高木豊インタビュー 後編(前編:セ・パのルーキーを評価。「井端弘和より上にいくかも」と絶賛の内野手も>>) 今季のパ・リ…
高木豊インタビュー 後編
(前編:セ・パのルーキーを評価。「井端弘和より上にいくかも」と絶賛の内野手も>>)
今季のパ・リーグは、開幕前に下馬評が低かったロッテが健闘を見せ、大補強もあり優勝候補と目されていたソフトバンクが5連敗を喫するなど、序盤とはいえ波乱の予感が漂っている。高木豊氏に、パ・リーグの現状と今後の展望について聞いた。

ここまで3勝の佐々木をはじめ、チームが好調のロッテ
【戦力をうまく使えていないソフトバンク】
――まず、昨オフに大補強を敢行したソフトバンクの戦いぶりをどう見ていますか?
高木豊(以下:高木) 状態がいいとは言えません。打線が繋がってこないのと、柳田悠岐のホームラン数(2本)にも表れているように、(アルフレド・)デスパイネや(ジュリスベル・)グラシアル、松田宣浩らがいた以前に比べて破壊力が落ちています。
1番バッターが決まらないのも苦しいです。牧原大成、周東佑京、ロッテの佐々木朗希と対戦する時は中村晃が入ったり......。打順は回ってくるリズムなどもあるので、そこを簡単に考えないほうがいいと思います。後ろには近藤健介や柳田、栗原陵矢らが控えていますし、1番さえ固定できれば得点力は上がりますよ。
――昨シーズン、多くの試合で1番を務めた三森大貴選手は調子が上がらず二軍で調整していましたが、4月25日に一軍に昇格しましたね
高木 戦力が豊富すぎて、首脳陣が起用法に迷っている部分もあると思います。選手の立場からすれば、「打たないと使ってもらえなくなる」という危機感はある一方で、右ピッチャーだったらこの選手、左ピッチャーだったらこの選手となったりする。責任感がどんどん薄くなり、焦る気持ちだけが大きくなる可能性があります。
あと、気になるのは栗原のサードの守備。動きを見ていると「厳しいな」と。キャッチャー出身ということもあって、慣れていけばという見方もあると思いますが、1年間トータルで考えたら、栗原にとって相当な負担になると思います。僕が起用するならファーストか外野です。戦力がありすぎて他にも使いたい選手がいるから、「栗原ならサードもできるだろう」といった考えになるのは怖いですね。
――千賀滉大選手が抜けた先発ピッチャー陣はどうですか?
高木 藤井皓哉が先発になったり、穴埋めはできていると思います。和田毅、東浜巨、石川柊太も頑張っていますが、歳を重ねていくと力も徐々に落ちていく。そう考えると、若手の先発ピッチャーがもっと出てきてほしい。投手力は、オリックスからだいぶ引き離された感があります。
【競争がうまく作用しているロッテ】
―― 一方、開幕カードのソフトバンク戦で3連敗を喫したものの、14勝10敗(4月30日時点、以下同)で首位タイのロッテはどう見ていますか?
高木 チームに一体感がありますね。この一体感には「競争」も含まれています。平沢大河を1番に抜擢したり、ルーキーの友杉篤輝、藤岡裕大をショートで競わせたり。キャッチャーも松川虎生を2軍で修行させ、田村龍弘、佐藤都志也、江村直也らで競わせています。
平沢をはじめ、今まで実力があるのに使われてこなかったり、競争したくても競争させてもらえなかった選手たちが競争できている状態。チームが活性化して、それがチームの"輪"になっているという感じです。
今は髙部瑛斗と荻野貴司が離脱しているので、チーム関係者に「戻ってきたらどうするの?」と聞きましたけど、「藤原恭大はちょっと外せないし、そうなったら山口航輝をファーストにして......」と迷いを口にするくらい、戦力が余り出しているんです。ファーストで山口を起用したら井上晴哉が出られなくなりますし、DHの競争も激しくなりますね。
――各ポジションで競争意識が芽生え、チームがうまく回っているわけですね。
高木 そうでね。あと、ロッテは足を使える。パ・リーグはエース級のピッチャーが多いですし、最近はホームランで決着がつく試合も多いですが、長打が出ない場合はやっぱり足なんです。
藤原と友杉がエスコンフィールドでの日本ハム戦で1、2番コンビを組んだ時なども、一・三塁の場面をよく作っていました。友杉は三遊間寄りの平凡なショートゴロでもセーフになりますし、相手チームが足を警戒してかなり前に守るようになると、今度はヒットゾーンが広くなりますしね。
――先発ピッチャー陣はどうですか? 佐々木投手は期待通りのピッチングを見せ、ローテーションの軸として牽引しています。
高木 大黒柱ですよね。相手チームは、3連戦の頭に佐々木に投げられるとバッティングが狂う傾向がある。この前のソフトバンク戦でも、ソフトバンク打線は佐々木の真っ直ぐに対して「1、2、3」のタイミングで打ちにいっていたんですが、次の試合で西野勇士をパッタリ打てなかった。3戦目にはちょっと持ち直しましたけど、やっぱり感覚的にバッティングはおかしくなりますよ。
――リリーフ陣の運用はどう見ていますか?
高木 吉井理人監督はピッチャーを見る目が確かですし、柔軟に対応していますね。例えば、クローザーを固定してしまうと、やられた時に配置転換をしにくくなるのであえて決めず、相手の打順を見るなどしながら柔軟に起用している。選手のほうも気が楽だと思います。
【西武は投打が好調。オリックスは打線が活発】
――山川穂高や源田壮亮を欠きながら、13勝11敗と上々のスタートになった西武はどうですか?
高木 オープン戦では本当に打てなくて、松井稼頭央監督に「どうやって点とるの?」と聞いた時も「走らせるしかないですかね? でも、なんとかしますよ」という話をしていました。でも、新外国人の(デビッド・)マキノンと(マーク・)ペイトンの2人が日本の野球に合ってきた。この2人が繋ぐ野球をしてくれるんですよ。それと、愛斗が1番バッターとして、気持ちを出して引っ張ってくれています。
源田の代わりにショートに入っている児玉亮涼もしぶといし、中村剛也がしっかり山川の代役を務めています。ここ数年は不振だった外崎修汰も好調です。オープン戦の状態からすると、打線がここまで繋がるとは思っていませんでしたし、十分に戦えるメンバーになっていますね。
――防御率1.50の髙橋光成をはじめ、先発ピッチャー陣の安定感が際立っています。
高木 髙橋や今井達也、松本航もいいし、隅田知一郎も昨シーズンから続く連敗をやっと止めましたしね。平良海馬の先発転向も大きいです。クローザーの増田達至は心配で1点差では出せないくらいですが、西武の投手力は他チームの関係者に聞いても「いい」と言いますよ。
――2連覇中のオリックスは、チーム打率(.256)がリーグトップ、チーム本塁打数(22本)がリーグトップタイと、打線が今シーズンはここまで好調です。
高木 紅林弘太郎が、昨年に悪かった分を取り戻そうと頑張っていますね。新外国人の(マーウィン・)ゴンザレスもいいところで打ってくれるし、複数ポジションを守れるのが貴重です。森友哉と杉本裕太郎も好調で、今シーズンは破壊力がありますね。
ピッチャー陣では山下舜平大が頭角を現わしてきましたし、投打に戦力が充実しています。中嶋聡監督の選手起用や采配も含めて、オリックスは徐々に上がっていくでしょう。
【楽天は「浅村頼み」日本ハムは起用法が「理解できない」】
――出遅れてしまった楽天(9勝14敗)と日本ハム(9勝16敗)はどう見ていますか?
高木 楽天は浅村栄斗が打ったら勝てる、打てなかったら負けるというような感じで、負担が大きいような気がします。あと、開幕からしばらく1番を任されていた辰己涼介が定着していくかと見ていたら、数試合でダメですもんね。
左バッターばかりだったので、阿部寿樹や伊藤裕季也、新外国人の(マイケル・)フランコら右バッターを起用したりしていますが、厳しい状況ですね。
――日本ハムはどう見ていますか?
高木 日本ハムは外野の万波中正をファーストに入れたり、内野の(アリスメンディ・)アルカンタラを外野に回したり、野村佑希をファースト、清宮幸太郎をサードで起用したり......何か狙いはあるにしても、ちょっと理解ができないんです。
万波などは外野をやらせたら、肩は強くて身体能力もあって一流ですよ。でも、内野を守るからおかしくなるのではないかと。バッティングにも影響があると思いますよ。昨年ほどメンバーをコロコロ変えたりはしていないですが、ある程度は守備位置も考えて使ってあげないと負担になると思います。
投げるほうでは伊藤大海が勝てていません。投球フォームのバランスが悪く、左手が"死んでいる"というか、右手1本で投げている感じがします。球速は出ていますが、コントロールが甘い。鈴木健矢が3勝するなど頑張っていますが、伊藤が復調してくれないと厳しいでしょうね。
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に解説したYouTubeチャンネルも人気を博している。