風間八宏のサッカー深堀りSTYLE独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏に、チャンピオンズリーグ準…

風間八宏のサッカー深堀りSTYLE

独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏に、チャンピオンズリーグ準決勝を戦うマンチェスター・シティを分析してもらった。レアル・マドリード戦は、どんな点が勝利へのポイントになるだろうか。

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今シーズン、ゴールを取りまくっている、マンチェスター・シティのハーランド

【ハーランド加入で今までにない強さ】

 今シーズンのチャンピオンズリーグ(CL)も佳境に突入し、いよいよ5月9日(現地時間)に準決勝第1戦が行なわれる。今回の対戦は、レアル・マドリード(スペイン)対マンチェスター・シティ(イングランド)と、イタリア勢対決のミラン対インテルの2カードとなるが、とりわけ前者は昨シーズンも準決勝で激突した必見のカードで、事実上の決勝戦とも言われる注目の対決だ。

 そこで、独自の視点でCLの魅力を伝える風間八宏氏が、この2チームについてそれぞれ解説してくれた。まずは、悲願の初優勝を目指しているマンチェスター・シティから、ここまでの印象を聞いた。

「現在のシティはとてもいい状態ですね。特に経験のある選手と伸び盛りの若手がバランスよく揃っていて、年齢的な要素も含めてチームとして成熟しています。しかし何より大きいポイントになっているのが、今シーズンからアーリング・ハーランドという桁違いのストライカーが加わったことでしょう。

 ペップ(ジョゼップ・グアルディオラ監督)が作るチームは、ボールを保持しながら相手陣内に押し込んで崩すサッカーを基本としていますが、そうなると、ゴール前の狭いエリアで仕事ができるストライカーでなかなかフィットできる選手がおらず、最終的にゼロトップ気味のサッカーになってしまう傾向がありました。

 しかし、ハーランドは大きくて速いだけでなく、ペナルティーエリア内のような狭い場所でもゴールを決めることができます。確かに最初の頃は各選手のテリトリーの整理に時間がかかりましたが、それもわずかな期間。かなり早い段階でハーランドがフィットしました。そういう意味で、ラストピースが加わったシティは今までにない強さがあります。

 ここまで危なげなく勝ち上がることができたのも、チームとしての安定感に加え、ハーランドというストライカーが実力通りの力を発揮できているからだと思います」

【デ・ブライネがたくさんボールに触れるかどうか】

 では、そんな強さを誇るシティは、具体的にどのような戦い方を特徴とするチームなのか。ストロングポイントも含めて、解説してくれた。

「前提として、このチームは自分たちのかたち、枠組みをしっかり持っています。選手たちのポジションの入れ替わりも計算されていて、それをみんなが共有しているので穴が開かない。それが安定して戦えている要因になっています。

 たとえば、準々決勝第2戦のアウェーでのバイエルン戦では、第1戦で3点差がついていたこともあって、逆転を目指すバイエルンが開始から攻勢に出ました。その結果、通常であれば自分たちが敵陣でボールを保持するシティが、あの試合はその逆の立場になり、バイエルンが押し込む時間が長くなりました。

 ところが、3点のアドバンテージがあったからか、シティはイタリアのチームのような強固な守備を自陣で披露。いつもは押し込まれた時でも前線に残っているハーランドも、あの時間帯では一緒になって守備に加わっていました」

 攻めてよし、守ってもよし。今シーズンのシティが順調に4強まで勝ち上がった背景には、攻撃のみならず、安定した守備もあったというわけだ。

 続けて、風間氏はシティの好不調を計るバロメーターについて言及した。

「基本的にこのチームが目指しているのは、押し込んで攻撃すること。それが最大の武器ですから、そういう意味では、計算された枠組みのなかで自由度の高い動きをするケビン・デ・ブライネがたくさんボールに触れるかどうかが、調子を計るバロメーターと言えます。

 しかもデ・ブライネは、相手に押し込まれている状況でも、ハーランドと2人だけで速攻からゴールをアシストしたり、自ら決めたりしてしまう力もあります。相手にとっては、自分たちが押し込んでいる状況でも脅威に感じる選手が前線に2人いるので、一瞬たりとも油断ができない。本当に止めるのが難しい選手だと思います」

【守備のキーマンはGKエデルソン】

 では、レアル・マドリードとの準決勝を見るうえで、攻守のキープレーヤーとなりそうな選手は誰なのか。

「このレベルになると全員がキーマンと言えますが、敢えて選ぶなら、攻撃はデ・ブライネで、守備はGKのエデルソンですね。

 デ・ブライネについては先ほど説明した通りで、このチームの攻撃を左右する選手。一方のエデルソンは、バイエルン戦もそうでしたが、試合のなかで必ずおとずれる相手の決定機を防ぐ能力が高い。特にレアル・マドリードのような強豪と戦う場合は、1試合のなかで何度かピンチがおとずれるはず。それを防げるかどうかが勝負の行方を大きく左右します。

 ゴールはストライカーでなくても決められますが、GKはひとりしかいない。最後のところで1点を防げるかどうかは、CL決勝トーナメントのようなハイレベルな試合では勝敗に直結するので、ある意味、ストライカーよりも重要なポジションと言えます」

 一瞬の隙、わずかなミスさえ許されないのがCLの戦い。風間氏が指摘するように、特に最近はGKのパフォーマンスがそのまま勝敗を決めるケースが多い。

 最後に、シティがディフェンディングチャンピオンのレアル・マドリードを倒すためには何が必要なのか、風間氏がポイントをあげてくれた。

「相手がレアル・マドリードだとしても、おそらくシティがボールを持てるような試合展開になるでしょう。そんななかで、しっかり仕留めることができるかどうかが、シティが勝つための条件になると思います。

 ただし、相手は守備が強いうえ、ティボー・クルトワという経験豊富で世界最高レベルのGKがいます。ゴールを奪うことは簡単ではありません。だからこそ、押し込んで攻めるにしても、カウンターで攻めるにしても、チャンスで決められるかどうかが重要になります。

 そういう意味でも、ハーランドの加入は大きいと思います。逆にレアル・マドリードにとっては、ハーランドを抑えることは容易ではないでしょう。その攻防も、この対戦を見るうえで、大きな見どころになると思います」

 果たして、シティは14回の優勝を誇るレアル・マドリードを破って、昨シーズンのリベンジを果たせるのか。見逃し厳禁のカードと言える。

風間八宏 
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手指導、サッカーコーチの指導に携わっている。