5月7日、木南記念陸上の女子100mハードルで優勝した寺田明日香(ジャパンクリエイトグループ)。2021年の東京五輪出場を経て、昨年は5月のセイコーゴールデングランプリで4位(13秒07/日本人2位)になりながらも、「世界のトップとの差を…

 5月7日、木南記念陸上の女子100mハードルで優勝した寺田明日香(ジャパンクリエイトグループ)。2021年の東京五輪出場を経て、昨年は5月のセイコーゴールデングランプリで4位(13秒07/日本人2位)になりながらも、「世界のトップとの差を埋めるために新たな挑戦をする」と世界選手権代表選考会の日本選手権を欠場し、8月以降は競技会にも出場していなかった。



日本女子の100mハードル界を牽引する寺田明日香(いちばん手前)

 そして33歳で迎えた今季、3月に200mでシーズンインし、4月29日の織田記念陸上では、100mハードルの予選で13秒04のタイムを出したものの、ハムストリングに張りが出たために決勝は回避していた。

 木南記念は雨のなか、予選を13秒09で通過すると、決勝では鋭い走りで前半からリード。それまでの自己記録を0秒01更新する日本歴代2位タイの12秒86で優勝と、実力の高さを改めてアピールした。

「雨だったのでタイムは気にせず、自分が練習してきたことを出せればいいかなと思いながら走りました。ちょっとだけ自己記録更新でしたが、すごくいいレースをしたという感じはしていないし、そこはまだ上がっていけると思っているので喜ぶのはもう少しあとにしようかなと思っています」

 自分のゴールタイムを確認しても冷静だったことを、こう説明した寺田。彼女を指導する高野大樹コーチは決勝の前に「今日の雨の条件で12秒8台が出せれば、12秒6台も見えてくると(寺田と)話していました」と口にしていたが、その思惑通りの結果となった。

 寺田も「冬の間の練習もよかったし、ここ最近の動きも上がっていたので、『これなら自分の体の状態がよければ12秒67くらいは出るんじゃない?』と言っていたんです。だから今日の感じで86だったら、タイムは一旦置いておいて『いいのかな』と思います」と笑顔を見せる。

 昨シーズン、大会から離れていたことについてはこう話す。

「競技を休んだのはよかったと思います。みんなが記録を出したのを見て『あぁ、走っておけばよかったかな』と思う瞬間はあったけど、自分が強化すべきところはやらなければいけないとフォーカスしながらやってきたので。特にスプリントはかなり重点的にやってきました。動きに関しては器用なほうなので、それを武器にしていこうと考えて、テクニック的なものを入れ始めて力だけではなく効率というのを求めたので。それに精神面でも、ずっと行けなかった五輪に1回出られたことで、何か疲れみたいなものもありました。そこでパッと休んで『もう1回走りたい』という気持ちが湧いてきたのは大きいと思います」

 高校時代から注目されながらも、目標にしていた2012年ロンドン五輪出場を果たせなかったあと、2013年日本選手権で予選落ち後に引退し、結婚と出産を経験した。そのあとは女子ラグビーにも挑戦したが、右足首を脱臼骨折して手術を行ない、2019年からは再び走り始めた。

 そしてその年の8月に13秒00の日本タイ記録を出すと、9月には12秒97を出し、2021年は12秒96、12秒87と日本記録を更新。その歴史を切り拓く走りが間違いなくほかの選手たちを刺激した。4歳下の青木益未(七十七銀行)も12秒87で並び、東京五輪には木村文子(エディオン)も含めてフルエントリーした。

 さらに休養していた昨年は、5歳下の福部真子(日本建設工業)が日本選手権優勝の直後に3人目の12秒台となる12秒93を出した。そして7月の世界選手権では12秒台を連発して青木とともに準決勝進出を果たすと、12秒12の世界記録が生まれた超ハイレベルな第1組で8位ながら、12秒82の日本記録をマーク。さらに帰国後の4戦すべてで12秒台を出す好調維持で記録を12秒73まで伸ばした。

 今年は社会人3年目の田中佑美(富士通)が、悪条件だった織田記念を12秒97で優勝。さらに続くこの木南記念でも寺田を終盤追い上げ、12秒91と自己記録を伸ばした。

「若い選手が強くなってワクワクしていますね。レースの時はみんなピリピリしているけど、そこを離れたら(福部)真子ちゃんや青木(益未)さんとは動画を見ながら何が必要かとか、海外の選手と何が違うのかなど、技術的なことも話してきました。いろんな知識をみんなで開示して共有していかないと若い選手が出てこないから、ぜんぜん隠す気はないですね」と寺田が話すように、オープンな関係があるからこそのそれぞれの成果だ。

 現時点での目標は、福部がすでに突破している世界選手権標準記録の12秒78を突破して8月の本大会に出場することだが、寺田は「そこに固執しすぎないようにしたい」とも言う。

「目標はあくまでも、7月1日からが対象になるパリ五輪の参加標準記録12秒77の突破なので、それを今年中に実現できればいいですね。やっぱり『五輪の借りは五輪で』じゃないけど、私は観客が入っている五輪を経験してないので、それを経験したいし、みんなにもそこで観てもらいたいというのもある。自分からというより、周りからそれを固められたというのもあるけど(笑)、今年中に目標の12秒6台をパッと出してそのほかも12秒7台で安定していけば、来年のパリ五輪にもつなげられると思うので。『明日香さんには負けられないぞ』と思ってもらえるのは私もすごくうれしいので、そういう存在になれるようになりたいですね」

 今回の結果で、5月21日のセイコーゴールデンGP出場が確定した寺田。次は福部や青木とともに世界の12秒台選手と競り合い、明確な目標となったパリ五輪へ向けた、さらなる飛躍を目指す。