という意味でも頭ひとつ抜きん出た存在と言えるのかもしれない。
世界の女子ストリートの新たなアイコン
西矢椛を僅差で退けたライッサ・レアウ。フロントサイド・ブラントスライド。©Yoshio Yoshida/X Games
実際にライッサ・レアウは昨年も見せていたキックフリップ・バックサイドリップスライドという「回しイン」のトリックをより完璧に乗りこなしてルーティーンに組み込んでいたし、ラストに見せたビッグハンドレールでのバックサイドスミスグラインドは解説も思わずテキストブックと唸る完成度だった。他の選手と比べてずば抜けた差があるわけではないが、ここ最近の彼女の強さは、やはり特筆すべき事項だろう。
スタイルマスターはこの日も健在
ここではメイクできたが……。西矢椛のビッグスピン F/Sボードスライド ©Yoshio Yoshida/X Games
続いて僅差の2位となった西矢椛だが、あの浅い屈伸からは考えられないほどの浮遊感で繰り出すトリック精度の高さは、ここでもピカイチ。上手さはもちろん、カッコ良さも兼ね備えたスタイルは、シルエットだけ見れば男性のトップスケーターと変わらないといっていいだろう。
ただそれでも「納得いく滑りができていないのが悔しい」と振り返るのがトップたる所以といえる。ラン1本目では彼女の得意とするビッグスピン・フロントサイドボードスライドをメイクしたものの、小さいサイズのレールだったからだ。2本目は同様のトリックをメインのビッグレールでトライして失敗に終わっているので、そこを乗れていれば間違いなく彼女が優勝を手にしていただろう。
今後突き抜けるためのさらなる進歩を期待したいところだ。
新たな技を組み込んで表彰台に
3位の赤間凛音が見せたニュートリック。フロントサイド270・スイッチボードスライド ©Yoshio Yoshida/X Games
最後に3位の赤間凛音だが、彼女は人がやらないトリックを織り込んで3位に食い込んだ。得意のバーレーグラインドはもちろん、今回見せてくれたフロントサイド270・スイッチボードスライドという新技も、まだ女子ではほとんどやる選手がいない。彼女はこの数年で背もかなり伸びたので、繊細な動きの中にもダイナミックさが出てきたのではないかと思う。
現在女子は世界を相手にしても日本が圧倒的な強さを誇っており、まだまだパリ五輪代表の座もメダルの行方もわからない。今後もどんどん進化していくことは間違いないだろう。
今や女子の世界でも「回しイン」「複合トリック」がスタンダードになりつつあるので、どんな種類のトリックを組み合わせてくるのか、またそれをどんなセクションで披露してくれるのだろうか。 それらを楽しみにこれからも成長を見続けていきたいと思う。
【RESULT】
Mens Street/
1.小野寺吟雲
2.ケルビン・ホフラー(BRA)
3.ジェイミー・フォイ(USA)
4.ブレイデン・ホーバン(USA)
5.根附海龍
6.マット・バーガー(CAN)
7.ジャンカルロス・ゴンザレス(COL)
8.フェリペ・グスタヴォ(USA)
9.池田大暉
10.白井空良
11.クリス・ジョスリン(USA)
12.ナイジャ・ヒューストン(USA)
13.ライアン・デセンゾ(CAN)
14.カイル・ウォーカー(USA)
15.イショッド・ウェア(USA)
Women’s Street/
1.ライッサ・レアウ(BRA)
2.西矢椛
3.赤間凛音
4.クロエ・コベル(AUS)
5.ケート・オルデンベービング(NLD)
6.中山楓奈
7.織田夢海
8.前田日菜
9.ページ・ヘーン(USA)
10.ヘーリー・ポーウェル(AUS)
11.グレース・マーホーファー(USA)
12.西村碧莉
13.シークレット・リン(USA)
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