第104回ツール・ド・フランスがいよいよ7月1日、ドイツのデュッセルドルフで開幕する。全23日間におよぶ世界最大の自転車ロードレースは、総距離3540kmの旅を経て、7月23日にパリ・シャンゼリゼに凱旋。1日ごとの区間勝利を争う戦いと同時…

 第104回ツール・ド・フランスがいよいよ7月1日、ドイツのデュッセルドルフで開幕する。全23日間におよぶ世界最大の自転車ロードレースは、総距離3540kmの旅を経て、7月23日にパリ・シャンゼリゼに凱旋。1日ごとの区間勝利を争う戦いと同時進行で、その日までの所要時間が一番少なかった選手が総合成績の首位となり、黄色いジャージー「マイヨ・ジョーヌ」を身につけることが許される。



4度目の優勝を目指すフルーム。得意の個人TTが短くなった影響は?

 ツール・ド・フランスはいわば、このたった1枚しかないマイヨ・ジョーヌをめぐる戦いだ。最終的にパリの表彰台でマイヨ・ジョーヌを手中にした選手が総合王者となる。

 ツール・ド・フランスの特徴のひとつは毎年コースが変わることだが、2017年のコースは山岳の要素が色濃いのが非常に興味深い。序盤戦はドイツ、ベルギー、ルクセンブルクを歴訪し、その後に六角形をしたフランスをジグザグに進み、ヴォージュ、ジュラ、ピレネー、中央山塊、アルプスを縦走する。フランスの5大山系すべてを登るのは、1992年以来のことだという。

 国際ルールで定められた休息2日をのぞくと、行程は全21区間。その内訳は平坦=9、丘陵=5、山岳=5、個人タイムトライアル=2。タイム差のつきやすい頂上ゴールは、第5ステージのラ・プランシュ・デ・ベル・フィーユ、第12ステージのペラギュード、第18ステージのイゾアールの3つだ。

 最難関の山岳コースは、ナンテュア~シャンベリー間を走る第9ステージ。さらに、ピレネーで行なわれる第13ステージは「距離101kmと短いので、有力選手のアタックが連発し、意外な展開になる可能性もある」と有力選手がこぞって警戒する。

 今大会、3年連続4度目の優勝を狙うのがイギリスのクリストファー・フルーム(チーム・スカイ)だが、王者のポジションを守るのはたやすいものではない。得意とする個人タイムトライアルの合計距離は、2016年の54kmから36.5kmへと減少した。3連覇に挑んだ6月上旬のクリテリウム・デュ・ドーフィネでは調子が上がらず4位。マイヨ・ジョーヌに黄信号が灯(とも)るものの、「最終調整は順調だ」と本人はアピールしている。

「マイヨ・ジョーヌを獲得するための道のりは毎年、異なるからね。4度目の総合優勝を目指すモチベーションはとても高いよ。今やるべきことは、チーム全員が万全の準備をすることのみ。だから、開幕が待ち遠しい。他のステージレースにはないワクワク感がある」

 フルームを援護する8人のアシスト陣は鉄壁だ。平坦コースで先頭に立ってペースメークする係、山岳でフルームを牽引する役などをうまく揃えた。5月のジロ・デ・イタリアでエースに起用されながらケガでリタイアしたゲラント・トーマス(イギリス)も復調し、フルームの希望で急きょメンバーに加わった。

 2018年からツール・ド・フランスを含む3大大会(残りはジロ・デ・イタリアとブエルタ・ア・エスパーニャ)は、1チームの編成が1名減の8選手となる。これは、チーム・スカイのように完璧な守りでエースを最終日まで逃げ切らせようという戦略を打破することが狙い。アシストがひとり少なくなることで、ライバル選手や相手チームの動きを封じ込めることができず、ドラマチックな逆転劇が演じられるだろうという主催者側の皮算用だ。逆に言えば、それだけチーム・スカイのチーム態勢は堅いということだろう。

 ケニア・ナイロビで生まれ、南アフリカのチームでデビュー。アシスト生活を経てエースになったフルームは現在32歳。「2017年にまずは4勝目。そしてさらに1勝して、ツール・ド・フランス最多勝記録の5勝に並びたい」。過去4人の最多タイトルホルダーは30~31歳で5勝目を達成している。フルームに残されたチャンスはそれほど多くない。今年は確実に勝っておきたいレースだと感じているのは間違いないだろう。

 フルームのライバルは、コロンビアのナイロ・キンタナ(モビスター・チーム)、スペインのアルベルト・コンタドール(トレック・セガフレード)、イタリアのファビオ・アル(アスタナ・プロチーム)だ。

 キンタナは2013年に総合2位と山岳賞・新人賞を獲得した登りのスペシャリスト。2014年はジロ・デ・イタリアに集中して総合優勝を達成し、ツール・ド・フランスは欠場した。2015年のツール・ド・フランスは総合2位と新人賞。2016年は総合3位だった。今季は「2大大会制覇」という目標を掲げてシーズンイン。5月のジロ・デ・イタリアでは最終日に逆転されて、その目標はもう達成できない状況となったが、すでにツール・ド・フランスの山岳コースをにらんだ再調整を終えている。

 一方のコンタドールはジロ・デ・イタリアを欠場して、この大会に照準を合わせている。今年はアメリカのトレック・セガフレードに移籍し、8年ぶり3度目の総合優勝を狙っている34歳。チームの布陣はコンタドールをエースにアシスト陣を固めているが、日本の別府史之がメンバーから外れてしまったのは非常に残念だ。

 アルは地元サルディーニャ島で開幕したジロ・デ・イタリア100回大会に懸けていたが、大会直前に故障。ターゲットをツール・ド・フランスに変更し、6月25日のイタリア選手権を制して乗り込んでくる。今年のアスタナ・プロチームは、2014年のツール・ド・フランスを制したヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)が他チームに移籍。ジロ・デ・イタリアではアルをエースに、ツール・ド・フランスではヤコブ・フグルサング(デンマーク)をエースに起用する予定だったが、アルのジロ・デ・イタリア欠場とその後の復活によってツートップで戦う方針に修正した。

 また、今年のツール・ド・フランスにもボーナスタイムが3年連続で設定された。タイムトライアルを除く集団スタートのステージごとに1位10秒、2位6秒、3位4秒が総合時間から引かれるので、僅差の戦いとなった場合、ゴール前のつばぜり合いも見ものとなるだろう。

 注目の日本勢では、新城幸也(あらしろ・ゆきや/バーレーン・メリダ・プロ・サイクリングチーム)が7回目の出場を決めた。中東の新チームに移籍する段階からツール・ド・フランス出場を目指し、監督らと相談をしながら参戦スケジュールを構築。総合優勝を争うような絶対的エースがいないことから、新城自身が自らの区間勝利を目指してアタックするチャンスもある。日本勢初のステージ優勝も期待できそうだ。