22年12月3日から1月28日の間、横浜市内で開催された「第3期 横浜スポーツビジネススクール」。横浜DeNAベイスターズが開催しているビジネススクールで、全5回に亘り行われた。各回をお送りする連載企画は第4回。ここでは「他球団との比較から…
22年12月3日から1月28日の間、横浜市内で開催された「第3期 横浜スポーツビジネススクール」。横浜DeNAベイスターズが開催しているビジネススクールで、全5回に亘り行われた。
各回をお送りする連載企画は第4回。ここでは「他球団との比較から見る、特徴を活かしたプロジェクトの作り方」をテーマにパネルディスカッションが開催された。
（取材協力：横浜DeNAベイスターズ、撮影 / 文：白石怜平）
ベイスターズが”愛される”までの5年
今回のパネルディスカッションでは横浜DeNAベイスターズ 執行役員 ビジネス統括本部 副本部長の鐵（てつ）智文さんと、直前に講義を行った東北楽天ゴールデンイーグルスの渡辺誉志さんの2人で行われた。
鐵さんは、05年の球団初年度に楽天野球団へ転職。エンターテインメントやスクール事業などを手がけ、10年に西武ライオンズへ。
ライオンズでも事業部としてスクールやイベント企画などを担当し、13年にベイスターズへ転職した。
現在はビジネス側全体の統括を担っており、その他NPBやDeNAが運営するスポーツ事業（バスケットボール、サッカー）に関する担当も務めている。
最初のテーマは「ベイスターズが愛されるチームになるための最初の5年間」について。ディスカッション前の講義で渡辺さんは、イーグルスが”東北に愛されるチーム”を目指していることについて話していた。
鐵さんはベイスターズでも”横浜の街や人々を元気にするというミッション”を持っているとし、その根拠を語った。
「まず地域に愛されることが第一と考えています。スタジアムのTOBや今行っている関内の再開発も地域に愛されないとできない取り組みです。
TOBは、親会社がDeNAになったからと言ってすぐに株を売っていただける訳ではなかったです。約5年かけてお客様が来ていただけるようになり『DeNAになら任せてもいいな』という信頼を築きあげた結果、皆様にご理解いただけたのではないかと思っています」
信頼を勝ち得るまでの5年間、ファンに魅力を感じてもらう斬新な施策を数多く行ってきた。その裏側には地道な取り組みがあった。
「プロ野球チームとして地域にどう愛されるかを考えると、それは横浜市民に寄り添うことだなと。社内で長い時間をかけて検討を重ねました」
そのために、ファンの意見を積極的に収集するべくアンケートを実施。球団事務所へ招き、職員と意見交換も行った。定期的に行うことで常にニーズを押さえられるようにしている。
例えば、横浜のイメージは何かをヒアリングした。そこで、得られた回答は「おしゃれ」「洗練されたイメージ」というものが多かったという。
球団はその意見を踏まえて、ファッション性のあるグッズの制作やライフスタイルショップ「＋B」などとニーズを形にしていった。
「ユニフォームのカラーも一度変更しています。14年まではネイビーだったのですが、15年から横浜ブルーという明るい青をシンボルカラーにしました。これも横浜のイメージに寄り添うカラーを設定し、ユニフォームに反映してきました」
アクティブサラリーマン、そして次のステップへ
続いては、球団が行ってきた施策の特色について。ここではベイスターズの話を紹介する。
本スクールでもたびたび講義内で事例が挙げられてきたが、11年に参入以降取り組んできたことは、他球団やスポーツ界以外からも注目を集めてきた。
当時からの意図を鐵さんは、
「我々は参入してから短期決戦を仕込まないと、市民やファンのみなさんからの信頼を勝ち取れないし、未来を描けないと考えていました。横浜には野球文化が元々根付いていますし、98年当時学生や子どもだった世代というのを考慮しながらターゲットを設定しました」
と語った。そこで球団がターゲットに設定したのが”アクティブサラリーマン”（当時のワード）。20～30代の働く男性で、アウトドアやイベントへ出掛けることに余暇を使う傾向のある方々である。
球団は自らが球場に足を向けたくなる企画や、家族や友人を誘いたくなるような企画（イベント、グッズや飲食等）を次々と打ち出していった。
球場に来た家族や同僚が野球以外でも楽しめるようにオリジナルビールの製作・販売や専用シートを用意。その代表例がスタジアム最上段にある「スカイバーカウンター」。10リットルのビールサーバーが付いており、大人数での観戦を楽しむことができる。
これらの取り組みを通じてリピーターがどんどん増え、「また球場に行きたい」と思える価値をつくりあげてきた。ただ、アクティブサラリーマンというワードが注目されたのは19年ごろまで。ベイスターズはすでに次のステップに進んでいる。
「数年間の描き方として、向こう10年・20年後とさらに発展させるには子どもたちにも価値を感じてほしいと思っています。ターゲットや地域性によって球団経営も変わってきます」
と鐵さんは説明した。
2人がそれぞれ語った”情熱”
セッション終了後には質疑応答コーナーが設けられ、各回同様に多くの質問が寄せられ講義とパネルディスカッションが終了した。
本スクールの受講生は、今後ビジネスパーソンとしてさらに活躍したい志を持って受講している。講義終了後、2人にここで学んだことを活かすためのマインドを訊いた。
「根本的には”情熱を持って”取り組んでほしいなと思っています。相手にどう楽しんでいただけるかというマインドを持って、日々仕事ができるとより良くなるのではないかなと。
特にスポーツ業界ですと、たくさんの方が集まってくるべき業界だと思うんですよね。スキルとか経験を持って同じ組織としてやることもありますし、違う会社同士として関わっていくっていうのも形の1つですが、根底にはぜひ情熱を持った方と一緒に仕事をしたいなと考えています」（鐵さん）
講義で登壇したイーグルスの渡辺さんもその情熱を持って仕事をしている。東北の野球を強くしたい、発展させたいという気持ちが困難なことも実現へと導いた。
受講された方へのメッセージにおいてもその”想い”は欠かせないピースとなっている。
「”これを実現させたい”という想いが大事だと考えています。細かい仕事がたくさんあって”業務”と感じてしまうことでも、『東北の野球を強くしたい』
という想いがあったから細かい仕事もできましたし、辛い交渉もできた。そういった点も今後の参考にしていただけたら嬉しいですね」
午後のプログラムではワークショップが行われた。第3回から慶應義塾大学法学部 教授/弁護士の田村次朗さんを講師として招き、”人を巻き込む対話力”・”相手を動かす交渉力”をテーマに展開。キャリア形成のスキルアップに役立つテーマでこちらも盛り上がりを見せた。
そしてここまで本スクールもいよいよ次回最終回、球団トップそして今ユニフォームを着ているコーチ、OBが会するトークセッションという豪華企画で締めくくられた。
（最終回へつづく）
